連載
posted:2018.7.31 from:福岡県糸島市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。
writer profile
CHIHARU HATAKEYAMA
畠山千春
はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森
食べもの・エネルギー・お金の自給を目指す〈いとしまシェアハウス〉。
先日から新しい試みとして「スマートフォンのエネルギー自給」の実験を始めました。
我が家には、以前ワークショップでつくった太陽光発電機があるのですが、
実はまだすべてのエネルギー自給を達成するまでには至っていません。
それならまずは、暮らしに必要不可欠なものから小さく始めてみたほうが
エネルギー自給の実感が持ちやすいのでは?
ということで、
・ほかの家電と比べて格段に省エネ
・自給が比較的簡単
・身近な電子機器
であるスマホの電力自給の挑戦が始まりました。
今回導入したのが、太陽光パネルがついたモバイルソーラーチャージャー。
シェアハウス住人にひとり1枚配布して、
天気のいい日は、お布団を干すようにパネルを庭に出して発電します。
このソーラーチャージャー、はたして日常生活で
十分な役割を果たしてくれるのでしょうか。
このパネルの魅力は、iPhone6が約3回充電できるくらいの、
容量8,000mAhのバッテリーが内蔵されているところ。
バッテリーがないと発電している間しか充電できないため、
充電中にスマホが持ち歩けずにちょっと不便なのです。
バッテリーが付属していれば、夜に溜まった電気をスマホに充電できてとっても手軽。
また、ソーラーチャージャーのエネルギーは満タンになったけれど、
まだ日差しは刺すように強い。なんだかもったいない……
そんなときは、別のモバイルバッテリーを接続し、
発電と同時にモバイルバッテリーを充電すればさらに効率アップ。
調子のいいときは、内蔵バッテリーとモバイルバッテリーを合わせて
1日で14,000mAhほど発電したこともありました。
iPhone6は1回のフル充電が約1,800mAhなので、これだけの電気があれば
数日曇りが続いて発電できなくても、溜めておいた電気でやりくりすることができます。
「コンセントをつながなくても、何もないところからエネルギーがつくれた! 」
初めてこのパネルでスマホを充電したときは、なんだか不思議な自信が湧き出てきて、
達成感でいっぱいになりました。
実験を続けて1か月が経とうとしていますが、
今のところ、晴れの日はスマホのエネルギーをほぼ太陽光で賄えています。
曇りの日の電力自給はさすがに厳しいですが、晴れの日につくった電気を調整して使えば
スマホのエネルギー自給ツールとして十分効果があるのではないでしょうか。
太陽の傾きによって場所を移動したり、バッテリーの量を確認したりと、
ちょっとした手間はかかりますが、自分でつくった電気はなんだか愛おしい。
電気に愛おしさって不思議な気もしますが、
エネルギーの自家菜園、といったら伝わるでしょうか。
この実験を重ねることで、いつかはエネルギー自給率100%を目指していきたいですね。
Page 2
こういったソーラーチャージャーは災害時にも役に立ちます。
甚大な被害を生んだ西日本豪雨では、
糸島市に移住して5年の私たちも、初めての避難を経験しました。
我が家は山の谷間にあり、土砂崩れ警戒区域にあたります。
集落は年配の方が多いため、移動する足がない方たちにも声をかけ、
必要であれば一緒に避難する必要があります。
しかし、地震などの直接的な自然災害に比べて、
大雨による避難は、決断するタイミングが難しい。
声をかけたご近所さんたちのなかには「これくらいならまだ大丈夫」
という方もいらっしゃったため、避難することに迷いもありました。
どのくらいの状況になると危険なのかが曖昧で、
逃げ遅れてしまう人がいるのもわかるような気がします。
結局その日は、すぐ近くで土砂崩れが起きたのをきっかけに、
少し離れた平地の公民館へ避難することになりました。
公民館は明るくきれいで、近くにコンビニもあり、
たった数分車で走っただけの場所でも、警戒区域から外れた日常があり、
土砂崩れの不安から少しだけ解放されてほっとしたのを覚えています。
幸いひと晩で家に帰ることができましたが、
土砂崩れによる電車の脱線で市内へ出る電車がストップしたり、
深夜、立て続けに地震が起こったりで、
土砂崩れが起きたりしないか、ハラハラしながら数日を過ごしました。
こういった災害発生直後は、ライフラインが停止することが予想されます。
山陽新聞によると、被害の大きかった岡山県は
今回の豪雨で延べ約5万1,200戸が停電したと伝えられています。
なかには電気の復旧に約1週間かかった地域もあったのだとか。
スマホは連絡手段でもあり、災害情報を受けとるメディアでもあり、
災害時に欠かせないツールです。
だからこそ、こういったときに “エネルギーがつくれる手段”が手元にあるだけで、
気持ちの持ちようががらりと変わります。
個人的な気持ちとしては、機能的な部分よりも
災害時に普段肌身離さず使っているiPhoneが使えないという
心細い精神状態から解放されるのが、何よりうれしく感じました。
ソーラーチャージャーを普段から使っていれば、
発電・蓄電のコツも掴んでいますし、いざというときに
「ケーブルがない」「壊れていた」「自然放電で容量が空になっていた」
というトラブルも回避することができます。
こうして考えると、あらためて「つくる暮らし」は災害にも強いんだな、と感じます。
このタイプの発電機であれば、モバイルバッテリーを追加で買っても
1万円以内で一式揃えることができます。技術の進歩、ありがたい!
楽しいエネルギー自給の第一歩として、防災の備えとして。
この機会に自家発電暮らし、始めてみませんか。
我が家で実験したソーラーチャージャー(※こちらはバッテリー内蔵なし 7000円程度)、
10,000mAhのモバイルバッテリー(※2000円程度)はこちらです。
興味がある方はどうぞ。
Page 3
こうしたテクノロジーによる災害対策も大切ですが、
今回特に頼もしく感じたのは、地域の力。
シェアメイトが一緒にいる心強さや、地元消防団の活動には本当に助けられました。
消防団とは集落の若者が所属する消防団体ですが、訓練が多く、
消防ポンプ操法大会前は、週に4回練習があることも。
本音を言ってしまうと、仕事でクタクタになりながら練習に向かう夫を見て、
こんなに出席する必要があるのかなあと疑問に思う気持ちもありました。
けれど今回の災害で、消防団が集落を巡回し、声かけをしてくれたり、
土嚢積みや排水作業など、土砂崩れが起きそうな箇所を補強してくれたり、
地元をよく知る人たちだからこそできる活動に救われました。
集落のためとはいえ、消防のプロではない夫を
危険な場所へ送り出すのは不安な気持ちもありましたが、
消防団メンバーや、その人たちを支える家族によって、
私たちの暮らしが支え守られているのだなと感じました。
あの豪雨のなか、その存在がどれだけ心強かったか。
「自分たちの地域は自分たちで守る」
この文化の土台をつくってきた地域の方々に、尊敬の念を抱きつつ、
彼らが築いた地域の力を引き継ぎ、これからも育んでいけたらと思っています。
Page 4
避難所から帰ってきて、初めてのごはん。
高菜チャーハンに、ポテトサラダ、イノシシレバーのミント添え、
手づくりおからの白和え。
いつもの食卓はやっぱりホッとします。
Feature 特集記事&おすすめ記事