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“つくる”は楽しい!
食べ物・お金・エネルギーを
自給する福岡県糸島市
〈いとしまシェアハウス〉の始まり

糸島での自給自足の日々を綴った
―田舎暮らし参考書―
vol.001

posted:2018.4.3   from:福岡県糸島市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。

writer profile

CHIHARU HATAKEYAMA

畠山千春

はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森

こんにちは。福岡県糸島市で〈いとしまシェアハウス〉を運営する畠山千春です。
関東から自然豊かなこの地に移住して5年、
「自分たちで暮らしをつくる」をコンセプトに仲間たちと活動してきました。
今はライター業をしながら、冬は山に入ってイノシシをとる新米の猟師でもあります。

この連載は、私たちの日常を通じて新しい暮らしのあり方を探る、
楽しい場にしていきたいと思っています。

いとしまシェアハウスの始まり

築80年のいとしまシェアハウスは敷地275坪。昔ながらの大きな家は、シェアハウスにぴったりです。

築80年の我が家は敷地275坪。昔ながらの大きな家は、シェアハウスにぴったりです。

まず今の暮らしにシフトした理由のひとつに、
私が育った時代背景があります。
私はモノに困らない時代に生まれた一方、
物心ついた頃にはバブルがはじけていたので、
景気のいい世の中というものを知りません。
ふんわりと世の中に漂う“悲壮感”を感じながら生きてきました。

だから、昔の大人たちが言っていた
「大きな会社に就職し、結婚して、家を買ったら幸せになれる」という概念にも、
疑問を抱いていました。
だって、その“幸せな生き方”が通用する社会はとっくのとうに変わってしまったし、
モノは溢れ暮らしは便利になったはずなのに、
彼らはどこか疲れているように見えたからです。

農作業の様子

これからは多様な生き方があっていいし、
幸せな暮らしは自分で模索する時代になったんじゃないかな……
そんな考えが頭をぐるぐるしていたときに訪れた、
人生最大の出来事が東日本大震災だったのです。

横浜にいた私は大きな揺れを感じ、高台へ避難しました。
YouTubeで流れる津波の映像を見てもまるで現実味がなく、
映画の中の出来事のように感じたのを覚えています。

震災後の横浜では、小さなパニックが起きていました。
交通機関がストップし、お金を持っていても買占めで欲しいものが買えない、
計画停電で冷蔵庫の中のものが溶ける、近所に助け合える人がいないことの不安……
今まで当たり前だった自分の常識が全部ひっくり返ってしまったような気持ちでした。

福岡県糸島市の風景

あのときほど、いかに自分たちの日常が不安定なものの上に
成り立っていたかを実感したことはありません。
このままずっと何かに依存して生きる“消費する”暮らしから、
自分たちで“つくる”暮らしにシフトしていこう、
これからはいざというときに支え合えるコミュニティをつくっていこう!
そんな強い気持ちがふつふつと湧いてきました。
今思うと、あの想いがいとしまシェアハウスの始まりだったのかもしれません。

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糸島ってどんなところ?

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我が家との出合い

いとしまシェアハウスから歩いて1分の、美しい石垣の棚田。夜になると満天の星空が楽しめます。

家から歩いて1分の、美しい石垣の棚田。夜になると満天の星空が楽しめます。

会社の移転を機にやってきた福岡県で
自給自足できそうな移住先を探していたところ、出会ったのが糸島でした。
糸“島”というと離島と勘違いされてしまうことも多いのですが、
実は福岡県と佐賀県の県境に位置する半島。

農業・酪農が盛んなため、とにかく食べ物がおいしい!
そのため、糸島地域に特化したガイド本が出るほどの観光地でありながら、
移住者にも人気のエリアなのです。

私たちが住む場所は、観光スポットから少し離れた山の谷間の小さな集落。
山の湧き水が川になり海へとつながる場所で、
透き通った美しい水は棚田と畑を潤し、
山には野草が生い茂り、多様な野生動物が暮らす自然豊かな地域です。

我が家では、暮らしのベースとなる

・食べもの

・お金

・エネルギー

を自分たちでつくることがテーマ。
今は、いとしまシェアハウスの理念に共感し、
友人づて、メディアを介して集まった男女7人と一緒に暮らしています。

車で移住先を探していたとき、偶然出会った今の我が家。
この築80年の古民家をシェアメイトと改修しながら、田んぼや畑、
ときには猟をしながら日々生活しています。

家の近くの小さな畑。自然農をベースに、無農薬・無肥料で野菜を育てています。

家の近くの小さな畑。自然農をベースに、無農薬・無肥料で野菜を育てています。

よく「完全な自給自足を目指しているのですか?」と聞かれることがあるのですが、
実はそうではないんです。自給自足的な暮らしは、
あくまで自分たちが幸せに生きるための手段であって、目的ではありません。

それよりも、暮らしのあれこれを自分たちでつくろうと思うこと、
暮らしのことを人任せにせず自分ごととして向き合う姿勢こそが、
今の生き方の軸にあると思っています。

もちろん自給率100%には憧れはあるけれど、
うーん、周りの先輩たちを見ているとまだまだ長い道のりだなあと思ってしまいます。
ひとつずつ試行錯誤して、できるようになるその“プロセス”が楽しいんですけどね。

そう、大変そうに見えるけれど(実際大変なのですが)、
この暮らしはとても楽しいんです。
モノの先に誰かの顔が思い浮かぶ生活は、日々のさまざまなタイミングで
“誰かの愛情”を感じることができます。
これって幸福度が高い暮らしだと思いませんか?

危機感からスタートさせた暮らしだったけれど、
今この場を動かしているモチベーションの土台は
“自分たちが楽しいから”という気持ち。
ポジティブな関わり合いでないと、長く続けていくことって難しいですもんね。

移住して5年、うまくいかないことも多々ありますが、
我が家の愉快な日々の実験をここでお話ししていきますね。
次回をお楽しみに。

* * * * *

いとしまシェアハウスではただいま新住人を募集しています!
この場所を最大限に生かし、持続可能な暮らしを実践したい方、
ご応募お待ちしております。

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今日のごはん

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今日のシェアハウスごはん
〈野草のちらし寿司〉

今日のシェアハウスごはん〈野草のちらし寿司〉

摘んできた菜の花や海で拾ったひじき、ご近所の柑橘畑の甘夏で
甘酸っぱく仕上げました。
長~い冬を越したうれしさを、いろとりどりの野菜で表現してみました。
春だー! うれしい!

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