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富山・魚津港 前編

美味しいアルバム
vol.010

posted:2014.9.24   from:富山県魚津市  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  フォトグラファー、津留崎徹花が、美味しいものと出会いを求め、各地を訪ね歩きます。
土地の人たちと綴る、食卓の風景を収めたアルバムです。

text & photograph

Tetsuka Yamaguchi
山口徹花

やまぐち・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』『Hanako』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

それは、東京の魚津から始まった。

4月の中旬、コロカルの撮影で富山へ行くことになった。
富山といえば、何と言ってもホタルイカ。
子どもの頃からホタルイカが大好物で、旬になると
魚売り場に並ぶそれを見ては、ついごくりと喉を鳴らしてしまう。
そのホタルイカ漁のメッカである富山に、ずっと行ってみたかった。

撮影は1日で終わるとのこと。
ならば、延泊して美味しいものにありつきましょう。
さて、どうリサーチしたものかと考えながら、帰り道をぼんやりと歩いてると、
目に飛び込んできた「魚津」という居酒屋の看板。
おっと! 魚津といえば、富山の港町ではないですか。
20代の頃からちょくちょく寄らせてもらっているこのお店。
旬の魚と日本酒が、とびきり美味しい。
ひょっとすると、富山の有力な情報をお持ちなのではあるまいか。
お店の方と特に顔なじみというわけではないが、ダメもとで聞いてみよう。

富山のお酒を始め、各地の日本酒が味わえます。旬のお刺身とぜひ。「魚津」 住所:東京都杉並区荻窪5-29-11 TEL:03-3393-4629 詳細はこちら

ガラガラガラ~。
店員「いらっしゃいませ!」
威勢のよいお出迎えに、少々気まずさを覚える。

テツ「すみません、あの、飲みに来たのではなく、ちょっと伺いたいことがありまして」

店員「???」

テツ「今度、富山にいくことになったのですが、
美味しいお料理を作ってくださる方をご存知ないでしょうか」

店員「……ちょっとお待ちくださいね」

ご主人が厨房から出て来てくれた。

テツ「突然すみません。
今度富山に行くのですが、郷土料理を教えてくださる地元の方を探しておりまして」

一瞬きょとんとした表情を浮かべたご主人。
腕組みをしながら、ぐるっと考えをめぐらせてくださっている様子。

ご主人「電話してみるよ」

どこへ?

ご主人「あー、東京の魚津です」

しばらく会話が続いた後

ご主人「はーい、ありがとうございますー」

電話を切る。

ご主人「吉田鮮魚店ってとこに電話したんだけどね、
漁協に電話したらいいって、話通しとくからって」

電話番号を書いたメモをご主人から手渡された。

!!!

なんというスムーズな展開!

テツ「ありがとうございます!」

思い切って開けてよかった~、魚津の扉を。
その後、ご主人オススメの宿など、富山情報をたっぷり教えていただいた。
お礼を伝えて店を後にする。

後日、魚津漁協に連絡をしてみると、地元の方を当ってくださるとのこと。
どんな出会いがあるのやら、いよいよ楽しみになってきた。

Page 2

そうして迎えた当日。
コロカルの撮影が無事終了。
魚津に移動して、漁協の方にご挨拶をしておこう。

レンタカーを30分ほど走らせ、到着した。
青みがかった漁港からは、まったりとした潮の匂いが漂う。
日本酒を片手に釣り糸を垂らしたいな~、なんて気持ちにさせられる。

テツ「失礼します」

連絡を取らせていただいた、浜住博之さんを訪ねた。

浜住「山口さん?」

テツ「はい! 今回はありがとうございます」

浜住「いや~、あのね、実際大変だったよ、地元の人探すの」

テツ「あ、やはりそうでしたか……すみませんでした」

浜住「吉田さんから電話があって、この件をなんとかしてくれないんだったら、
今後知らないからって半分おどされてね」

……。

そ、そんなやり取りが……。

浜住「甘エビ漁をやっている魚住さんという方、明日の昼でオッケーいただいたから」

テツ「本当にありがとうございます!」

お茶を飲みながら、魚津港について伺う。
テツ「競りは毎日行われるんですか?」
浜住「ええ、あそこに見える建物の中でね、漁船がばーっとあそこに並んで水揚げしてね」
ほー、それは迫力がありそう。

テツ「その、競りというのには、一般の人も入れたりするのでしょうか?」

浜住「許可があればね」

テツ「私でも?」

浜住「許可があればね」

テツ「急に明日でも?」

浜住「許可があればね」

テツ「その許可はどなたに?」

浜住「私に」

……。

姿勢を正して座り直す。

テツ「浜住さん! 明日市場に入れてもらえないでしょうか!」

浜住「はい、いいですよ」

マジ!!!

テツ「ありがとうございます!!!」

浜住「長靴持ってる?」

テツ「いえ、ないです」

浜住「そしたら、朝行って、長靴借りて、浜住からって言えばいいから」

やっほーい!

浜住「朝5時くらいかな、始まるの」

テツ「了解しました!」

もう、もう、嬉しすぎて弾けそう~。
明日の朝が待ちきれないと感じたのは、いつ以来だろうか。
ホテルに戻り、ビールと日本酒、そしてプリップリのホタルイカしゃぶしゃぶを堪能し、
早めに寝床についた。

いよいよ魚津港へ。

翌朝4時起床。
撮影機材を準備して漁港へ向かう。
外はまだ真っ暗。
駅前の街灯だけがぼんやりと浮かび上がる。

浜住さんに伺ったとおり、入り口で許可をもらい長靴を借りた。
その後どこへ行ったらよいやら、うろうろさまよっていると、
「あっちあっち、あそこから入ったらいいから」と、通りがかった方が教えてくれた。
大きい扉を開け、中へ入ってみる。

広々とした市場には、所狭しと魚が陳列してある。
ホタルイカが、じょろ~っと詰まったかご! かご! かご!
ピチピチキラキラ輝いている。
もう、その画を見ただけで大興奮。
周辺も見回してみると、カニや甘エビなど、まさしく海の宝石という
言葉がぴったりな、つやつやと煌めく幸がずらりと並んでいる。
なんだか猛烈に血が騒ぎ、夢中でシャッターを切る。

奥の人だかりへと近づいてみる。

中心にいるのがどうやら競り人のよう。
低く野太い声で、周囲をまくしたてる。

「☆○×□ 2△▽★~」

何を話しているのか聞き取ろうと試みるが、まったく聞き取れない。
勢いに圧倒されている間に、次から次へと魚が競り落とされていく。

このスピード感と活気、真剣な眼差しと張りつめた空気。
独特のオトコ世界に、いつの間にやら引きずり込まれていく。
これ、邪魔したらまずいよ、まずいよまずいよ、と自分に言い聞かせ、
隙間からそっとシャッターを切る。

競りが一段落した様子なので、場内をぐるっと一周してみた。
色とりどり、大小の魚たちを観察。

「どっから来たんけ?」

そう声をかけてくれたのは、水白澄子さん。

テツ「東京です」

水白「へぇ~~~、なにしに来たんけ?」

テツ「取材をさせてもらってます」

色白もち肌で、柔和な顔立ち水白さん。
あれやこれやと世間話。

水白「もう長いこと通っとるよ~。
毎日同じ、4時に起きて4時半にここへ来てね、
魚の顔見て、みんなの顔見て、それで元気をもらとらいちゃ」

テツ「お肌もツヤツヤですね~。おいくつですか?」

水白「昭和10年生まれ」

御歳80才。ピシャッとした出で立ちで、
仲間と元気に挨拶をかわす姿は、年齢を感じさせない。

水白「あ、あの人、競り人」

通りがかりの男性を指差す。

テツ「あ、先ほど競りを拝見しました」

水白「いっとくさーん、いっとくさーん」

こちらに誘ってくれた。

水白「なんか、東京から来たんだってよ」

テツ「あの、先ほど競りを拝見しました!
すっごいかっこ良かったです!」

水白「あーはっはっは! かっこいいって、いっとくさん。
コーヒーはまってやって」(はまって=おごって)

浜夛一徳さん。
18才からこの世界へ入る。
まずは魚の顔と生産者の顔を覚えることから始まり、
10年の下積みを経てようやく競り人に。
とにかく声が渋くてかっこいい。

テツ「素敵な声ですね~」

浜夛「最初はこうやなかったんやけど、やってるうちにね」

(『紅の豚』の主人公の声、といえば皆さんに伝わるでしょうか)

テツ「すごい迫力でした、競り。もうもう、圧倒されました」

浜夛「いまの時期はそうでもないがんよ、魚が少ないから。
冬になるともっとすごい活気づく、魚が増えてカニも始まるし。
活気ゆうか、むしろ殺気やな」

なるほど、そこで写真を撮るなんて怖いけど、その空気を目の当たりにしてみたい。

(後日、漁協の浜住さんに連絡をしてみた。
いつでも市場に入っていいです、と御承諾をいただいた。また冬に潜入します!)

せっかくなので、記念写真を撮らせていただこう。
水白さんの同級生で、80才になる岡本禮子さんもご一緒に。
この市場の最長老なのだそう。

禮子「毎日ね、海の新鮮な空気吸って、美味しい魚食べとったおかげで、いまでも元気やちゃね」

ではいきますよ~。

テツ「あら、みなさん急に固いんですけど」

一徳「こんな顔やちゃ」

ゲラゲラゲラ。

はい、ポーズ!

右から、水白さん、浜夛さん、岡本さん。

水白「魚問屋さん行くといいよ、カニ茹でとるから、お土産くれるかもしれん」

あら、それはどこですか?

水白「国道ずーっと行くちゃ。連れてってあげっちゃ」

わーい! 嬉しい。

車に乗り込み、いざカニ茹で現場へ。
工場のような建物に到着。
水白さんに誘われ、中へと入ってみる。

と、目の前に広がるカニ! カニ! カニ! の世界。
キャー、埋もれたい、というか、食べたい!
と思っているところへ、
水白さんがカニの間接をボキボキ折りながらこちらへやってきた。

水白「ほれ、これ」

ずろーんと抜け出したカニの身。

テツ「え! いいんですか?」

水白さんとこの工場の関係がよくわからないが、従業員の方たちも
好意的な視線を送ってくれているから、きっとアリなのだろう。
いただきます。

うーーー、あま! うま!

水白「ほれ」

もう一本くれた。

聞けば、水白さんがよく知る方の会社とのこと。
なので、気ままにカニを食べ歩いても許されるらしい。

予想外のこの展開がすごく嬉しかった。
水白さんにお礼を述べ、車を見送る。

テツ「水白さんのおかげで、とっても楽しかったです!
ありがとうございました!」

すると水白さん、にこーっと笑って、

水白「あんたもせっかく富山に来たんやから、
いい思いしないと、いい思い出つくらんとね。
また富山に来てね、またお会いしましょうね」

水白さんのその言葉が、しばらく心に響いていた。
最高の朝だった。

次回「魚津港 後編」をお届けします。
甘エビ漁の漁師、魚住さんのお宅にて、甘エビとゲンゲをいただきます。

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