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淡路島・ちょぼ汁

美味しいアルバム
vol.007

posted:2013.12.4   from:兵庫県淡路島  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  フォトグラファー、津留崎徹花が、美味しいものと出会いを求め、各地を訪ね歩きます。
土地の人たちと綴る、食卓の風景を収めたアルバムです。

text & photograph

Tetsuka Yamaguchi
山口徹花

やまぐち・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』『Hanako』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

幻の産後食を求めて。

前回に引き続き、兵庫県・淡路島よりお届けします。
今回ご紹介するのは「ちょぼ汁」です。

本題のちょぼ汁に触れる前に、ここまでの流れを少し。
神戸出張から少し足を伸ばし、淡路島へやって来ました。
市役所にご紹介いただいた地元の方を訪ね、郷土料理を教わっています。
生まれも育ちも淡路島というおふたり、河野さかゑさんと野村かよ子さん。
前回作って頂いたのは、淡路島名物「たこ飯」と、「いびつ餅」です。
ほんわり優しく香るたこ飯、熱々とろ~りいびつ餅、極上の味わいでした。

今回のちょぼ汁は、私からお母さんにリクエストしたもの。
『聞き書き日本の食事』というシリーズ本があり愛読しているのですが、
その中にこんな記述がありました。

ちょぼ汁は、乳の出を良くすると言って、産婦には必ず食べさせるもの。
もち米の粉を耳たぶくらいのやわらかさに練り、
生まれた子が男の子ならひょうたん形、
女の子は俵形にする。

うーーーん、なにやら温かい、ぐっとくる。
ぜひぜひ、この郷土料理に触れてみたい。
河野さんに伺ったところ、「作れますよー」とのご返答をいただき、
今回お願いした次第。

それでは、調理室に戻ります。

Page 2

★ちょぼ汁(6人分)

材料

ささげ豆:120g 
だし汁(昆布と鰹節でとる):450g 
干しずいき:15g(ずいきとは里芋や八頭の葉茎。インターネットで購入できます) 
もち粉:150g 味噌:60g 鰹節:少量

前もって、ささげの下準備をしておく。
さっと洗って3カップの水に3時間浸ける。
一度煮て、水切りをする(あくを抜くため)。
その後、新たに水3カップを加えて柔らかくなるまで煮る。

1. 干しずいきは一度洗ってぬるま湯でもどし、1cmに切る。湯通ししてから固く絞る。

2. もち粉は同量の水で耳たぶくらいの固さにし、1.5cmの俵形に丸める。

3. だし汁にささげ、ずいきを加え、ずいきが柔らかくなるまで煮る。アクが浮いてきたら取り除く。

4. ずいきが柔らかくなったところで、2のだんごを加える。だんごが浮いてきたら味噌を入れる。

5. お椀についで、鰹節をふる。

だし汁に、ささげとお味噌。
はて、いかような味なのか。

野村「これ、どうぞ、熱いうちに」

はい! いただきまーす。

??? 

お汁粉の味を想像していたのですが、完全に味噌汁よりですね。
そうかそうか、砂糖が入っていないんだものね、豆の味噌汁です。
ずずっと汁をすすると、ほっこりした豆に当たり、ふにゃっとしたずいきがやってくる。
その後、もちっとした団子と、そこへかぶさるようにして鰹節がガツンと主張してくる。
次から次へと展開する味わいと食感に、頭の中が少々混乱する。
そう、この一杯から産婦さんが栄養を取るのだもの、
ひとつのお椀にいろいろなものがギュッと詰め込まれているのだ。

「ちょぼ汁」という呼び名には、「おちょぼ口」の可愛い赤ちゃんになるように、
という願いが込められているそう。
産後の女性の回復食として、淡路島で長く受け継がれてきた。
ささげは古い血を下ろす作用があり、産後の母体をきれいにしてくれる。
栄養価の高いだんごは、母乳の出を良くする。
味噌や鰹節はタンパク質を多く含み、
ずいきはミネラル、ビタミン類、食物繊維を豊富に含む。
また、ずいきには子孫繁栄の願いも込められている。
里芋は親芋から子芋、孫芋とどんどん増えていくからだそう。

河野「どうですか~?」

私の顔を覗き込む河野さん。

テツ「んっと、なんか、ええと、初めての味です」

野村「ふふふ、そうやろね~。最近じゃこの辺でも食べんようになったしねぇ」

あら、そうなんですか?

河野「みんな作らんくなったねぇ」

やはり、そうなんですね。
関西の友人や、淡路島出身の友人にも聞いてみたのですが、
みなちょぼ汁の存在を知らなかった。

テツ「娘さんが出産されたときは作りましたか?」

河野「そんときは作りましたよ」

あ、よかった。

河野「いまはほら、昔と違って病院で生むからね。
退院してきたときに作って、近所の方に振る舞ったりね」

ほー、産婦さんだけでなく、みなさんで召し上がるんですね。

河野「赤ちゃんを見に来てくれはった方に振る舞うんやな。内祝いみたいなもんでな」

ふむふむ、なんかいいですね、そういう行事食。

テツ「野村さんも娘さんに作ったんですか?」

野村「あたしは娘には作らんかったなぁ」

おーーー、もうここで途絶えているのか……ちょぼ汁の歴史。

野村「でも、自分が出産したときは、嫁ぎ先に母親が持って来てくれたなぁ。
そんときは材料をお祝いと一緒にね」

ほ、材料という方法もあるんですね。
いろんな扱われ方があるんだな、このちょぼ汁。

河野「地域ごとにやり方も違うしなぁ、だんごの形も違うしなぁ」

テツ「あ、あの、男の子がひょうたん形で、女の子が俵形とかって本で読んだのですが」

河野「うちんとこは変えないなぁ、よそではそうなんかもしれんねぇ」

島の南北、山側と海側とで、採れる食材や食べ方など、かなり異なるそう。

テツ「産後にちょぼ汁を飲むって、どんな感じなんですか?
なんかこう、エネルギー漲る! とか、そんなことはあるのでしょうか」

野村「うーーーん、どうかなぁ、安心する感じやったかなぁ。
これでお乳がいっぱい出るから大丈夫! っていう感じやったかな。
あんまし出なかったけどな、ハハハ(笑)」

ふ~~~、お腹いっぱい、ごちそうさまでした。

たこの島で見た風景。

あ、そうだそうだ、淡路島に来たらぜひに伺いたかったことが。
『聞き書き~』に衝撃的な写真が載っていたのです。
たこがズラッと干してある様、これをひと目見て帰りたい。
この光景に出会える場所があるか、聞いてみた。

河野「ありますよ、藤本水産いうてな、北淡のほうに」

やった! 教えてください、そこ。

野村「あそこは、ちりめんも美味しいよー」

ナイス! 
ということで、たこ干しスポットの情報もゲットし、江井のまちを後にする。

河野「これ、持って行って」

手元には何やら大きいビニール袋。

河野「漁師さんからもらったたこ、冷凍してあるから持ってって」

キャー! 嬉しい!

野村「これもよかったら」

折り詰めのなかに、先ほど作っていただいた「たこ飯」と「いびつ餅」がぎっしり。

わ~~~、ありがとうございます。

河野「また遊びに来てくださいね~」

感涙。

左が河野さん、右が野村さん。

レンタカーに乗り込み、たこ干しの現場へと向かう。
途中きれいな海水浴場を見つけて寄り道。
穏やかな海を眺めながら、先ほどまでの余韻にしばし浸る。
淡路島に住むってどんなかな~。

おふたりに教えていただいた「藤本水産」に到着。
あたりを物色すると……あった! たこ! たこ! 干してある! 
風に揺られて気持ちよさそうな、たこー。
出会えてよかった、この光景に。

野村さんのおススメ、雑魚も忘れずにチェックしよう。
店内へ入ると、おーーっと、テンコ盛りの雑魚を袋詰めしているではないか。

テツ「こんにちは~、すごい量の雑魚ですね」

アー!!! ハハハハハハハ!!!

店員「どっから来たの?」

テツ「東京です」

イヤーーー! ハハハハハ!!!

彼女たちの笑う姿を見て、

「だって、ラッキョウが転がるんですもの」

という昔のCMを思い出してしまった。

テツ「なんだかいい感じ、写真撮ってもいいですか?」

やだやだ~、ギャハハハハハ!!!

テツ「ではでは、一枚いきますよ~」

こんな感じです、とモニターを見せるとまた爆笑。

いいな~、淡路島の人たちって晴れやか。
以前、どこかで聞いたことがある。
淡路島は昔から食料が豊富だったため、飢饉の歴史がほとんどない。
そのため、人々がのんびりと朗らかな気質だとか。
うん、その通り。
いっぺんで好きになってしまった、この島が。

後日、原稿を確認してもらおうと、河野さんに電話をした。
電話口から聞こえてきた河野さんの声が、初めて話した時よりも高く、少し弾んでいた。
それが、とっても嬉しかった。

河野「原稿チェック? いりまへんいりまへん、好きに書いてくれてけっこうです~」

うん、いいな、この感じ。

いただき物のたこを調理してみました。

小振りで可愛いサイズ。

自然解凍して水洗いをしてみたところ、かなり強いヌメリが出てきた。塩で激しくもみ、ヌメリを取り除く。

茹でてみると、くるんと足が巻上り可愛いピンク色に。

刺身でも食べてみたかったのです。味が濃くて柔らかい、お酒が進みます。

唐揚げにもしてみたかったのです。「ブリン」としたたこ唐、甘い! 旨い! さらにお酒がすすむのでした。

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