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銀座・おば古

美味しいアルバム
vol.003

posted:2013.5.29  from:東京都中央区銀座  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  フォトグラファー、津留崎徹花が、美味しいものと出会いを求め、各地を訪ね歩きます。
土地の人たちと綴る、食卓の風景を収めたアルバムです。

text & photograph

Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花

やまぐち・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』『Hanako』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

大切なおばあちゃんの味。

前回の出張以来、すっかり山形ファンになってしまった。
銀座にある山形アンテナショップ「おいしい山形プラザ」に立ち寄り、
からから煎餅や、ずんだ餅など、あれやこれやと物色。
ふと、以前行ったことのある山形料理屋が近くにあったことを思い出し、立ち寄ってみた。

銀座一丁目にある「おば古」。
日替わりランチを注文する。
まず出されるのが、名物「むき蕎麦」。
そばの実をむいて茹でたものに、ダシ汁をかけて食べる酒田地方の郷土料理。
プチプチの蕎麦の実と、ひんやり冷たいだしが心地よく、癖になる美味しさ。
その後、焼き魚をメインとした定食が運ばれて来る。
量、質、ともに充実の内容。

建物が古いためか、ほの暗い店内は妙に居心地が良い。
店を切り盛りしている女将さん、糊のぴしっと利いた真っ白い割烹着をまとい、
テキパキと持ち場をこなす。
壁にかかっているメニューに目を通すと、聞いたことのない名前がずらり。
きもと? 田毎むし? べんけいめし?
山形郷土料理、どうやら奥が深そう。
そこで女将さんにお願いをしてみた。
「山形料理のことや、もし思い出の郷土料理などあれば伺えないでしょうか」
女将さん、「はい」とひと言、承諾してくれた。

お茶漬けのようにサラッといただけるむきそば。酒田市では給食にも上るそう。

その時々で、季節のものを頂ける。冬には名物「どんがら汁」もメニューに上る。どんがら汁は寒ダラの頭から内蔵まで全てを豪快に煮込んだみそ汁。庄内地方の漁師料理。

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後日、改めて話を伺いに出かけた。
暖簾をくぐり、玄関を開けると、女将さんが笑顔で出迎えてくれた。
このお店を始めたのは、女将さんのご両親。
昭和27年、山形から東京に上京したご両親が開業した。
お店の切り盛りで忙しかったご両親に代わり、おばあちゃんが女将さんを育ててくれた。

そのおばあちゃん、明治生まれでとっても粋な女性だったそう。
ぴしっとした着物姿に、キュッと結った三つ編みがトレードマーク。
「男性と食事するときのために」と、
小学生の女将さんに、ナイフとフォークの使い方を伝授してくれた。
食事のマナー、挨拶など、しつけにはとても厳しかったおばあちゃん。

「こんなに厳しいおばあちゃんが世の中にいるんだ~っ、ていうくらい厳しかったよね~。
でも、そう、その反面、絶対的な優しさと包容力があったな~」
おばあちゃんの話になると、女将さんの表情がゆるみ、ほわっと笑みがこぼれた。

カウンターは常連のお客さんが多いそう。「しだいに会話が深くなるから面白いよね~」と女将さん。

「自然なところを撮ってくださいね」と照れる女将さん。「おば古」女将・大内瞳さん。

そのおばあちゃんが、毎日欠かさず作ってくれたのが「弁慶飯」。
山形庄内地方の郷土料理で、おにぎりに味噌をつけ焼いたもの。
学校から帰ると、いつもちゃぶ台の上に用意してあったという、女将さんの思い出の味。
「外では泣いちゃいけない!」と教えを受けていた女将さん、
どんなに辛いことがあっても、涙をぐっとこらえて帰宅した。
そんな小さい女将さんを、玄関でいつもおばあちゃんが迎えてくれた。
「ただいまー」と言ったとたん、こらえていた涙がバァっと一気に流れ落ちる。
ちゃぶ台を囲み、弁慶飯を頬ばりながら、さらに涙がこぼれる。
おばあちゃんは何を言うでもなく、ただ横に座り頷いていてくれた。

「もう、食べながら泣きながら食べながらで(笑)
祖母はただただ、聞いてくれてたよね~」

そんな思い出を語る女将さんの目に、涙が浮かんでいた。
とてつもなく温かく、深く、大切な思い出。
涙の温度が、じんと伝わってくる。

そのおばあちゃんを一目拝見したいと、写真を見せていただけないかお願いしてみた。
すると女将さん、

「うん、ダメ」

「うん、誰にも見せないの」

おどけたように、柔らかく微笑む。

女将さんも4人のお子さんを育て上げた。
子育ての上で肝に銘じていたことがあるそう。

「子どもが帰って来るときは必ず家にいて、“お帰んなさい”って言ってあげること。
ひとりで食事を食べさせない、必ずそばについていること」
それは、女将さんがおばあちゃんにしてもらった大切なこと。
「自分にとって、欠かせないことだったんでしょうね、
だから私も子どもたちにしてあげたいって思ったのかな」

「おばあちゃんから受け継いだものって、何か残っていますか?」

という問いに、

「うーん、全部かな。
ことあるごとに思い出すのよね、あのときこうしてたな~とかね。
そういうことが私に脈々と受け継がれてるからね、全部かもね」

清々しい表情で答える女将さん、その姿がとっても粋だった。

撮影終了後、

女将「弁慶飯、食べてみたら?」

テツ「はい! そのつもりでお腹を空かせて来ました」

カリッと香ばしく、優しい甘みがほわっと拡がる。
うーーーん、美味しい。

女将「味噌とご飯、これはやっぱし、ほっとする日本の味だよねー」

★弁慶飯とは

由来については諸説あり、その中の一説。
「奥州平泉へ逃げていた義経と弁慶が、食糧調達に困っていた。
それを見た村人が、味噌をつけておにぎりを渡してあげたのがその呼び名」
地域によって、青菜で巻いたりもする(鶴岡など)。
参考「i山形

★弁慶飯の作り方

1. 熱々のご飯でおにぎりを作る。
2. 熱した焼き網で一度焼く。
3. だし汁で溶いた合わせ味噌を塗り、再度焼く。
味噌が乾いてきたら網から上げる。
出来上がり。

「あつあつのご飯でなければダメなのよね、手を真っ赤にするくらい。そうでないと美味しくできない」と、女将さん。

「あら、少しくっついちゃったわね。網をもっと焼かなきゃだめね(笑)」楽しげに作る女将さん。

焼いているそばから香ばしい香りが漂う。味噌万歳!

割烹着と焼きおにぎりと照れ笑い。日本のよきところギュッと凝縮。

Information


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おば古

住所:東京都中央区銀座1-4-10

TEL:03-3561-6466

営業時間:11:30 ~ 14:00、17:00 ~ 22:30 (土曜 12:00 ~ 14:30、17:00 ~ 21:00)

定休日:日曜休

ランチ 1500円(おかず5品、ご飯、みそ汁、香の物)
夜のコース 3500円~(一階席のみ)、座敷個室1万円~
弁慶飯 700円(夜のみ)

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