連載
posted:2016.8.26 from:神奈川県横浜市 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
イラストレーターとして活躍する平尾香が、各地の粋な飲み屋をご紹介。
旅して飲んで、おいしいお酒と肴と人に出会います。
text & illustration
kao.ri hirao
平尾 香
ひらお・かおり●イラストレーター。神戸生まれ、独自の個性を発揮した作風で、世界的ベストセラー「アルケミスト」を始めとする書籍のカバーや、雑誌の挿絵、広告などで活躍。個展も多数開催。現在は、逗子の小山にアトリエを構え、本人の取材やエッセイなど活躍の幅は広い。著書本に「たちのみ散歩」(情報センター出版局)「ソバのみ散歩」(エイ出版社)
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夏はとにかく辛いものが食べたくなるのです。
太陽が陰ってからは、夕涼みとばかりに人が行き交うやら、
ベンチで一杯ひっかけるやら。
そんな横浜、伊勢佐木町の商店街を抜けて、国道16号へ。
道の向こう側の黄色い看板の有名ラーメン店には、男子の行列50メートル。
こちらの〈華隆餐館〉は白地に黒文字の看板で、
外観は高級そうな中華料理店の出で立ちですが、開け放たれた間口から覗くと、
ほぼ満席で熱気と雑音もいっぱいの店内。辛い匂いも漂っています。
カウンターの奥の席が座れるよう。カウンターの上段には下げた食器が山積み。
店の忙しさを物語っています。
行き交う言葉は中国語。メニューも漢字で溢れていて、
日本語では使わないような読めない漢字も入り乱れています。
意味はなんとなく通じる、ふむふむ、辛さは、辛から激辛まで、調整してくれるのね。
とりあえず、ビールを汗だくで店内を動き回るお姉さんに注文。
品はよろしくないけれど、席に着くまでにほかのテーブルの上の
料理のチラ見は、初めての店だと欠かせない行動。
気になったのは、赤い粉がかかったピーナッツのお皿、四川落花生。
前菜の欄のメニューの数がそれほど多くないので、
迷わずキクラゲと牛モツもお願いする。
カンカンカン、中華鍋とお玉が奏でる音で、こちらの注文する声も大声に。
店にいる客から店員まで、すべての会話ボリュームも
鍋から出る湯気やら油のシャワーやらと一緒にヒートアップしています。
こういう雰囲気、現地中国っぽくて楽しい。
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ほどなく出てきたピーナッツは、唐辛子の辛さと
中国の山椒の花椒(ホアジャオ)の香りと中国の旨みがまぶされたもの。
右手の親指と人差指は皿からつまんでは口に放り込むを繰り返し、
左手はビールジョッキの柄を握ったまんまで、
冷たく冷えたそれを喉へ流し込む繰り返し。止まらない。
さっきのテーブル席のおじさんたちのピーナッツは、
ひと通り食べたあとの紹興酒のつまみとなってたというわけ。
ほどなく、キクラゲと牛モツがそれぞれテーブルに。
辛いタレの絡みやすそうな、ヒダヒダの見た目。
コリコリした食感は、2杯目になったビールをどんどん減らしてゆきます。
まとめ髪に額に汗を滲ませ、働くお姉さんが
大きな中華包丁で切ってボウルで和えた一品。
厨房にある大きな存在感の圧力鍋で、やわらかくされた牛モツかな。
換気扇がぐんぐん回るカウンターの向こう側は、
機械的で工場のようにも見えて、見学は楽しい。
料理人が大根のような塊を片手に抱いて包丁で削ぎ始めました。
それらは目にも止まらぬ速さで湯気の立つ鍋に飛んでいく。
手にしていたのは大根ではなく先ほど打っていた小麦粉の塊。
これが漢字のまんまの刀削麺。
もっちりつるると、うどんのような中国の麺のメニューから選んだのは、
暑さを言い訳に、汁ではない五目焼刀削麺。
締めのつもりなのに、たくさんの餡がつまみになってレモンチューハイも。
酔い覚ましの帰り道、港ヨコハマ伊勢佐木あたりに灯りがともる夏の夜。
information
華隆餐館
住所:神奈川県横浜市中区長者町5-71-1 エスポワール伊勢佐木長者町1F
TEL:045-261-6079
営業時間:11:00~15:00、17:00~1:00
定休日:月曜
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