連載
posted:2016.4.12 from:和歌山県有田郡有田川町 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
小豆島の「醤(ひしお)の郷」と呼ばれる地域に生まれ、蔵人を愛する醤油ソムリエールが
真心こもった醤油造りをする全国の蔵人を訪ねます。
writer profile
Keiko Kuroshima
黒島慶子
くろしま・けいこ●醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。高橋万太郎との共著『醤油本』発売中。
奥深くて力強い醤油を造る和歌山県有田川町の〈カネイワ醤油本店〉。
一番の売れ筋である〈天然醸造醤油〉は、
みりんを使って口当たりやわらかく仕上げている。
少量でもコクのある魚の煮物ができあがるこの醤油は、
関西中心に口コミで広がっています。
訪ねた場所は、醤油発祥の地とされる和歌山県の湯浅町から
車で20分ほど走った山手の有田川町。
緑豊かで空気も清らかなその土地の川沿いに、カネイワ醤油本店はあります。
車を降りると、心地いい醤油の香りが広がっていました。
迎えてくれたのは4代目を継ぐ予定の岩本行弘専務。
晴れ晴れとした笑顔で迎えてくれ、
さっそく醤油造りへの熱い想いを力強く語ってくれました。
「ここに下りてくる高野山系のきれいな湧き水といい空気は
醤油造りにかかせんのや」と山に目をやります。
カネイワ醤油本店の初代店主は、明治時代後半に醤油の製法を湯浅で学んだ後、
大正元年に良質の水に恵まれるこの土地に蔵を建てたそう。
そしていまなお、青々とした樹木と、清涼な水が流れる有田川のそばで、
2年の歳月をかけてゆっくりと育みます。
「2年の歳月をかけて、焦らずゆっくりと木桶の中で育むことで深い味わいになる。
昔から『麹は寝ても蔵人は寝るな』と言ってきたもんや。
僕も一晩中、1時間から2時間おきに麹の様子を見に行っとる。
大変とかいう以上に気になるんや。
天気や気候、そして麹の育ち具合で温度が下がったり上がったりする。
しかも品温計や湿度計だけでは判断できんことが多いから、
ちゃんと人の手で触って判断して、適切な温度になるよう手助けせなあかん。
それに醤油を造る菌も生きもんやから、僕の姿勢を見とると思うし、
熱い想いで造ったら期待に応えてくれる気がするんや」
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そんなカネイワ醤油本店の一番の売れ筋は〈天然醸造醤油〉。
北海道産大豆、滋賀近江産の小麦、天然塩だけで醤油を造り、
醤油を加熱して冷めてきた頃に本みりんを加えます。
和歌山県ではほかでもみりんを使う蔵がありますが
本みりんのみを加えるのは全国的に珍しいこと。
「100年余の歴史の中で、うち独自のやり方に進化してきています。
天然醸造醤油にみりんを入れるタイミングも、味の濃さも、
使い勝手のいい醤油を追求してたどり着きました。
春の山菜である蕗や山椒を佃煮にしても、
ゼンマイやワラビ、たけのこを煮物にしても持ち味を生かします。
また、この辺りは海が近くて地元でとれた魚を煮魚にするんやけど、
天然醸造醤油を少し入れるだけで味が深まります。
サバやアジ、イサキを炊いたらおいしいですよ。
そして何よりタチウオ! 箕島漁港はタチウオの漁獲量日本一なんですよ」
と話します。
いまではカネイワ醤油本店の天然醸造醤油は、関西全域に広がっています。
「人々が車で移動するようになって、便利な宅配便で送れるようになると、
どんどん販路が広がっていきました。『おいしいから使ってみて』ともらった人や、
道の駅や物産直売所などで買った人が『おいしかった』とリピーターになってくれて、
県外からご注文をいただけるようになり、
おかげさまでいまでは多くのお客様が県外の人。
僕はうちの醤油をおいしいと感じてくれる人々に使ってもらいたいと思っています。
醤油が結ぶご縁を大切にし、お客様と心が通う関係を
これからも育てていこうと思います」
この気持ちが伝わってか、小売店を通さずにカネイワ醤油本店に電話やメールをし、
直接買うお客さんが年々増えています。
料理の仕上げにコクを出したい。
かけたり、つけたりしたときに、塩角のないまろやかな味わいにしたい。
そんなときはぜひ試してみてください。
きれいな空気と水に恵まれた環境の中で、蔵人が2年間実直に育てあげ、
仕上げのおまじないのように使う本みりんが、
いままで以上に深みのある料理に仕上げてくれますよ。
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カネイワ醤油本店
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