連載
posted:2015.2.19 from:愛媛県南宇和郡愛南町 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
小豆島の「醤(ひしお)の郷」と呼ばれる地域に生まれ、蔵人を愛する醤油ソムリエールが
真心こもった醤油造りをする全国の蔵人を訪ねます。
writer's profile
Keiko Kuroshima
黒島慶子
くろしま・けいこ●醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。
四国の醤油は全般的に甘い。
そんななか、蔵を巡っているとひとつの傾向が見えてきた。
四国の北東、神戸寄りにいくほど甘みが抑えられ、
四国の南西、九州寄りにいくほど甘みが強くなる。
今回訪ねるのは、四国南西部の「愛南町」にある蔵、
「辻三親商会(フジマルツ醤油)」。
期待を胸に電話をかけると、素朴で誠実であたたかみのある声が返ってきました。
時折海が広がるのびのびとした景色をゆったり眺めながら車を走らせると
景色に馴染む落ち着きある蔵にたどり着きました。
中からは電話の通り、素朴で誠実であたたかみある辻 清志さんが迎えてくれ、
さっそく蔵の中を案内してくださいました。
「仕込みは終わり、桶の中のもろみを混ぜながら様子をみていますよ」
説明する辻さんの言葉は、常に飾ることなく実直であたたかい。
麹を育てる室(むろ)は丁寧に掃除され、
これまでの仕込みの記録が細かく記されていました。
木桶ひとつひとつにも、手書きで仕込み日が書かれています。
辻さんは製造の説明をしつつ、もろみを混ぜる櫂棒に手を伸ばし、
黙々と混ぜては香りを確認していました。
辻さんがいかに醤油造りと向き合っているかが伝わります。
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そもそも、辻さんの周りでも仕込みから自社で行うところは少なくなりました。
「自分のところで一貫生産することは譲れません。
醤油を造るということは、自分の子どもを育てるのと同じ、手をかけて育むことです。
外から醤油を買ってくるのでは意味がありません。
この木桶に奥底まで住み着いた菌と向き合って造るからこそ、
うち独自の味が守られるんです」
静かに語る言葉には、熱さがありました。
その様子をまっすぐに見つめている若い蔵人がいました。
「息子です。帰ってきたばかりで、いま勉強中です」と辻さん。
聞けば若干24歳(当時。現在は26歳)。これは楽しみです。
そして案内してもらっていて気づきました。
辻三親商会で出会う人々はみんな朗らかで笑顔がいい。
工場長も女性スタッフも。
家庭的なあたたかさが、蔵に流れています。
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入り口付近には醤油が並んでいました。
「うちの醤油も含め、この辺りの醤油は特に甘いんですよ。
この辺りは漁師町ということで、この醤油が魚に合いますし、
漁で疲れた体は糖分を必要とします」
それは昔からだったのだろうか?
「僕は5代目ですが、代々甘い醤油を造っていますよ。
というのも、昔は砂糖が高級だったので、
地元の魚と甘い醤油を一緒に出して喜んでもらっていました。
この辺りでは赤飯やお寿司にも砂糖を入れます。
甘いお醤油はおもてなしのひとつなんです」
と辻さん。この土地に根づくお醤油の味が、あたたかな人づき合いの表れだったとは。
「この『愛南ゴールド』が入ったポン酢も使ってみてください。
いま、地域のみんなで愛南ゴールドという柑橘をPRしているんです。
僕も醤油を通じてPRすることが役目だなと思って推しているんです」
と微笑んで渡してくれました。
口にした醤油もポン酢も、確かに甘みが強いもの。
ただ、その甘さに辻さんや蔵で出会った人々、
地域の人のもてなす気持ちがあると思うと、
甘い醤油に慣れてない私でも好感が持て、口にした瞬間顔がほころびました。
辻三親商会は、いまなお生産量の8割をトラックに積んで近所に配達しています。
地域の暮らしに合う醤油を造り、身近な食材も料理も支えていく。
地域の人と歩む実直であたたかな姿勢に、辻三親商会さんのらしさを感じました。
information
辻三親商会(フジマルツ醤油)
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