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白醤油の蔵が造る無添加白だし
愛知・七福醸造

醤油ソムリエール黒島慶子の
日本醤油紀行
vol.019

posted:2014.12.25   from:愛知県碧南市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  小豆島の「醤(ひしお)の郷」と呼ばれる地域に生まれ、蔵人を愛する醤油ソムリエールが
真心こもった醤油造りをする全国の蔵人を訪ねます。

writer's profile

Keiko Kuroshima

黒島慶子

くろしま・けいこ●醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。

「ありがとう」の気持ちから生まれる白だし

蔵に着くと、まず炊いてから約3年経った米が出てきました。
ひとつ目は「ありがとう」と声をかけ続け、
ふたつ目は「ばかやろう」と声をかけ続けたもの。
「ありがとう」の米は綺麗な粒のまま残り、
「ばかやろう」の米は腐ってどろどろに。

この米が表すものが七福醸造の姿勢。
七福醸造は「ありがとうの里」として工場見学を行うほど、
人を想い、心を豊かにすることを大切にしている蔵元。
ありがとうの気持ちで造る商品は料理人を唸らすほど質が高い。

低温でゆっくりと醸造させる有機白醤油の発酵タンクにも「ありがとう」の文字が。

添加物なしでおいしい料理ができる

七福醸造は、白醤油の本場である愛知県碧南市で白醤油や白だしを造るメーカー。
とれる量が少なくとも圧搾はしないなど、品質重視で白醤油を造ってきたなか、
料亭からの依頼をきっかけに「白だし」を日本で初めて販売。
以来白だしのメーカーとして支持されています。
ただ、支持される理由は商品以上のものを育んでいるからだと、
見学しているとすぐにわかります。

「いらっしゃいませ!」
私を見かけると、出会う社員みんなが一度手を止め、
はつらつとした笑顔と声で迎えてくれます。
そして、蔵の床も壁も並ぶ道具も、醤油屋とは思えないほど
ピカピカと輝きを放っています。

醤油の道具は塩分で錆びてしまったり、醤油造りに関わる菌によって
洗浄しても黒ずむもの。いったいなぜこんなに綺麗なんだろう……。
目を丸くしながら大豆と小麦を蒸す蒸煮管を眺める私に、A3ほどの範囲を示しながら
「ときどき研修で1日6時間半、3日間かけてひたすら同じところを磨くんですよ。
数人一緒になって黙々と。腕がパンパンになっても続けるんです」
と、鈴木貴士工場長が明るい声で教えてくれました。

鈴木工場長も映り込むほどピカピカに磨き上げられた蒸煮菅。

「学生を対象に白醤油仕込み体験も行っているんですよ」と話す笑顔がすてきな鈴木工場長。

これは犬塚敦統会長が徹底的に続けた「体験教育」によるもの。
1日1時間の掃除や、ご近所の草刈り、「徳拾い」と考えるごみ拾いを続けるなど、
社員みんなで挙げきれないほどの環境整備を行うほか、
社内外の参加者約1500人にものぼる
「三河湾チャリティー100キロ歩け歩け大会」をたびたび開催。
「100キロを歩くなかでいかに多くの感動・感激・感謝を味わうことができるか」
という目的の通り、参加者の多くが助け合ったりすることで
多くのことを学び、涙を流すといいます。

「醤油は麹が造る。人間である僕たちができることは、
麹がいい働きをする環境を整えることのみ。
社員が当たり前のようにその環境を整える原動力は言葉ではない。
社長の後ろ姿と逆境のなかでの気づきだけなんだ」
犬塚会長の言葉は力強い。
「親や社長の役目は、伸び伸びと根が伸びる土づくり。
辛い思いをした人が優しくなれるし、感謝できる。
感動を経験しているうちの社員は、不景気なのにいつもにこにこしているよ。
笑顔が絶えないんだ。人を信じて、信頼しあって、そしてまじめに造っている」
だから七福醸造の商品は品質が高くていつもおいしい。

この甘みと旨みがたっぷりの琥珀色の白醤油を使って白だしをつくる。

犬塚敦統会長(左)と鈴木貴士工場長(右)。

「人に良い」ものを追求

七福醸造は白醤油メーカーで唯一、JASの有機認定を受けています。
「『食』は『人』に『良』と書く。いい食にするのはメーカーの責任だ。
うちはお客様をどうやって幸せにするかをいつも考えているんです」と犬塚会長。

料亭の依頼で「白だし」を造ることになったときに、
試作でカツオエキスなどを使ったけれど、
使っている間に香りが減っていき、最後は変な味が残ることがひっかかり
「やっぱり本物じゃないと!」という答えにたどり着く。
そして生まれた白だしは本物の集まり。
ベースは有機小麦・有機大豆のみで仕上げた白醤油に、
鹿児島県枕崎産の本枯れ節を削った鰹節と
大分県産の肉厚どんこと北海道産の昆布でだしをとり、
そして地元の伝統製法による三河本みりんで甘みを添えています。

「料亭には腕ではかないません。だからこそ料亭でもなかなか手に入らない
いいだしの素材を使います。さらに味は一定です。
うちの白だしを料理人に味わってもらうと、
やられたという顔で『おいしい』と言ってくれました」
そして数々の料亭で使うようになると、実際に売り上げも来店者も増えたそうです。

どんこや鰹節を見学者に必ず見せて話をするほど、全国から選りすぐった材料を使う。

おいしいものを気軽につくれる白だし

蔵の中を見終わると「白だしをお湯で伸ばすだけです」と、
目の前でお汁をつくってくれました。そのお味の優しいこと。
後味も澄んでいて、すっと心身に溶け込んでいきます。
ひと口でほっと笑顔にさせてくれるこの味を、お湯を注ぐだけでいつでもできるなんて。
料亭も主婦も手放せなくなるのもわかります。

続いて出てきただし巻き卵もきれいな色。
ぐっと食欲が湧いて頬張ると、卵とだしの品のある甘みが広がりました。
「冷めてもおいしいですよ」というひと言に、
忙しい朝のお弁当づくりに最高のアイテム! と笑みがこぼれます。

そしてふと、気持ち良く接する社員ひとりひとりの
生き生きとした表情を思い出しました。
このみんなが、七福醸造を舞台に造るんだったらおいしくなるよね。
そう心から納得しました。

プロが認める白だしは、お湯で伸ばすだけでおいしいお汁に。

溶き卵に白だしを入れて焼くだけで料亭の味に。

information


map

七福醸造

住所:愛知県碧南市山神町2-7
TEL:0566-92-5213
http://www.7fukuj.co.jp/

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