colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

オーガニックたまり醤油を海外へ
愛知・丸又商店

醤油ソムリエール黒島慶子の
日本醤油紀行
vol.014

posted:2014.9.17   from:愛知県知多郡武豊町  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  小豆島の「醤(ひしお)の郷」と呼ばれる地域に生まれ、蔵人を愛する醤油ソムリエールが
真心こもった醤油造りをする全国の蔵人を訪ねます。

writer's profile

Keiko Kuroshima

黒島慶子

くろしま・けいこ●醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。

丸又商店は、たまり醤油の代表産地、愛知県「武豊町」にある1軒。
原材料は丸大豆と塩のみ。
そしてすべて木桶でたまり醤油を造り続け、約30年前からは、
有機やオーガニック認証の大豆で仕込んだものが9割となりました。
そのうち多くを海外に輸出するなど、約20年前から世界各国に輸出を進めています。

有機JAS認定「オーガニックたまり」。

昔ながらの造りだから出せる、地元で愛されてきた味を造る

「最近は地元の人もたまり醤油を使わなくなってきましたし、
小麦を使って濃口醤油の風味に近づけたたまり醤油が増えました。
うちみたいに、大豆だけで造るたまり醤油はもう少ないですよ」
丸又商店の出口智康社長は静かな口調で話してくれました。

濃口醤油は大豆と小麦をおおよそ半分ずつ使って仕込むのに対し、
たまり醤油は主に大豆を使います。
もともとは大豆だけで仕込んでいたけれど、
最近は小麦の割合も少しずつ増えてきたようです。
「戦前までは、愛知の醤油といえばたまり醤油で、
何にでもたまり醤油を使ってきました。
僕はいまでもすべての料理にたまりを使います。
やっぱりたまり醤油を使うと、おいしいんですよね」
そう話す表情を見るだけでお腹がなりそうになります。
たまり醤油が身近にない私にとって、
何にでもたまり醤油を使う愛知らしい食卓に心惹かれます。

桶底の呑み口からわずかにとれた希少価値の高い「生引き」でとれたたまり醤油。有機JAS認定「オーガニックたまり」は、この製法のもの。

「僕などんな料理にもたまり醤油を使います」と出口智康社長。

出口さんの案内のもと蔵の中に入ると、70本もの木桶が出迎えてくれました。
木桶が並ぶ部屋の扉の向こうにまた木桶がずらり。
桶屋が言うには、150年経っているのもあるとか。
桶の上には丸い石が重ねられ、「汲みかけ」という、
もろみから染み出てきた醤油を柄杓で汲んで
もろみにかけるための丸い筒が出ています。まさに昔ながらのかたち。
「戦後トヨタを中心に、人や物の動きが大きくなり
関東・関西からもいろんな醤油が愛知県に入るようになって、
濃口も入ってくるようになりました。さらに価格競争が起きて、
ついには1リットルあたりの単価が全国でいちばん低くなりました」
醤油の中で最も価格の高いたまり醤油は、価格の面でも消費者が離れやすく、
濃口醤油に慣れた人がたまり醤油に戻るのは少ないもの。
それでも丸又商店では、手間ひまのかかる昔ながらの製法で造り続けます。

「昔の人が考える造りは理にかなっていると思うんです。
木桶には蔵の菌が過ごしやすいですし、
桶は環境にも優しくてタンクよりも長く200年ほど使い続けられます。
自然のサイクルにも合っています。林業の人が森に入って桶用の杉を育て、
その木で桶がつくられ、自然の力を借りて醤油が造られる。
そして、できた醤油は力強さがあっておいしい」
15年造り続けるほどに実感が深まっていると、出口さんは言います。

オーガニックのたまり醤油を仕込む木桶。 蔵の中には70本もの木桶がずらりと並ぶ。

昔ながらに、木桶の中にもろみを入れ、石を乗せ、汲みかけして造る。

海外で支持される

丸又商店の輸出を後押しする要因のひとつが「グルテンフリー」。
海外では小麦アレルギーの人が多いため、
「大豆100%。小麦は使わない」にこだわる丸又商店のたまり醤油は喜ばれます。
ただし、最近は大手による安いグルテンフリーの醤油が海外で出回り、
放射能や円高の影響も受けて大変なのだそう。
それでも価値の高い丸又商店さんの醤油は差別化できています。
「大豆に水をつける工程が、まず最初に重要なポイント。
漬け過ぎるとべちょっとした麹になるし、足りなければ中まできちんと蒸せない。
もう5分で蒸しが全然違うから、最後の10分くらいは細かくチェックしています」
などと蔵の中を歩きながら静かに出てくる出口さんの言葉には、
長年理想のたまりを追い求めて実直に造り続けてきた深さがありました。
消費者が現場を見ることもない、遥か離れた海外でも選ばれているのは、
大豆100%へのこだわりと、木桶で昔ながらの造りを
丁寧にしているから出せるおいしさゆえ。

搾りたてのたまり醤油。

「濃口醤油に少し足す」がおいしさのポイント

丸又商店のたまり醤油は、日本では加工食品の会社や飲食店で使われることが多い。
大豆から生まれた濃厚な旨味と食欲をそそる濃い赤色を生かして、
佃煮や総菜、名古屋のひつまぶしや焼き肉に使われているのだそう。
その多くは「濃口醤油に少し足す」という使い方。
コクや甘味や照りが出るという。これは実践してみなければ!

と、早速白米を使った「おやき」を作ってみると、想像以上に違いました。
濃口醤油を使ったおやきより、たまり醤油を使ったおやきのほうが断然食べ応えがある。
香りも味も奥行きがあり、力強さを感じます。
調理している時から、「あ、これはおいしいわ」と、香りで実感がわくほど。
家族に食べてもらっても、たまり醤油を使ったほうがすぐになくなりました。

外国で評価されているのも嬉しいけれど、まずは日本人である私が楽しんでみよう。
豊かな旨味を口の中で楽しみながら次の料理への想像が膨らみ続けます。

白米を使ったおやき。左がたまり醤油、右が濃口醤油を使ったもの。たまり醤油を使ったほうが味わい深く、照りもいい。

information

map

丸又商店

住所 愛知県知多郡武豊町里中152
TEL 0569-73-0006
http://www.marumata.com/

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ