連載
posted:2018.3.30 from:香川県高松市 genre:旅行 / 食・グルメ
sponsored by 宝酒造
〈 この連載・企画は… 〉
「和酒を楽しもうプロジェクト」もいよいよ5年目へ。
今回から舞台をイエノミからソトノミに移し、
“酒場推薦人”の方々が、日本各地の魅力的な「ローカル酒場」をご紹介します。
writer profile
Yayoi Okazaki
岡崎弥生
おかざき・やよい●兵庫県、大阪府、神奈川県、福岡県、東京都(ちょっとだけ愛知県)と移り住み、現在は神奈川県藤沢市在住のローカルライター。最近めっきりイエノミ派となった夫のために、おつまみ作りに励む主婦でもある。
credit
撮影:田頭真理子
地元の人にこよなく愛される酒場はまちの宝もの。
ローカル色豊かなおいしいおつまみや、ご主人とお客さんの雰囲気、店の佇まいなど、
思い出すと心がほんのり温かくなるような店を
“酒場LOVE”な案内人の方々に教えてもらいました。
旅先のソトノミガイドとしてもご活用ください。
“四国の玄関口”として発展してきた香川県高松市は、
いま“島への玄関口”としても注目されています。
きっかけは2010年にスタートした〈瀬戸内国際芸術祭〉。
会場は小豆島、直島、豊島など香川沖に浮かぶ島々などで、
島に向かう船が発着するメインポートが高松港。
アートとともに瀬戸内の島のすばらしさを感じてほしい。
そんな趣旨で世界中からゲストを迎え入れ、成功したことで、
高松を拠点に島を巡る旅行者が急増するなど、
さまざまな波及効果が生まれています。
今回の案内人・坂口祐さんは瀬戸内の海と島を愛し、
瀬戸内国際芸術祭にも関わったデザイナー・カメラマン。
8年前に神奈川県茅ヶ崎市から高松に移り住み、
四国や瀬戸内の人や文化、食の魅力を紹介してきました。
なかでも美しい写真と英文併記の情報サイト、
『物語を届けるしごと』は、世界160か国からアクセスがあるとか。
思い立てば好きな島に渡れて、自転車があればどこにでも行けると、
坂口さんは高松での暮らしを心から気に入っているようです。
「いまは自炊をしているので、イエノミが多くなりましたが、今回はソトノミ。
これから県外の友人を必ず案内する店に行きましょう」と、
お気に入りの店まで連れて行ってくれることに。
グッとローカルな雰囲気が漂う、居酒屋が多いアーケード商店街
ライオン通りまで来ると「骨付鳥」の文字が次々に現れました。
そのなかでもかなり目立つ暖簾が、きょうのローカル酒場〈蘭丸〉です。
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18時の開店と同時にさっそく店内へ。
すると待ちかねたようにお客さんが次々と入ってきました。
店内は渋めでも女性客が多く華やいだ雰囲気です。
〈蘭丸〉は、讃岐うどんに続くソウルフードと話題の、
骨付鳥の人気専門店。土日には旅行者で行列もできるそうです。
「きょうは平日なので、みなさん地元の女性たちでしょうね。
旅行者の方だと、昼は讃岐うどん、夜は骨付鳥というパターンが多い。
僕の友人たちも、高松に来ると必ず骨付鳥をリクエストする。
骨付鳥は専門店のものをまず食べてもらいたいし、
香川らしい料理やローカルな雰囲気も味わってほしい。
その点ここは居酒屋使いができるので、
みんなを連れてくるのにちょうどいい感じです」
坂口さんは、着席してすぐに“おや(親鳥)”と“ひな(ひな鳥)”をオーダーします。
「焼きあがるまで20〜30分はかかるので先に注文しますね。
初めての人には、両方を必ず食べ比べてもらいます。
味わいがまったく違うので、きっと驚きますよ。
初めての人はやわらかな“ひな”が好きという方が多いですが、
地元の人は絶対歯ごたえのある“おや”派。
僕も“おや”派かな。味わい深いしお酒に合う。
じっくり飲むのにはぴったりです」
お刺身が来たので、と日本酒に切り替える坂口さん。
次々と頼んだおつまみが運ばれてきました。
厨房を見ると、フライパンを駆使して骨付鳥を調理中。
1本に20分ほど時間がかかるなら、これはかなりの重労働です。
もともと骨付鳥は丸亀市の名物で、
60年以上前に元祖〈一鶴(いっかく)〉のご主人が、
洋画で見たローストチキンをヒントに考え出したもの。
自然と香川県全域に広がったようです。
「確かに、宴会や飲み会でもごく普通に出てきます。
クリスマスはテイクアウトに大行列というのも見慣れた光景。
どの店も味つけ、調理法を工夫していますので
食べ比べる楽しさがあるのも、讃岐うどんと同じ。
だから第2のソウルフードと言われるのもわかります」
香ばしい匂いが漂ってきたなと思ったら、骨付鳥が登場。
脂がまだバチバチと跳ねそうな勢いでアツアツ。
これはすごい、見るからにおいしそうです。
まずは“ひな”から。皮がパリパリで肉はしっとりやわらか。
かなりスパイシーですが塩辛くはありません。
確かに誰にでも愛されそうな、食べやすい感じ。
坂口さんは紙ナフキンを巻いて、がぶりとひと息にいきます。
「本来はこうやってワイルドに食べるものでしょうね。
とても贅沢な感じがします。
ここは香川県産の朝挽き鳥なので、肉の風味自体がいい。
元焼き鳥屋さんなので、素材にはこだわっていますね」
こちらが“おや”。見た目からして全然違います。
おかわり自由の口直し用キャベツは無料でついてきますが、
塩おむすびはのちほどのお楽しみ。
“おや”はかたいのでテーブルに置かれたハサミで切ります。
特に切り方にルールはなく骨に沿って切り込み、
適当に小さく切りわけていけばいいそうです。
「この解体作業は仲間と一緒だと盛り上がりますね。
“おや”はおそらく味つけを“ひな”と変えているはず。
ここは庶民的な店に見えても、そのあたりは芸が細かい。
そうじゃないと専門店は長続きしませんから。
僕も、ここはうまいと最初は地元の人に連れてきてもらいました」
“おや”は噛めば噛むほど、うまみがじんわり広がって……!
確かにかたいけれど、慣れるとクセになるのはよくわかります。
すかさず、辛口の上撰松竹梅「豪快」を口にふくむと、
心地よく口の中をリセットしてくれるので、また骨付鳥に手が伸びるのです。
さらに、塩むすびを皿のオイルにつけていただくと、
これがなんともいい塩梅の塩加減で、締めにはちょうどいい感じ。
脂っぽいように思えても、なぜかそうは思わない。
脂自体がとても軽くて、胃もたれする感じはまったくありません。
そこへやってきたのが、社長の新田圭三さん。
ようやく手が空いたと声をかけてくれました。
新田さんは生まれも育ちもこのお店の近く。
〈蘭丸〉は15年前に焼き鳥屋として開店し、2010年から骨付鳥専門店に。
常連さんに出していた骨付鳥の評判が良く、思い切って切り替えたそうです。
「ちょうど瀬戸芸(瀬戸内国際芸術祭)の時だったから、運が良かったね。
観光客の人が大勢来てくれて、行列ができて。
もう本当にうれしかった、おいしい、おいしいって喜んでもらえたから。
年中無休、僕の休みはないからキツイけど、
せっかく来てもらって、店が休みだなんて申し訳ない。
行列してもらうのも、本当は心が痛む。
観光客の人にとっては一生に一度かもしれない機会でしょ。
やっぱり高松でいい思い出をつくって帰ってもらいたい。
だから混んでいる時は、常連さんにあとで来てって言うこともある。
みんなわかってくれるよ。ああいいよ、自分はいつでも来れるからって。
いつもサンダル履きなのも、小上がりと座敷があるから。
靴なんか履いている場合じゃない、片づけやら何やらあるもの。働きやすさが一番。
それに僕は“耳がいい”からね。
どんなに賑やかでも、お客さんの“すみません”の声だけはなぜか聞こえる。
一生懸命伝えようとする、お客さんの気持ちがこもった声だから。
ほら、いまも聞こえたでしょ、奥の座敷から」
そう言い残すと、新田さんは飛んで行きました。
気になって座敷に行くと、15人ほどの女性客で満杯でした。
「僕は全然聞こえませんでした」と坂口さん。
「ただ、いかにも高松というか、四国らしい話でしたね。
お遍路さんをもてなす“お接待”の心です。
一期一会だからこそ、その機会を大事にする。
瀬戸芸が成功しているのは、それも大きいと思います。
第3回開催時には海外からのサポーター参加者も増えましたね」
骨付鳥ならきっと海外の人の口にも合うはず。
〈蘭丸〉も外国人旅行者が多いと新田さんに聞きました。
高松空港に国際直行便が相次いで就航し、
インバウンド旅行者の増加率が日本一の香川県。
香川の骨付鳥が世界の骨付鳥になる日も近いかもしれません。
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酒どころ伏見で生まれた燗で冴える辛口の日本酒。
“蔵付き半兵衛酵母”を使ってじっくり醸した男性的なすっきりしたのどごしを、
できれば45度前後の上燗から熱燗で味わってみてください。
坂口さんのように、刺身やイイダコなど瀬戸内の幸や
じっくり飲みたくなる骨付鳥“おや”と一緒にどうぞ。
information
蘭丸
住所:香川県高松市大工町7−4
TEL:087-821-8405
営業時間:18:00〜翌1:00
定休日:無休
アクセス:JR高松駅から徒歩約15分
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