連載
posted:2012.11.6 from:千葉県香取郡神崎町 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
アメリカからやってきたジャスティンがおうちでの発酵ライフを充実させるべく、
日本のローカルの蔵をめぐり、各地の智恵を学んでいきます。
writer's profile
Justin Potts
ジャスティン・ポッツ
1981年アメリカ・ワシントン州生まれ。 ワシントン州立大学卒業、テンプル大学ジャパンキャンパス大学院修士課程修了。韓国と日本にて英語教員として勤務。その後は関東と関西を行き来してPR・国際ビジネス展開のコンサルティング、記事の執筆・編集などを中心に活動。現在は「農業実験レストラン・六本木農園」や「International TERAKOYA」にて日本中の発酵人に出会いながら、都会と地方を繋ぐプログラムを企画・運営している。美味しい日本酒を飲むと関西弁が止まらなくなる。
credit
酒造りの現場をまわって、寺田本家ならではの酒造りについて学んだあと、
蔵と同じ敷地内の部屋で食事をすることにした。
学んだことを振りかえりながら日本酒の味わいを通して
神崎町の発酵フィロソフィーについてより深く掘り下げて聞いてみた。
全員
乾杯! おつかれさまです!
ジャス
夏にはちょうどいいですね、この酸っぱさ。
夏に元気がでそうなお酒って不思議ですね。
寺田
そうですね。
ジャス
でも、この「むすひ」って、正直、好き嫌いが分かれそうな味わいじゃないですか?
寺田
そうですね(笑)。玄米でお酒ができたらいいなと思ったのが、最初だったんですね。
まぁ、“玄米ではお酒ができない”という日本酒の常識があるけど、
玄米を食べるとからだにいいとよく言われているし、
お米であることには変わりないから、じゃあ、玄米でもきっとお酒ができるはずだと、
取り組みはじめました。
ジャス
確かに、僕もはじめて飲んだ時に、お酒が飲みたい!
と思ってむすひを選ぶ人は本当にいるのかなと思っていたんですけど、
お酒を飲むというよりも、自分のからだのため、健康のために薬を飲んでいる感覚で
よく飲む人がいそうだなと思いました。
むすひだけを何週間も少しずつ飲み続けてから、普通のお酒をまた飲んでみると、
もの足りなくなってしまいそう。
それくらい、むすひのクセにはまっちゃう人もいそうですよね。
寺田
飲んだ瞬間、「あぁ、酸っぱい!これはだめだ!」と思っても、
飲んでみるとからだが喜んでくれる実感がある。それが「むすひ」なんでよすね。
ジャス
なかじさんは、随分前からマクロビの料理とか、
ベジタリアン料理とかをやっていたと思うんだけど、
発酵ってことを本当に意識しはじめたきっかけってなんだったんですか?
なかじ
それは、蔵に入ってからですね。
今までの料理に、発酵の良いところ面白いところを組み合わせて、
昔の人はどうしていたんだろうとか、
発酵させることでもっと美味しくなるんじゃないかとか考えていました。
ジャス
その料理のスタイル、ベジタリアンとか、イタリアンとか、BBQとか、
料理のスタイルというよりも、なんか、ライフスタイルのほうに近い感じがしますね。
なかじ
今、日本酒、清酒の蔵は減っているけど、もっとビールとかワインみたいに、
小さい、個人とか、造りたい人がどんどん自分で免許をとって、自分で酵母をつくって、
日本酒を造れるようになったらいいなって思うんですよ。
だって、ヨーロッパとかに行くと、小さいビール工場いっぱいあるんじゃないですか?
ワインも種類が豊富。
ジャス
あるある。
なかじ
でも日本酒って、どこに行っても味に大きな違いはないし、大きい蔵しかない。
個人が、カフェとか居酒屋さんをやるみたいに、
日本酒の蔵を作れるとか、なったらいいなと思うんです。
それの入口が清酒の免許だったら難しいけど、
どぶろくの免許とかその他の雑酒の免許だったら
けっこう個人でもいけるんじゃないかなと思うんです。
寺田
そうだね。本当のいいものは受け入れられるし、
これから2、3年がらっと変わってくる気がするんです。
そうなると、本当に発酵の文化がわっと花開くようになるかな。
なかじ
お酒造り、麹作りの智恵とか、お味噌作りの智恵とか、
その醸造関係者が持っている智恵をもっと一般の人に広めて、
自分たちの生活の中に取り戻す必要がありますよね。
ジャス
確かに、最近麹とか、甘酒とかの発酵食品が人気になって、
さまざまなところで手に入るようになることで、
一般の人がその「発酵」というキーワードをもっと意識するようになるのは
すごくいいことなんだけど、その最終的なゴールって、
自分の生活に取り戻すということだったら、
もっと一般の人の日常生活、食生活が大きく変わってもいいはずですよね。
なかじ
やっぱり、自分たちで作る権利が、あるべきだと思う。
酵母とか、麹の種菌とか、一部の大きい会社とか、国が持っていて、
(一般の人が)買えないのではなく、普通に菌はどこでもいるし、どこでも作れるから、
みんなが自分の生活に必要なものは作れる、という智恵と自信を取り戻せたら。
だって、昔はおばあちゃんがみんな適当にやっていたことだから(笑)。
ジャス
そうですね。勘で作ったりとか(笑)。
なかじ
それがもっと気軽になって、敷居が低くなればいいなと思うんですよ。
なかじ
神崎って他のまちに比べて、発酵関係の仕事をしている人はまだまだ少ない。
今から発酵をテーマにして、まちをつくっていこうというスタートの段階ですね。
それでも若い人たちが少しずつ集まってきて、
“お米を作りながら生きていきたい” “野菜を使ってカフェをやりたい”という人が
だんだん出てきている感じですね。
だから “「発酵の里」が始動しますよ!”と世間に広めて、
さまざまな人からアイデアとかいただけたらなぁと思っています。
ジャス
今作ってないんだったら、何をされているんですか?
なかじ
お醤油さんは、大きい醤油屋さんからお醤油を買って、瓶詰めしている(苦笑)。
ジャス
そっか……。もったいないですね。
なかじ
もったいない。でも蔵はまだあるから、やろうと思えばできるはず。
醤油屋さんの30代くらいの跡取りの息子さんが
「発酵の里」のミーティングに参加してくれたんです。
みんな“どうにかしなければ”と思っているということです。
なので、今は、何かが始まっているというよりは、
人が集まってきているという段階ですね。
寺田
今、古民家を借りて暮らしている人がいて、
この民家の庭先に酵素風呂を作ったんですよ。
酵素風呂って、オガクズとか、米ぬかとかを入れて、
堆肥を作るように発酵させるんですね。
そうすると、温度が60℃ぐらい上がるんですよ。砂風呂みたいに身体を突っ込むと、
デトックス効果で、身体中から汗とともに悪いものをわ~っと出してくれて、
すっきりする。これを実際作っている人がいたりとかね。
そういうものをひとつひとつ増やして、
発酵をありとあらゆる場所で体験していただけるまちになったらな、と思っています。
ジャス
最初にこの“発酵”というコンセプトでまちを元気にさせていこうとしたときに、
酵素風呂ができるとはあんまり想像がつかなかったんじゃないですか?
こういう場所があったらいいなとか、こんな人がいてくれたらいいなというよりも、
なんとなく自然な流れで、その時にまちの自然な勢いで無理なく、
自然に現れてくるというほうがいいかもしれないですね。
寺田
そうですね。面白くて、不思議なものや場所がいっぱい集まってきて、
他のところにない特徴が生まれつつある段階ですね。
なかじ
ひとつの場所でゆっくりと発酵させると美味しいお酒ができることと同じで、
まちをつくるのも、ゆっくり少しずつできるとこからやろうと考えています。
急に大きくすると、すぐダメになる。
ジャス
社会の中でも似たような現象はたくさんあるじゃないですか。
新しいビジネスを立ち上げて、あるかたちでちょっとしたヒットがあって、
あわててスタッフを募集して、一瞬だけ盛り上がるけど、
いつの間にぱしゃーっと空気が抜けてしまって、もう終わり? みたいな。
なかじ
そう、会社と同じだと思う。急に大きくしすぎると、
そのトップの人と現場の人、一番下の社員の意識、そのマインドのレベルの差が激しくて。
そのトップの人はすごく高い夢とか、目標とかあるけど、下の人は……。
ジャス
見えてないこともある。
なかじ
でもお客さんと接する人はこの一番下の人だから、
この差が激しいと絶対いつか失敗するでしょう。
これはいい商品ですよってトップが言ってきかせても、
その現場の人が「いい商品ですよ」って思っていないから、売れなくなる。
つまり、意識や夢や目標をまちのみんなで共有することが、
まちづくりのひとつのキーワードだと思っています。
ジャス
無理に大きくさせるのではなく、もっと持続性のある土台をゆっくり、
しっかり作っていくということですね。
寺田
前の当主がよく微生物からさまざまなことを教わったと言っていました。
微生物というのは、みんな仲良しなんだって。
弱肉強食ってそういう世界じゃなくて、それぞれが自分のできることを一生懸命やって、
自分の出番が終わると、次の菌にバトンタッチして、
それぞれがお互い住み分けしながら生きていく。それが本当の自然な世界なんだよって。
ジャス
そのような栄養素以上の価値、その面白さをどう伝えるのかって、
この神崎にいることで言葉で説明しなくても
なんとなく伝えることができる気がしますけどね。
それは体験っていうよりも、体感かな?
やっぱりそれを五感、いや、六感で感じてもらわないとね。
寺田
そうですね。その場で参加してもらって、体験してもらって、
なにかのヒントを感じていただいて、家に帰ってからもそのヒントを発酵させるように、
徐々に暮らしの中に取り入れいただけたらいいなと思いますね。
ただ買って、消費してというだけではなくて、
いかに共感して体験して、というのが大事になってくるんじゃないかなと思います。
遠くから来ていただける人が
本当にこの神崎町というところに愛着や共感してもらえるような、
そういう場所をどんどん増やしていければいいですね。
Page 2
ひよこ豆と、たくさんの野菜を酒粕で煮た洋風の煮豆。
野菜の甘みに、酒粕のうま味が加わり濃厚なコクのスープとなります。
ココナッツミルクは甘みと軽さを出すために、お好みでどうぞ。
材料(3〜4人分)
A
ひよこ豆(洗って一晩水に浸す) 1カップ
水 3カップ
ローリエ 1枚
にんにく 1片(つぶす)
昆布 3枚
B
玉ねぎ 1個(みじん切り)
ごぼう 1本(小さい角切り)
にんじん 1/2本(小さい角切り)
トマト 2〜3個(角切り)
オリーブオイル 大さじ2
トマト缶 1缶
酒粕 大さじ山盛3〜4
C
自然塩、醤油 適量
クミンパウダー、シナモン、黒胡椒 少々
ココナッツミルク 1/2カップ(あれば。無くてもよい)
作り方
1 厚手の鍋にAを合わせて火にかけ、豆が柔らかくなるまでコトコト煮る
(もしくは圧力鍋に入れ火にかけ圧がかかったら弱火で5分煮て、火を止めて自然放冷。)
2 別鍋にオリーブオイルを入れ、Bの野菜を入れて炒める。
甘い香りがしてきたらトマト缶、酒粕を入れ、煮ながら木べラでよくつぶす。
3 2に1を加える。しばらく煮て全体が柔らかくなり、なじんだらCで調味し仕上げる。
この料理に必要なものは、
美味しい酒粕と新鮮な香りのエキストラバージン・オリーブオイル。
そして新鮮なじゃがいも。バターを使わなくても豊かなコクと旨味が広がります。
材料(2〜3人分)
じゃがいも 3〜4個
にんじん 1/2本
A
酒粕 大さじ山盛3
エキストラバージン・オリーブオイル 適量(お好み)
塩 2〜3つまみ(お好み)
作り方
1 鍋にたっぷりの水と塩(水の約1%)を入れ、じゃがいもとにんじんを皮ごと茹でる。
沸騰したら弱火にして約15分〜20分。竹串がすーっと通ればOK。
2 じゃがいもは大変熱いので、布巾で持って皮を剥ぐ。
3 ボールに2と1のにんじんを入れ、フォークで全体を荒く潰しAを加えて味をととのえる。
アレンジ1…湯がいたじゃがいもをそのまま皿に乗せフォークで割り、
好みでAをかけながら熱々を食べても美味しい!
アレンジ2…イタリアンパセリやバジルを加えたり、新鮮なレモンをしぼっても良いでしょう。
information
寺田本家
住所 千葉県香取郡神崎町神崎本宿1964
TEL 0478-72-2221
常時の蔵見学は行っていません。
http://www.teradahonke.co.jp/
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