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松本醤油商店 前編

Hello HAKKO Life!!
vol.003

posted:2013.7.22  from:埼玉県川越市  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  アメリカからやってきたジャスティンがおうちでの発酵ライフを充実させるべく、
日本のローカルの蔵をめぐり、各地の智恵を学んでいきます。

writer's profile

Justin Potts

ジャスティン・ポッツ

1981年アメリカ・ワシントン州生まれ。 ワシントン州立大学卒業、テンプル大学ジャパンキャンパス大学院修士課程修了。韓国と日本にて英語教員として勤務。その後は関東と関西を行き来してPR・国際ビジネス展開のコンサルティング、記事の執筆・編集などを中心に活動。現在は「農業実験レストラン・六本木農園」や「International TERAKOYA」にて日本中の発酵人に出会いながら、都会と地方を繋ぐプログラムを企画・運営している。美味しい日本酒を飲むと関西弁が止まらなくなる。

credit

撮影:飯野高史
http://the-jops.com/iino/gallery.html

《登場人物》
松本公夫さん(以下、松本):株式会社松本醤油商店 代表取締役 
ジャスティン(以下、ジャス):著者

やっぱりこだわりの食材ができるまでのプロセスを一度肉眼で見ると、
そうでないのものには戻れなくなる。
醤油の場合はなおさら。
常に手に届く範囲に置いてあるという意味でも日本の台所に最も欠かせない調味料だ。
でも味つけ大国アメリカ(僕の母国だが)には
「Soy Sauce」は単なるソース」というカテゴリーにしか入らなくて、
多くの味つけの選択肢の中のひとつにしかならない。
(一概にすべてのアメリカ人がそう思っていると言えないが)。
一方、日本食の場合、どこの地域のでも、料理に無意識に足したり、
味や風味を調整することが多い。
生まれ育ちがアメリカの僕にとっては、そのような活かし方のある調味料は、塩ぐらいだろう。

だから考える。こんなに摂っているなら、やはり「本物」が摂りたい。
そう思って、「はつかり醤油」を製造している松本醤油商店へ向かった。

醤油づくりは難しい。

ジャス

まずは、醤油のつくり方をご説明いただけますか?

松本

大豆を蒸して、大豆を蒸す機械、
大豆蒸煮(じょうしゃ)缶と言うんですけどね。
小麦のほうは、一番端に小麦を煎る機械があって、そこで煎っているんです。
そして、小麦と蒸した大豆をまぜて、一番大事な工程だといっていい麹をつくる。
お酒なんかをつくる米麹はよくご存知だと思うんですが、
醤油の場合、米麹とは全く違ってどっちかというと麦麹に近い。
大豆と小麦を混ぜて、麹をつくってやります。

ジャス

麦麹に近いと言いますと、混ぜているからってことですか?

松本

「とも麹」という呼び方をするんだけど、大豆と小麦を混ぜて、
そこに麹菌を増やしてやるということです。
で、麹菌を増やすというのは、大豆と麹でカビを増やしてやるっていうことなので、
原理としては米麹でも、そういうものと同じですが、ただ麹の菌の種類が違う。
そういうことで、醤油をつくるための醤油の麹菌というものが
米麹とは違う種類なのです。

ジャス

自宅でお味噌をつくったりしている人はわりと多いと思うんですが、
醤油づくりってなかなか難しいってよく聞きますが、それはなぜでしょうか?
その麹をつくることが難しいんですか?

松本

そうですね。みなさんが使っているのはほとんど米麹なんですよ。
味噌も米麹。酒も米麹。
米麹を買ってきて、大豆と混ぜれば味噌になるということで、
みなさん自分でもよくつくるかと思うのですが、
麹自体をつくるのは一般の家庭じゃなかなか難しいんですよ。

ジャス

でも昔、醤油は一般の人もうちでつくったりしたんじゃないですか?

松本

昔は、我々のように会社としてやっているのではなく、
いろんなところをまわってお醤油とかつくってあげるっていう一般の人が、
川越あたりにも随分いたんですよ。

ジャス

なるほど。川越ではどこの地域にも一般的につくっていたのですね。

松本

いたんですよ。私は40年くらい前から醤油づくりに携わっていますが、
醤油づくりを始めた頃はまだひとりかふたり、
いろいろな道具、例えば醤油を絞る袋とかをわけてくださいって来る人がいました。

せっかくここまでやっているんだから、ノンアルでやりましょうよ。

松本

製品になる場所がこちらです。
2階にもタンクが並んでいますが、製品を全部2階のタンクに上げ、
プレートヒーターという機械で瓶づめをします。
ちょっと特殊でして、普通醤油は常温で詰めちゃうんだけど、
うちの場合は防腐剤も使っていないし、
いま当たり前になっているアルコールの添加もしないんですよ。
ですから、夏場なんか発酵する恐れもあります。
埼玉で江口卯三夫先生という醤油の権威の先生が研究をなさっているのが、
加熱充填という方法です。
味をおとさないようにして発酵菌も抑える温度設定をしています。
機械屋さんと一緒に新しい機械をつくって、
それで詰めて、アルコールの添加もしない。
防腐剤なども一切入れません。

ジャス

じゃあアルコール添加をしているところが結構……。

松本

ほとんどでしょ。
だから原材料のところに、
大豆・小麦・塩・アルコールっていうのは必ず入っていると思いますよ。
アルコールを入れちゃうほうが簡単なんだけど、
せっかくここまでやっているんだから、
アルコールは入れないでやりましょうよ、っていうのがモットーなんで。

ジャス

醤油に火入れするのは一回だけですか?

松本

一回だけ。
味に影響してしまうので、あんまり火を何度も通さないほうが良いんですよ。
加熱充填の温度は秘密ですし、特殊です。

ジャス

この桶の、趣というんですかね。
見た目だけじゃなくて
醤油づくりには本当にかけがえのない存在だと思うんですけど、
修理とかはどうされるんですか?

松本

いま、頭が痛い問題なんですよね。
その竹で出来ているのがタガ(箍)というんですけどね、

ジャス

これ、この周囲をとめている輪っかの部分ですか?

松本

そうそうそう。
それの掛け替えをしなきゃなんないんですよ。
それでタガがダメになっちゃったから、いま鉄の板を使っているでしょ。
でも、それをやると桶が傷んじゃうんですよね。
だから、本来は竹のタガのほうがいいんですよ。
掛け替えをしたいんですけども、
いまそれを掛け替えできる職人さんもあまりいなくなってしまいました。
これだけ大きい桶ですと、竹自体もかなり長さがないと使えませんので、
それもなかなか難しいのです。
この桶を直すのにこの間、見積もりを取りましたら、
一本を直すのに100万円って。
新しく桶をつくろうとしても、
うちにある桶と同じくらいの大きさだと370万かかっちゃう(笑)。
仕方なくうちで全部直しちゃうんですよね。
鉄の板はターンバックルというやつで。だめになりそうになったら、それをやって。
でも桶本体が傷んできちゃうんで、どうしようかと悩んでいます。

ジャス

大事な財産だから。

松本

そうそう。建物も毎年どっか直していますし、
10年、15年に一度は大規模な修復工事をしています。

ジャス

じゃあ、その修復ができる人、その職人さんはまだいらっしゃるんですね。

松本

昔のものを見たり、
蔵の修復に知見があるお年寄りが「いやここはこうだな」とかやりながら。
うちの蔵の工事をやる場合は、
若い人も見習いで入れるようにという指導があるんです。
なぜ、そんな古い醤油蔵が残っているかというと、
醤油蔵が川越市の都市景観重要建築物になったので、
大工事をやるときは市のほうで半分持ってくれるんですよ。
ですから、壁の工事をやったときも、
壁を直すだけで、1千万かかったんですが、
500万円は市で負担してくれるので直すことができました。

ジャス

でも、その昔ながらの天然熟成というか、
醤油づくりの技術はもちろんですけど、
どちらかというと桶。
これをつくれる技術とか職人さんがいなくなるほうが心配で……。

松本

そうですね。心配です。
古い建物を残そうとして、残してきたわけじゃないんですよね。
なんで残ってきたかというと、建物自体に微生物が潜んでいるので、
建物を取り壊すということは、微生物を捨てることになってしまいます。
その微生物を守るために、
やっぱり建物を守っていくのが一番良いということなんですね。

ジャス

目に見えない財産ですね。

松本

そうなんですね。それが一番の財産ですね。
この蔵でなければできないというものなので、
条件が変わっちゃうと、もう同じようにはできないですから。

ジャス

これから時代が変わっていくとともに、
微生物は醤油の味に影響を与えるんじゃないですか?
100年前の松本醤油さんのお醤油を味わってみたいな。
その微生物たちで、味わいがどういう風に変わってきたとかね。

松本

大変いいお醤油が微生物のおかげでできているということで、
全国の品評会なんかでも何度も日本一になったりしていますので、
もう絶対この蔵の微生物は残していかなきゃと。
昔はよく醤油工場に行くと、
こっそりハンカチとかでなぞったりなんかして、
その酵母菌などを盗んできて、培養をしたりする人もいたから、
その防衛策として、
蔵の中には同業者は絶対に入れないというところもあったりしたそうです。
結局はそこの場所の菌を外に持って行って、
培養して増やそうと思ってもダメみたいです。
そこの場所に合った菌というのがいるからです。
まだまだ酵母菌はわからないところだらけだし、だから面白いんですよ。

ジャス

すごく面白い。
やっぱり地域ならではの味というか、そこでしか表現できない味なんですね。

松本

だからね、まだ我々みたいな企業が生き残れるのは、
やっぱりその計り知れないものがあるからなんですよ。

ジャス

情熱的なファンが支えてくれるのですね。

松本

そうなんですよ。食品というのは、やはり千差万別で
1000人いたら1000人味覚が違うというところが、
我々みたいな小さいところが残っていけるひとつのアイデアだなと思っています。

ジャス

普通の消費者は醤油をどういう感覚で選んでいるんでしょうね。
まあ、そんなに考えていないかなと思いますけど。
新しいものを試してみても、
必ずしももう一回買ってくれるわけではないですよね。
普通に手元にあるものを買ったり使ったりとか、
無意識に近い感じで買ったり、摂ったりしていると思いますが……。

松本

特に調味料というのは、
使い慣れているものと違うものだと
ちょっと料理したときに違いが出てくるんでね。
わりと使い慣れたものを使っていくという人が多いんじゃないかと思いますよね。

 

後編では、こだわりの醤油を使ったオリジナルレシピをご紹介します!
to be continued!

information

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株式会社松本醤油商店

住所 埼玉県川越市仲町10-13
TEL 049-222-0432
http://www.hatsukari.co.jp/

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