連載
〈 この連載・企画は… 〉
牧場主が牛や環境、そして牛乳のことを考え尽くし、
手間ひまかけてつくられる「クラフトミルク」。
地域の風土、季節、牛の種類や飼料など……ひとつとして同じ味わいはなく、
牧場ごとに異なる個性やつくり手の思いをお届けします。
writer profile
Ai Hanazawa
花沢亜衣
はなざわ・あい●編集者/ライター/コンテンツディレクター。2023年に独立し、WEB、雑誌を中心に食、ライフスタイルに関するコンテンツの制作に携わる。三度の飯より食べることが好き。明るいうちのアペロがあればしあわせ。
Instagram:@aipon79
photographer profile
Hiromi Kurokawa
黒川ひろみ
くろかわ・ひろみ●フォトグラファー。札幌出身。ライフスタイルを中心に、雑誌やwebなどで活動中。自然と調和した人の暮らしや文化に興味があり、自身で撮影の旅に出かける。旅先でおいしい地酒をいただくことが好き。
https://hiromikurokawa.com
スーパーやコンビニで手軽に手に入れることのできる牛乳。
その牛乳が、どこで誰によって、
どのようにつくられているのかを考えたことはあるだろうか?
市販の牛乳は、日本各地で搾乳された牛乳をブレンドしていることがほとんど。
しかし、単一の牧場や、同じ品質の少数の牧場のみで
手間ひまかけて、丁寧につくられた牧場牛乳「クラフトミルク」
を扱う店が吉祥寺にあると聞き、訪ねた。
〈武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND〉副店主の木村充慶さん、代表の義之さん、スタッフの松村さん。
〈武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND〉は、
この地で100年続く牛乳屋さんが、
2022年5月にオープンしたミルクスタンドだ。
「牛乳は品種や餌、育て方といった要素によって変わるので、
牧場によって味わいはまったく違います。
自然の中に放牧して、のびのびと育てたり、
牛をノーストレスな環境のなかで育てたり。
本当にさまざまな育て方があります。
それぞれに牧場主・酪農家の哲学や思いが反映されている。
それこそがクラフトマンシップだと思うんです。
本来、そういった違い、個性があるのに、ほとんど知られていません。
そんなこだわりの詰まった牛乳『クラフトミルク』を
味わってもらいたいと考え、ミルクスタンドをオープンしました」
と語るのは〈武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND〉の副店主・木村充慶さん。
実は、幼い頃は牛乳嫌いだったという木村さんが、
牛乳のおもしろさに気づいたのは20代後半のこと。
北海道の有名な放牧牧場を訪れた際、その牧場のミルクを飲んでみたら、
「こんなにすっきりしていて、草の甘みが爽やかに感じられるんだ」
と、その味わいに衝撃を受けたのだそう。
そこから全国の牧場を訪ねたという木村さん。
牧場主や酪農家と語らい、牛乳を飲むなかで、
そのおいしさ、放牧のおもしろさを実感。
まだまだ知られていない魅力を多くの人に届けるべくオープンさせたのが、
ここ〈武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND〉だ。
〈武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND〉の代表で、木村さんのお父さんである義之さん。
「うちは祖父の代からこの場所で牛乳配達の仕事をしていました。
父の代で自動販売機の配送業も請け負うようになったのですが、
父も高齢になったことで、これからを考えるようになり、
思い切って、クラフトミルクを売るお店をはじめてみようと思ったんです。
実は父もかつて全国の牧場を巡っていたことがあるようなので、
親子の活動がつながったふしぎな縁も感じます」
木村さんが訪れた、東京で唯一放牧をしている牧場「ゆーゆー牧場」。八丈島の南国感あふれるゴルフ場だった場所を放牧地に。ヤシの木と太平洋とジャージー牛という、ここでしか見られない風景。
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1月撮影時の月ごとに変わる「3種飲み比べセット」800円。
土日の週2日限定でオープンするお店では、
木村さんが全国各地を巡るなかで、「おいしい」と感じた
クラフトミルクを味わうことができる。
「牧場ごとの味を楽しんでほしい」という思いから
毎月テーマごとに3種類程度のクラフトミルクを厳選し、
「3種飲み比べセット」も提供している。
注文すると、ミルク缶からお玉ですくって提供してくれる。
これはスイスの高級チーズ工房で見かけた注ぎ方なのだそう。
大切につくられているからこそ、注ぎ方も丁寧にというこだわりだ。
「熱燗ミルク」400円。
寒い今の時期は、「熱燗ミルク」という名のホットミルクもおすすめ。
この日選んだのは、福岡県の〈白木牧場〉特別牛乳。
国の厳しい基準を満たした「特別牛乳」は、無殺菌でも販売することができ、
日本国内で特別牛乳を生産している牧場は、現在わずか3か所しかないという。
ちろりに注ぎ湯煎で60度ほどにあたためると、
冷たい状態とは一味違う甘みや旨みが感じられる。
ミルクだけとは思えないスープのような味わいで、体の芯まであたたまる。
そのほか、ミルク出しのコーヒーやほうじ茶、アイスなども提供している。
店頭の自動販売機にもクラフトミルクが並ぶ。
「扱っているクラフトミルクは自分で訪れて、
おいしいと思った牧場のみに徹底しています。
育て方や牧場主の人柄、環境を実際に見て、
こういう思いで育てていて、こういう場所で育ったから、
この味なんだ、と頭と舌で感じ、
ストーリーを伝えられるものだけを扱っています。
牛との向き合い方はもちろん、
酪農家としての哲学、経営理念に共感できるかどうかも大切にしています」
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大きな扉を設置し、週3日の営業日には店主である父が、ぐいっとハンドルを掴んでドアを開ける。購入後は、お店の前に設置されたソファに座って飲むことが可能。
お店の設計は建築ユニットの〈Kii〉が手がけている。
「もともと建築が好きなので、いろいろと考えたのですが、
〈Kii〉さんにお願いできたら理想的だなと思ったんです。
住宅の一角をスタンドとして活用するので、
構造を出した半建築的なものにすれば、
おしゃれになるだろうなとイメージはできたんですが、
それだけだと場としての魅力がないように感じていて。
相談したところ、もともとスタンドの場所にあった
業務用冷蔵庫の扉をモチーフにした、
大きな扉をデザインしてくれました。
まちに開いている感じが出ていると思います」
グラフィックデザインはアートディレクターの徳野佑樹さんと、デザイナーの梶川裕太郎が手がけている。
まちに開かれたミルクスタンドには、
地元の人や吉祥寺でお買い物を楽しむ人が訪れるほか、
遠方から訪れる人も多いという。
「全国各地から牧場の方々もきてくれて、
クラフトミルクの価値にお金を払い、
つくり手に思いを馳せながら楽しんでくださる
お客さんの様子を感慨深く眺めています。
飲むときに、つくり手の哲学や情熱、少しでもその想いを届けながら、
〈武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND〉が、
牧場ごとに、ひとつひとつにストーリーがあることを知る
きっかけになればうれしいですね」
information
武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND
*価格はすべて税込です。
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