連載
posted:2012.6.25 from:岡山県美咲町 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
みんなどんな朝ごはんを食べているのか? 暮らしの大切な一場面だから、
おいしい朝のメニューを全国さまざまな場所で集めてみます。その土地ならではもあれば、新しいスタイルも!?
editor's profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力
credit
撮影:Suzu(fresco)
2005年に行われた「平成の大合併」。
岡山県でも78の市町村が27にまで減り、
新しく生まれた美咲町も、旭町、中央町、柵原町の3つが合併した町だ。
しかし公募によってまったく新しい町名がつけられたので、
そのまちがどんなところか想像させることが難しい。
そこでまちおこしに取り組んだ。
それは新しくもベーシックな朝ごはん、たまごかけごはん。
旧中央町には120万羽のにわとりが毎日100万個のたまごを産んでいる
西日本最大の養鶏場があり、
旧旭町と中央町には日本棚田百選にも選ばれている
大垪和西(おおはがにし)棚田と小山棚田がある。
たまごかけごはんをまちおこしに起用するにあたっての、
最大のヒントとなったのは、たまごかけごはんを日本に広めたのが、
旧旭町出身のジャーナリスト岸田吟香だという説だ。
岸田吟香は、1833年生まれ。
日本で最初の従軍記者を経験、
東京日日新聞主筆となり、新聞界の草分けとして知られている。
こうして3つの町が合併することで、
たまごかけごはんの生まれるストーリーが整ったのだ。
美咲町にある「食堂かめっち。」の黄福(こうふく)定食は、
ごはんとたまご、そしてみそ汁とお新香で300円。
しかもごはんとたまごはおかわり自由。
「1杯食べてもらって、おいしくなかったら1杯だけでいいし、
もしおいしかったらおかわりしてほしい。
何も特別なことはない、ただのたまごかけごはんですから(笑)」と
美咲町役場産業観光課の川島聖史さんは笑う。
“たまごかけごはんに最適なごはん”を選んでいるわけでもないし、
“たまごかけごはん用たまご”を使っているわけでもない。
「美咲町を知ってもらいたいという思いからはじまったもの。
もっと高いお米やたまごなら他にもあると思いますが、
ここではあくまで地元のもの、“美咲町そのもの”を食べてもらいたい」(川島さん)
300円で黄福定食の食券を買って、席に座るころにはもう用意されている。
たまごを割って、混ぜて、ごはんにかける。
日本人なら何十回何百回とやってきた動作が、
なんだかあらたまった儀式のように感じられるから不思議だ。
でもひとくち食べてみると安心の味、いつものたまごかけごはん。
「どうやって食べるといいの? なんて聞かれることも多いですが、
“いつも通り自分流で食べてください”とお答えします」と川島さんは話す。
だから、いつ誰が食べても、おいしい。
使っているお米は、
こしひかり、あきたこまち、きぬひかりと日によって異なる。
たまごも「森のたまご」の赤玉。特別じゃない。
でも地のものだけあって、新鮮そのもの。
「たまごは毎朝届きます。
普通、スーパーマーケットなどでたまごを買う場合、
賞味期限がいつまでかを気にして買いますよね。
でもここではいつ生まれたかを、気にされます。
“え、今日の産みたてじゃないの? おととい産まれたたまごじゃん“という
ぜいたくな状況です。だから二日と置けない(笑)」(川島さん)
たまごのこの上ない新鮮さを知っている常連になると、
たまごを混ぜないで白身と黄身と別に食べるという技もある。
黄身の濃厚さ、白身のプルプル感。たまごのおいしさをより知ることができる。
味付けとしてかけるのは、醤油ベースのたれ。
独自にしそ味、のり味、ねぎ味の3種類を開発した。
それぞれに風味が異なり、飽きさせない。
でも、シンプルに醤油オンリー、もちろんこれも抜群においしい。
たまごを生で食べる習慣は世界的には少ないので、
これからはたまごかけごはんを世界にむけて発信していきたいという。
一見はやりのB級グルメのようであるが、ごはんの国の日本人が、
ごはんをプリミティブかつ最高においしく食べる手段であると考えると、
かなりのA級グルメともいえる。
さらに、まちおこしとしてスタートしたその先には、
観光客のみならず、Uターン人口を増やしたいという。
たまごかけごはんを「食堂かめっち。」で食べて、その足で棚田へ。
かつては風景撮影を目的にしたカメラマンばかりだったのが、
観光の若者があぜ道にいる姿を見かけるようになった。
そして米農家に「たまごかけごはん、おいしかったですよ」と話しかける。
こうした効果で美咲町がすばらしい町と認知され、
Uターンへとつながるかたちが望ましい。
だれもがホッとする日本の朝ごはん代表、たまごかけごはん。
2杯3杯とおかわりするうちに、妙にリラックスして落ち着いてしまう。
だって、いつも通りの家庭のたまごかけごはんなのだから。
Shop Information
食堂かめっち。
住所 岡山県久米郡美咲町原田(中央総合運動公園内)
TEL 0868-66-1118(美咲町役場 産業観光課)
営業時間 9:00〜17:00
休み 年末年始
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