連載
posted:2016.7.28 from:宮崎県東臼杵郡美郷町 genre:食・グルメ
sponsored by KIRIN
〈 この連載・企画は… 〉
その土地ならではの風土や気質、食文化など、地域の魅力を生かし
地元の人たちと一緒につくった特別なビール〈47都道府県の一番搾り〉。
コロカルでは、そのビールをおいしく飲める47都道府県のスポットをリサーチしました。
ビールを片手に、しあわせな時間! さあ、ビールのある旅はいかがですか?
writer profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
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撮影:フジモリタイシ(calm-photo)
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47都道府県、各地のビールスポットを訪ねます。
宮崎でコロカルが向かったのは、自然があふれる美郷町。
南国・宮崎! なイメージとはほど遠い、
ここはかなり山深い美郷町渡川(どがわ)地区。
宮崎、大分、熊本、どのまちからも
それなりに時間がかかる秘境感たっぷりのエリアです。
ここにある兄弟がいました。兄の今西 正さん、弟の猛さんの今西ブラザーズ。
ふたりは渡川生まれで、山師としては〈今西林業〉、
そして自分たちで育てたしいたけや地域の食材などを販売する
〈渡川山村商店〉を営んでいます。
渡川では中学を卒業すると近くに高校がないので、
必然的に宮崎市などに出ることになります。
その後、ふたりとも福岡で働き、弟の猛さんは10年前に、
兄の正さんは昨年、渡川に戻ってきました。
「都会の福岡で働いていると、自分が生まれ育った渡川が
とてもいい場所だったんだなという感情が湧いてきたんです。
親父がずっと林業をしていて、誰も継がないで終わってしまうのも寂しいし、
もったいないと思ったので、林業を継ごうと思って渡川に戻ってきました」
という猛さん。
一方、兄の正さんは、名刺に「Uターン山師」と書いてあります。
20年近く福岡にいて、昨年Uターンしました。
「僕はずっと洋服関係で働いていました。年を追うごとに、
同郷の仲間が渡川に戻っていろいろな活動をし始めたりしていて。
そういった動きをみていると、自分も何かやりたいという気持ちになってきましたね。
弟は10年前に戻ってきて、林業だけで手一杯。
どちらにしろ、僕が戻ってきても山師としてすぐ役に立つわけではないので、
都会に長くいたからこその視点を生かしていきたいと思っています」
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かつて山師の多くは、副業的にしいたけを育成していたといいます。
今西家でも原木しいたけを育てて販売しています。
ちなみに現在流通しているしいたけのほとんどは、菌床栽培のしいたけだそう。
おがくずなどをかためた菌床で育てるスタイルです。
一方、今西さんたちは昔ながらの原木しいたけにこだわっています。
自分たちで育てたクヌギの木を伐採し、まず葉枯らしをします。
そして1メートルほどに切り分けます。
その後は、種菌を植えつける植菌という作業。その原木を山の中で寝かせます。
これらすべてを手作業で行うため、意外と重労働。
さらにそれほど売り値も高くないため、生産者は減っていく一方だそう。
渡川地域でも原木しいたけを育てているのは、若手では今西さん兄弟のみ。
「原木の生しいたけは、別の食べ物かと思うくらい
めちゃめちゃおいしいです。でも売りにくい商品なんですよ。
例えばきゅうりなら、同じタイミングで一斉に収穫できます。
しかし原木しいたけは、秋から春の間ではあるが不定期にパラパラと生えてくる。
だから生で出荷したくても、量をまとめることができません」(猛さん)
だからしいたけは乾燥されて出荷されることがほとんどであって、
生しいたけは市場にはあまり出回らないのです。
そこで渡川山村商店が考えたのが「採れたときでいいよ。システム」。
「完全に生産者優位のシステム(笑)。
注文をもらっても、採れたときしか送りません。
そのかわり、一番おいしい状態で送ることができます。
100人にひとりでも“それでいい”と言ってくれる人がいたらうれしいです」(猛さん)
渡川山村商店で扱う商品は、しいたけ以外もすべてこのシステムで運用されています。
ほかには梅、お茶、お米、さらには工芸品もあります。
「近所のおじいちゃんが植えている梅の木もあります。
無農薬というかほぼ自然栽培です。あとは釜炒り茶。
日本のお茶はほぼ煎茶ですが、渡川に1軒、釜炒り茶が残っているところがあります。
さらには食以外でも、『めんぱ』というヒノキのお弁当箱も。
曲げわっぱのようなもので、渡川に職人さんがいます」(猛さん)
これらはどれも小規模で、大量につくれません。小さな山間部の農業では、
買い手のタイミングに合わせて提供するシステムは難しいのです。
「“売れるからがんばってつくってよ”とお願いしたり、
無理して設備投資してもらっても、結局うまくいきません。
だから思いきってガラッと考え方を変えてみました。
やってみたら、思いのほか、みんな受け入れてくれましたね」(猛さん)
すべての農作物に旬というものがあります。
自然豊かな渡川では特に、旬=自然のリズムに任せたいもの。
注文してから、のんびり待つのもいいかもしれません。
渡川山村商店としてもうひとつ、今年から始めたのが「原木オーナーシステム」。
3000円ひと口で申し込み、しいたけが採れたときに、
5000円分の生しいたけと乾燥しいたけが送られてくるというもの。
オーナーになると、これ以外にも植林体験などのイベントや、
宮崎市内の飲食店で開催される試食イベントなどにも招待してくれます。
「実は原木しいたけは、菌を植えてから収穫できるまでに2年間かかるんですよ。
だからもし新たにしいたけを育て始めても、
最初の2年間は収入ナシになってしまいます。
初期投資だけして回収がないのもつらい。だから新規参入しにくいんです。
そこでクラウドファンディングのような考え方をとり入れてみました」(猛さん)
「こうした取り組みを通じてしいたけのことや生産者の現状に
興味を持っていただきたいという思いもありますし、
原木オーナー制度のような考え方を参考にしてもらって、
しいたけ生産への新規参入のきっかけになれればと思います」(正さん)
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渡川山村商店での活動や山の整備など、
地域で積極的に活動している今西さん兄弟ですが、
地域にいる若手で結成している〈渡川ONE〉=ドガワンという
地域活性化グループにも参加しています。
渡川地区でのお祭りやイベント、自然塾などを開催しています。
渡川には自然を大切にした生活リズムが流れています。
大きな産業があるわけではないけれど、逆に人間サイズの生活があります。
地域と自然と、それを土台にした生活をもう一度見つめ直すような動きが、
今西さんたちなど地域の内側から行われています。
こうして原木しいたけの普及に努める今西さん兄弟。
いろいろな活動をしていますが、なにより食べてもらうことが一番。
ということでホームページではおいしい食べ方のレシピも公開し、
イベントに出店して試食なども積極的に提供しています。
特におすすめの料理を試食させてもらいました。その名を「ナバ南蛮」!
そう、宮崎といえばチキン南蛮ですが、こちらはナバ。
ナバというのは方言で、しいたけのことです。
肉厚なしいたけに小麦粉を振り、とき卵にくぐらせて揚げます。
アツアツのまま、甘酢につけます。そこにたっぷりタルタルソース!
サクサクの衣のなかで、しいたけがプリップリに弾けています。
今回は季節的に水で戻した乾燥しいたけを使いました。
それでも十分おいしいのに、これが生しいたけだったとしたら、もう!
ごはんもビールもすすむ逸品ですね。
今年は宮崎市内に、直売所を兼ねたコワーキングスペースをつくろうと計画中。
ますます渡川の魅力が発信されていくでしょう。
そうすればもっと山に手が入り、山が元気になり、
もっともっとおいしいしいたけが食べられそう!
※一番搾り 宮崎づくりは、宮崎の誇りを込めてつくった、宮崎だけの味わいです。
問合せ/キリンビール お客様相談室 TEL 0120-111-560(9:00~17:00土日祝除く)
ストップ!未成年者飲酒・飲酒運転。
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渡川山村商店
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