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キンメもほろほろに。
土佐備長炭を復活させた
〈炭玄〉の熱い炭焼きストーリー

NIPPON 47 Beer Spots&Scene!
全国、心地いいビールスポット
vol.033

posted:2016.7.27   from:高知県室戸市  genre:食・グルメ

sponsored by KIRIN

〈 この連載・企画は… 〉  その土地ならではの風土や気質、食文化など、地域の魅力を生かし
地元の人たちと一緒につくった特別なビール〈47都道府県の一番搾り〉。
コロカルでは、そのビールをおいしく飲める47都道府県のスポットをリサーチしました。
ビールを片手に、しあわせな時間! さあ、ビールのある旅はいかがですか?

writer profile

Ikuno Fujii

藤井郁乃

ふじい・いくの●外資系OLを退職し、本州で一番人口の少ない市・室戸へ移住。普段はなかなか見えにくい生産者の想いや生産現場など、モノの背景にある物語を届けるべく活動中。地場産カフェの立ち上げや、地元食材を使った商品の開発の合間、畑仕事や自宅である古民家リノベにのんびり勤しみ中。 http://magazine-watashi.com/

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撮影:氏川彩加

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Supported by KIRIN

47都道府県、各地のビールスポットを訪ねます。
高知でコロカルが向かったのは、土佐備長炭の郷、室戸。

四国の先端で、土佐備長炭の窯を立ち上げたアツい男

四国の最東端。台風銀座としても知られる室戸市。
実は、本州、四国、九州の中で一番人口の少ない市でもあります。
そんな室戸市で、伝統産業である備長炭の生産を担っている
若手集団がいると聞いてやってきました。

高知市から2時間。ひたすら海岸線を走ります。
まるで海と陸の境界線を走っているかのよう。
車を止めれば聞こえてくる波の音に、心穏やかになります。

吉良川のまち並み。室戸市は珍しい地質や文化、住民の活動が評価されて、ユネスコ世界ジオパークに認定されています。

やってきたのは室戸市の吉良川町。
京都を思わせる歴史的なまち並みを背にして、川沿いに山奥へと車を走らせます。
見えてきたのは、緑の中にぽつんと立つ小屋。
そこから白い煙があがっているのが見えます。
車を降りると小屋のまわりには、切り倒した直後の大量の生木。
小屋に入ると、隙間から入り込むふんわりとした光が積もった灰を照らしています。
絵本の中に迷い込んだような幻想的な空気に、思わずはっと息を呑みます。

山の奥にぽつんとある炭焼き小屋。周りには民家もなく、鳥の鳴き声と川の音が聞こえます。

小屋の周りに積み上げられた原木。

小屋の中の様子。

迎えてくれたのは黒岩辰徳(たつのり)さん。
10年前、地元である吉良川町で土佐備長炭の窯元〈炭玄〉を立ち上げました。

「高校を卒業するまで、何もない地元が嫌で早く出たかった。
卒業して市外に出たんだけど、道を歩いているおばあちゃんも、
声をかけてくれる周りの人も、全部当たり前じゃなかったんだなあと気づいた。
外に出て初めて地元のよさに気づいて、それで室戸に戻って来たんだよ」

しかし、Uターンして黒岩さんが見たのは、なかなか厳しい室戸の現実でした。
「室戸を好きな人はいっぱいいる。室戸で働きたいと思っている人もいっぱいる。
でも室戸にいたくても仕事がないから、みんな市外に出て行く。
地元に雇用を生み出さないといけないと思ったよ」

〈炭玄〉代表の黒岩辰徳さん。

室戸に雇用を生む産業は何か。
悶々と悩む黒岩さんが、ある日出会ったのが、とある新聞記事でした。
当時の備長炭シェアの8割が安価な中国産。
しかし、森林保護のために、中国が備長炭の輸出を制限するというのです。
吉良川はもともと備長炭で繁栄を成した地域でした。
必ず国産の備長炭に需要が戻ってくる、吉良川で雇用が生み出せる。
そう確信した黒岩さんは、生まれて初めて、炭焼きの世界に足を踏み入れました。

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炭玄ファミリーが担った土佐備長炭復活の快挙

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伝統の中に革新を。炭玄ファミリーが担った土佐備長炭復活の快挙

備長炭ができあがるまで、およそ20日間。原料となる木の伐り出しや、
12時間ぶっ通しの窯出し(備長炭を窯から出す工程)など、
体力に自信があった黒岩さんをもってしてもその工程は過酷そのものでした。
「いざ入ってみると、体力的にも精神的にも、なかなか大変だったね。
たくさん弟子がいても、みんな限界がきてしまってなかなか独立に至らない。
そこで気づいたのは、炭焼きは雇用を生み出せるけれど、
人が育つ分野ではない、ということ。
炭焼きをもっと、新しい人を受け入れて、育てていける
雇用の場に変えていかないといけないと思った」

そこで、いままでの慣習を大きく変えて、交代制や複数人態勢でまわす
新たな制度を打ち出し、雇用と育成に力を注ぎました。

チェーンソーを持って山へ分け入り、原木を伐り出すところから自分たちで行います。原木は重いものだと40キロにもなるそう。

窯出しの様子。1200度の窯の熱風が吹き上げ、小屋の中の温度は50度を超えます。この作業が夜通し、12時間続きます。

窯から出した炭は、灰の中で冷まします。備長炭の別名が白炭というのは、炭のまわりに灰がついて白くなるから。

加えて、経験の長さがもの言う世界でいちはやく先輩方と肩を並べるために、
炭玄独自の品質基準をもうけました。
通常、備長炭はその大きさや形によって10等級に分けられます。
でも、世間一般の最上級は、炭玄の品質でいうと2等級に設定しています。
常に最高品質のものを出せるよう、品質チェックの基準を極限まで厳しくしたのです。

その結果、クチコミでどんどん炭玄の備長炭の評判が広がっていきました。
いまでは問屋を介さずに、顧客に直接販売をしているそう。
「みんなクチコミで電話をかけてくれるようになった。
こっちも自信をもって出荷していると、相手も真摯に答えてくれる。
取引先の90%くらいの人は顔も見たことないつながりだけど、すごくいい関係だね」

選別の様子。太さや長さによって10等級に分けていきます。

黒岩さんがひとりで始めた炭玄も、いまでは14人の炭焼き職人がいます。
炭玄から独立をして自分の炭窯を持つ人もいます。
さらに驚くのは、黒岩さんのもとで修業を積んだ人で、
炭焼きを辞めた人はひとりもいないということ。
備長炭を窯でじっくり焼くように、人の育成にも力と時間を注ぐ黒岩さんだからこそ、
彼のもとで新たな火は燃え続けるのでしょう。

一時は後継者不足から生産も低迷していた備長炭。
黒岩さんが芽吹かせた新たな職人の力もあって、
2014年には生産量が10年前の2.4倍になりました。
これは県別にみると全国1位の生産量。
高知県が1位になったのは、実に51年ぶりの快挙です。

炭玄ファミリー。地域の伝統行事にも積極的に参加をしていて、炭焼きにとどまらず、室戸の伝統を受け継ぐ大きな力です。

炭焼き作業で大量に汗を流したあとの1杯は五臓六腑に染み渡るそう。

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備長炭でじっくり炙る、室戸特産キンメダイ

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じっくり焼かれた備長炭でじっくり炙る、室戸特産キンメダイ

炭玄が生産した土佐備長炭をいただいて、炭焼き小屋の真横を流れる川の下流へ。
炭をおこして焼くのは、室戸市特産のキンメダイ。
地元の商店で、なんと1匹240円なり。そのままの姿でワイルドに焼いちゃいます!
七輪、炭、網、魚、そしてビール。なんという最強のコンボでしょう。
炭火でじっくり炙っていると、魚からじゅわじゅわと脂がしみ出します。

キンメダイの両面に焦げ目がついたら、いざ入刀。
箸を入れるとほろりと崩れる身。お塩もお醤油もなくても、
ぎっしりつまったその身だけで十分、ビールがすすみます。

キンメの脂が備長炭にかかって、ジュージューと香ばしい音と香りが広がります。

上流を見やればのんびり散歩をするおじいちゃん。
下流を見れば、川は海へと流れつき、波となってまた岸に返ってきています。
土佐備長炭復活に大きな役を担った黒岩さんを室戸に戻らしめたのは、
こんな美しい景色もあってのことでしょうか。
地元の空気に酔いしれながら、地元の魚を、地元の炭で焼く。
ローカルでしか味わえない、贅沢の極みです。

この橋の上で、地元の方々が夕涼みやバーベキューをするのが日常の景色なんだとか。

今回飲んだのは、
地元の人と一緒につくった
〈キリン一番搾り 高知づくり〉

「世話好きで、議論好き」と言われる高知の人。そんな地元の人と地元のことを語り合ってつくられたのが、この〈キリン一番搾り 高知づくり〉です。パッケージのイメージカラーは、深い青。さて、その味わいは……。

キリン一番搾り 高知づくりってどんなビール? →

※一番搾り 高知づくりは、高知の誇りを込めてつくった、高知だけの味わいです。

問合せ/キリンビール お客様相談室 TEL 0120-111-560(9:00~17:00土日祝除く) 
ストップ!未成年者飲酒・飲酒運転。

information

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炭玄

住所:高知県室戸市吉良川町甲2323-1

TEL:0887-24-5811

https://www.facebook.com/murotokirakawasumigen

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