連載
posted:2016.6.6 from:鹿児島県鹿屋市 genre:食・グルメ
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〈 この連載・企画は… 〉
その土地ならではの風土や気質、食文化など、地域の魅力を生かし
地元の人たちと一緒につくった特別なビール〈47都道府県の一番搾り〉。
コロカルでは、そのビールをおいしく飲める47都道府県のスポットをリサーチしました。
ビールを片手に、しあわせな時間! さあ、ビールのある旅はいかがですか?
text & photo
Yuichiro Yamada
山田祐一郎
やまだ・ゆういちろう●福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライターとして活動中。麺の専門書、全国紙、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に『うどんのはなし 福岡』。
http://ii-kiji.com/
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47都道府県、各地のビールスポットを訪ねます。
鹿児島でコロカルが向かったのは、鹿屋の〈ふくどめ小牧場〉。
鹿児島県の南東に位置する大隅半島の山奥にある〈ふくどめ小牧場〉。
ここでは、日本ではこの場所でしか飼育されていない
〈純粋サドルバック〉〈幸福豚〉という豚が飼育されており、
その豚を使ったハムとソーセージがつくられています。
つくっているのは、ドイツでその製法を学び、
その地でマイスターという国家資格まで取得した気鋭の職人、福留洋一さん。
その品質の高さは口コミで広がり、いまでは関東、関西からの引き合いも多いそう。
洋一さんはふくどめ小牧場を立ち上げた福留公明さん夫婦の次男。
幼い頃から両親を手伝い、高校を卒業後、自身も豚の飼育に携わろうと考えていました。
「あるとき、父親にそのことを伝えると、
『牧場は兄の俊明に任せるからお前は加工を学べ』と言われました」
ここで言う「加工」とは、この牧場で飼育されている豚たちの肉を使って
商品をつくるということを意味します。
一般的に手塩にかけて育てられた豚たちは、
その後、さばかれ、ロース、ヒレ、バラといったように、
部位ごとに分けられ市場へと流通していくのですが……。
「ほかに比べて需要がほとんどないウデやモモといった部位が余ってしまいます。
二束三文でも取引されればまだいいほうで、場合によっては捨てられてしまいます。
私たち牧場側からすれば愛情を注いだ1頭の豚ですから、
極端に言えば頭のてっぺんから爪先まで、余すところなくきちんと食べてもらいたい」
ハム・ソーセージを製造すれば、そういった部位を
おいしく消費者のもとへ届けられると考えた父・公明さんの言葉を受け、
洋一さんはその製法を学び、加工販売の道へ進むことを心に決めます。
洋一さんは高校を卒業後、群馬県にある食肉の学校で加工について学びました。
その後は語学留学のため、単身イギリスへ。
世界を知り、つながりを持ってほしいという両親の考えから、
福留家では洋一さんを含む兄妹全員が海外へ留学しているそうです。
イギリスで過ごすなか、洋一さんは休日を利用して
ハム・ソーセージづくりの修業先を見つけるべく出かけたドイツの地で、
衝撃的な光景に出会います。
それが「オーガニック村」という通り名で呼ばれている〈ヘルマンスドルファ〉でした。
「実は、その村は有機農場を経営する
〈ヘルスマンドルフ〉という会社がつくったんです。
生きていくうえで必要な食べ物を村の中ですべて生産、栽培し、
自給自足が成り立っています。野菜は完全に有機栽培。
この村には肉屋、チーズの店、ビール工房、パン屋といったように、
さまざまなお店が集まっています。
さらに保育園もあれば、村内にはアートも点在していて、暮らしそのものがとても豊か。
私が考える理想のかたちが目の前に広がっていて、とにかく驚きの連続でした。
いまでもはっきりとその様子を覚えています」
この場所でハム・ソーセージづくりを学びたい。
そう考えた洋一さんは、ドイツ語も話せない身ながら、何度も断られ、
それでも諦めずにアプローチし、ようやくこの地で修業を積む許可を得たそうです。
本場仕込みのハム・ソーセージづくりを習いつつ、
ドイツの国家資格でもあるマイスターの資格を取得するため、
実に7年の月日を過ごしました。
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洋一さんがドイツに滞在することになったおかげで
〈サドルバック〉との出会いもありました。
サドルバックはもともと、イタリア生まれの品種で、その存在は世界的にも希少。
肉質の良さに加え、脂身が多いのがこのサドルバックの特徴ですが、
その特徴ゆえに、以前は不人気でした。
「市場では脂身が多いとそれだけ製品の出来高がよくないと見なされ、
サドルバックは低く評価されていました。さらにこの品種は成長が遅く、
その点においても生産者たちから不人気だったんです。
ただ、私自身は豚の旨みが脂身にあると思っていたので、
あとは育て方を工夫すればとても頼れる品種になると確信しました」
父、兄をドイツに呼び、ふたりに感想を聞いたところ、満場一致で飼育を決定。
ドイツから直接輸出することは叶いませんでしたが、
アメリカからサドルバックを5頭、連れてくることができました。
ふくどめ小牧場ではサドルバックに「純粋」を加えて
〈純粋サドルバック〉と命名。本格的な飼育がスタートしました。
洋一さんが帰国したのは2012年。
それから、これまであった牧場に加え、ハムとソーセージの加工・製造工場、
加工商品の販売スペース、飲食スペースをつくり上げました。
「両親と兄が飼育を、私が加工・製造を、そして妹が販売をそれぞれ担当しています。
飼育から販売まで一貫していると、よりいっそう、豚の命のありがたさが実感できます」
そんな洋一さんのハム・ソーセージづくりにおけるモットーは「シンプル」。
素材本来のよさをストレートに表現したいという思いがあるそう。
「ドイツでヨーロッパ各地の加工技術を学ぶことができました。
ほんの少し脂身を合わせるだけで味がグンと引き立ったり、
スパイスの配合を微調整することで風味が色鮮やかに表現できたりする。
本当に奥が深いです」
洋一さんはハムやソーセージに合わせ、スパイスを独自にブレンドし、
専用のミックス香辛料に仕上げているそうです。
例えば、ドイツの製法でつくるソーセージ〈プフェルツァー〉は
ゴロッと大きめの脂身が存在感を発揮していて、
噛むと肉汁が滴るどころか飛び散るほど。
また、南チロルで2000年以上も受け継がれている
伝統の製法に基づいた生ハム〈チロールシンケン〉は、20種ものスパイスを合わせ、
咀嚼するほどに奥行きのある旨みが口いっぱいに広がります。
ほかにもサラミやハムを食べてみましたが、いずれも肉の味が鮮明。
思わず「豚肉ってこんなにおいしいんだ」という言葉が漏れてしまうほど、
どのハム・ソーセージも感動をもたらしてくれました。
現在、ふくどめ小牧場では30頭のサドルバックが飼育されていて、
そのうちの4頭がハム・ソーセージ工場の裏手で放し飼いされていました。
これからこの4頭は出荷されるのですが、
そんな命の連鎖が目の前で営まれ、それを目の当たりにすると、
おのずと、ひと口、またひと口とじっくり味わいたくなります。
「通常の豚の場合は6か月ほどで出荷されますが、
純粋サドルバックは8か月とゆっくり時間をかけて育てています。
そうすることでこの種本来の魅力がしっかり引き立つんです。
私もその魅力が損なわれないよう、細心の注意を払っています」
現在は、純粋サドルバックと、その純粋サドルバックを50%以上かけあわせた
〈幸福豚〉も飼育・販売しています。
こちらの幸福豚も市場で高い評価を得ているそうです。
ふくどめ小牧場の名前も年々、認知度が上がっているなか、
洋一さんをはじめ、福留家には、規模を大きくする考えはありません。
「だからうちは牧場じゃなくて、“小牧場”なんです。
自分たちでできることを、丁寧に、長く続けていきたい。
サドルバックについても、販売が順調に推移すれば、その分、頭数は減らす方向性です」
会話の中で何度も出てきた
「ゆっくり」「じっくり」「丁寧に」という洋一さんの言葉は、
ハム・ソーセージを、そしてビールをおいしく味わうための秘訣のようにも思えました。
※一番搾り 鹿児島づくりは、鹿児島の誇りを込めてつくった、鹿児島だけの味わいです。
問合せ/キリンビール お客様相談室 TEL 0120-111-560(9:00~17:00土日祝除く)
ストップ!未成年者飲酒・飲酒運転。
information
ふくどめ小牧場
住所:鹿児島県鹿屋市獅子目町81-1
TEL:0994-48-2304
営業時間:10:00~18::00
定休日:月曜日、第2・4火曜日、ほか不定休あり
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