連載
posted:2025.2.17 from:鳥取県米子市 genre:旅行
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
鳥取県米子市。
コロンボ(以下コロ): 米子の街道沿いの郊外に品よく佇むカフェがあったから、
ちょいと寄り道したら、これが大当たり!
カルロス(以下カル): 外観を見る限り、
まさかレコードを音源としてかけているお店だとは思わないね。
コロ: でしょ。レコードバーだと、なんだか怪しい匂いに誘われて、
なんとなく鼻が利くもんだけど、カフェとなるとね。
カル: いま風な感じだと、わからないでもないけど、
ここまで端正な一軒家のお店だと、ボクらのアンテナも機能せずだ(笑)
コロ: それでもオープンして今年で14年目だそうだ。
カル: 〈遠音(とおね)〉っていう店名も情緒があるね。
遠鳴りがする音はいい音っていうし。
コロ: ローマ字で表記すると「TONE(トーン)」とすることもできて、
メッセージがこもっているでしょ?
米子郊外の街道沿いにポツンと佇む瀟酒な一軒家のカフェ。
朝はクラシックからはじまり、陽の動きとともに選曲も変わっていく。
カル: うっとり。 しかも9時半オープンだっていうじゃない。
この連載で最も早い開店時間だ。
やっぱりお店は静かに始まるの? パット・メセニーとかアール・クルーな感じで。
コロ: 午前中はクラシック。12〜14時はボサノヴァ、
そして14時以降はジャズっていうタイムテーブルなんだよ。
カル: シームレスな流れ、美しい‼︎
コロ: すっきりと広々とした店内にぴったりの音質なんだよ。
奥ゆかしい音っていうのかな。
カル: 意識高いお店だね。
コロ: お店を始めるきっかけは、
マスターの瀬尾尚史さんの社会人になってからの夢なんだって。いつかはこんなお店をと。
だから建物の設計からして、音楽を聴くためにこだわりが詰まっているようだよ。
カル: 防音とかそういうこと?
コロ: それも大事だけど、窓、カーペット、壁の中の構造まで、
とにかく響きを研究し尽くしたらしい。
カル: 本棚にあった『住まいと音』(岡山好直著)が指南書なのかな?
コロ: そのとおり、
『遮音は材料によって行うのではなく、建築の構造によって行う』という教えを
具現化したんだ。
放送局から払い下げてもらったDENONの業務用プレーヤーをレストア。
設計段階から音響にはこだわったお店。そのバイブルともなった書籍『住まいと音』。
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カル: マスター、そもそもオーディオ好きではありそうだけど。機材はどうなの?
コロ: スピーカーはモニター用として開発された
30センチ同軸複合型ユニットの〈ALTEC〉の601-8D、
ターンテーブルは放送局用として使われていた〈電音(当時)〉のRP-52Bと、
こちらも端正でオーセンティック。
カル: たしかにお店にふさわしいチョイス。
コロ: このお店、音量のコントロールがとてもポイントで、
ジャズ喫茶のような音量だと、大き過ぎるし、
かといって、BGM程度で鳴らすには小さ過ぎる。
カル: ひとり静かに読書しているお客さんもいらっしゃって、
ミュージック・ライブラリーという側面もありそうだものね。
コロ: そうなんだよ。だから小さくともクリーンに、クリアに聴こえる必要があるので、
その加減がかなりデリケートみたい。
カル: クラシック、ボサノヴァ、ジャズと三毛作にしたのは土地柄かな。
コロ: 朝からジャズというのも、っていうのがあったみたい。
カル: たしかに1ジャンルだと客層は絞られちゃうからね。
徐々にシリアスに圧を上げていくのはいいアイデアかもね。
コロ: 朝のクラシックは音量差が生じないように古典がメインで、
バッハ、モーツァルトあたりからはじまる。
スピーカーの背後にもふんだんにスペースを確保することで、しなやかな音の響きに。
自然光の入り具合とジャズギターが映える。ケニー・バレルの次にかけてくれたエド・ビッカート・カルテット。
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カル: ジャズだと、どのあたり?
コロ: 幅広く大音量で聴いたりするものじゃなくて、
整ったアレンジでしっかりとしたウェストコースジャズや、
サックスでいえばソニー・クリスとかモダンテナーのズート・シムズとかね。
カル: カフェのロケーション的にはギターなんかも合いそうだよね。
コロ: ちょっとなにかかけてもらえますかってお願いしたら、
ケニー・バレル、エド・ビッカートをみつくろってくれたよ。
個人的にはジャズギターは好きだなー、まったりして。
カル: 陽の高いうちにチルするにはもってこいだよね。
コロ: デンマークのイェスパー・シロなんかも好きで、
ついつい買い集めちゃうらしいよ。
カル: 気になるとコンプリートしたくなる気持ちよくわかるなー。
さっき、ミュージック・ライブラリーって言ったけど、蔵書も気になるんだけど。
ジャズをはじめ音楽系中心の蔵書。ミュージックライブラリー的な側面も。
つい集めてしまうデンマークのイェスパー・シロのアルバム。
コロ: 音楽関係の本が中心の棚づくりなんだ。ジャズ関連が多いかな。
村上春樹だったら「さよならバードランド」などの翻訳ものとか。
カル: マンガもあるの?
コロ: 「BLUE GIANT」はもちろん「ピアノの森」「僕はビートルズ」ってね。
カル: マスターの瀬尾さん自身、影響を受けた本というと?
コロ: ジャズ評論家の寺島靖国の「辛口JAZZノート」だって。
自分の好きなものは、自分で探さないとダメだということをわからせてくれたらしい。
カル: さぞかし世界が広がったんだろうね。今度、行く機会があったら、読んでみよう。
音楽図書館としても楽しみが増えたかも。
コロ: 楽しみついでに奥さま手づくりのケーキも忘れずにね。
これまた端正な味わいで秀逸だよ。
コーヒーも1杯1杯ネルドリップで丁寧に淹れてくれるんだ。
カル: まどろみたい気分になってきたなー、すっかりと。
ジャズでなにかとお願いしたら、手前のケニー・バレルを手に取ってターンテーブルに乗せてくれた。
ネルドリップで丁寧に淹れる遠音ブレンド(500円)。手づくりのチーズケーキ(飲み物+400円)。
information
cafe 遠音
住所:鳥取県米子市奥谷935-1
TEL:0859-26-3511
営業時間:9:30〜18:00
定休日:月・火曜
【SOUND SYSTEM】
Speaker:ALTEC 601-8D
Turn Table:電音(当時)RP-52B 60年代放送局用
+TEAC TN-42(放送局用)
Pre Amplifer:CUSTOM MADE
Power Amplifer:CUSTOM MADE
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
*価格はすべて税込です。
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