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音楽のまち、松本。
創業50周年を迎えた
ジャズ喫茶の本格派〈EONTA〉

SOUNDS GOOD!!! 音のいい店ジャパンツアー
vol.028

posted:2024.10.24   from:長野県松本市  genre:旅行

〈 この連載・企画は… 〉  ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。

writer profile

Akihiro Furuya

古谷昭弘

フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。

credit

photographer:深水敬介

illustrator:横山寛多

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
長野県松本市。

アナログとハイレゾ音源をほどよくミックスした進化系の老舗

カルロス(以下カル): 松本っていうと音楽のまち、
それも小沢征爾さんってイメージだよね。

コロンボ(以下コロ): 夏の風物詩『セイジ・オザワ 松本フェスティバル』。
小沢さんが亡くなった今年も開催されたんだ。

カル: クラシックだけの祭典じゃなくて、
ジェイムス・テイラーがお忍びでやってきたりとゲストも多彩だよね。

コロ: ほかにも「りんご音楽祭」とか、
ボクらが行った週末には「信州ギター祭り」が開催予定だったよ。

カル: ハイエンド・ギターとギター・ビルダーが集うイベントね。
ギターの産地としても信州は有名。
さらに〈サウンドパーツ〉社っていうオーディオメーカーもあるね。

コロ: そうそう創業時は真空管と関連パーツをつくっていた会社なんだけど、
いまじゃマニア垂涎のアンプを製作している。
ここ〈エオンタ〉のパワーアンプも〈サウンドパーツ〉のカスタムだよ。
〈マッキントッシュ〉のプリアンプとのコンビで稼働中。

エオンタとは古代クレタ語で「存在するものたち」。まさに創業50周年を迎えた〈エオンタ〉に相応しい。

エオンタとは古代クレタ語で「存在するものたち」。まさに創業50周年を迎えた〈エオンタ〉に相応しい。

入口の階段の壁に書かれたサイン。ビル・エヴァンスをはじめレジェンドたちの足跡が。

入口の階段の壁に書かれたサイン。ビル・エヴァンスをはじめレジェンドたちの足跡が。

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老舗ジャズ喫茶の音源とは?

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カル: 〈エオンタ〉の創業って、1974年なんだってね。
今年で創業50周年なんだ。これまたすごい。
ってことはバリバリのオールドスタイルのジャズ喫茶なの? 私語厳禁だったり?

コロ: いやいや、全然ハードコアじゃないかも。
スピーカー前のコーナーは聴いているお客さんを尊重しておしゃべり禁止エリアだけど、
カウンターやほかの席はうるさくならない程度にって感じだよ。
ボクらが入店したときはジャズといっても、E.S.T.がかかっていたくらいだから、
とても柔軟。

カル: E.S.T.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)って
スウェーデンのピアノ・トリオ? レディオヘッドに影響を受けたっていわれる。
いいよね、エレクトロ感が90sな感じで。ニュージャズの走りみたいなトリオだ。

コロ: しかもアナログでなくて、DSなんだよ。

カル: デジタル・ストリーム! これまた柔軟。

スピーカー前の特等席はジャズ喫茶の伝統に則り「おしゃべり禁止」。

スピーカー前の特等席はジャズ喫茶の伝統に則り「おしゃべり禁止」。

伝統の足跡を残している店内。もはや希少価値であろうポスターがそこかしこに。

伝統の足跡を残している店内。もはや希少価値であろうポスターがそこかしこに。

コロ: 店主の小林和樹さんはアナログだけに固執するのではなくて、
ハイレゾ音源も追求しているみたいで、CDもそのまま通さず、DSでかけるんだってさ。
スマートにデジタル・シフトしている。

カル: だからレコードの代わりにジャケットがiPadで飾られているんだ。
ハイレゾ音源ってそんなにすごいの?

コロ: より精緻な音になるって言ってたよ。
古い作品はレコードで、新作はハイレゾって感じらしい。
だからってCD化が早かったわけじゃなくて、出た頃は音に満足できなくて、
買っては捨て、買っては捨ての連続だったんだって。

レコードに負けず劣らずのCDコレクション。そのまま再生されるのではなくい、DSを通すことで精緻な音に。

レコードに負けず劣らずのCDコレクション。そのまま再生されるのではなくい、DSを通すことで精緻な音に。

ハイレゾ音源によるビル・エヴァンスの『Explorations』。面出しはもちろんiPad。

ハイレゾ音源によるビル・エヴァンスの『Explorations』。面出しはもちろんiPad。

カル: 落ち着いたのは?

コロ: 聴けるようになったのは
〈フィリップス〉のCDプレイヤー「LHH700」が出たあたりかららしいよ。

カル: 今じゃ、ビル・エヴァンスの『Explorations』もハイレゾで聴くらしいね。

コロ: ジョン・コルトレーンの
『Selflessness Featuring My Favorite Things』なんかもデジタルみたい。
聴いていてドーンと来たね。
コルトレーンのオーラが突撃してきたみたいだったよ。

カル: 大袈裟じゃない?

コロ: 細かいところまで再現性が高いから、音が雰囲気だけじゃないんだよ。
〈LINN〉のDSプレイヤーの威力がすこぶる発揮されている。

カル: デジタルのよさだね。

コロ: それとワンオペだから、忙しいときにラクなんだってさ(笑)。
とはいえ、圧倒的なレコードコレクションだし、オーディオもしっかりしているから、
アナログもまったく遜色ないよ。

カル: 「ALTEC A7」のスピーカーに
「JBL2405」+「JBL HARKNESS」をつけ足すというこだわりようなんでしょう。

コロ: よく知ってるね! アンプは「サウンドパーツ6550」。
おまけにオーディオ評論家の岩崎千明さんの教えにより、
お店中をパンチカーペットでくるんで、反響をおさえているほどの手のかけようなんだ。

ジョン・コルトレーンの名作『Selflessness Featuring My Favorite Things』。アナログとデジタルでかけてくれた。

ジョン・コルトレーンの名作『Selflessness Featuring My Favorite Things』。アナログとデジタルでかけてくれた。

スピーカーはこれまた〈ALTEC〉の名作A7に「JBL2405」をつけ足したりとチューンナップ。

スピーカーはこれまた〈ALTEC〉の名作A7に「JBL2405」をつけ足したりとチューンナップ。

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お客さんに教えてもらう曲とは?

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カル: 選曲は基本50年代以降なの?

コロ: そうみたい。ブルーノートばかりがかかるお店じゃない。
イタリアのアルボラン・トリオがかかったりして、
かなりアップデートしている印象だったな。お客さんが教えてくれるんだって。
それぞれに得意分野があるから、かなり感度の高い情報が入ってくるそうだ。
ただし、ヴォーカルものはあまりかけないんだって。

カル: 外国人のお客さんも多いらしいね。

コロ: 英国のガイドブック『Lonely Planet』にも載っているらしい。
「ジャズ好きにおすすめの店」って感じでね。

カル: 海外のガイドブックって、この手の店をしっかり取材しているよね。
恵比寿あたりの取材拒否のレコードバーなんかも、普通に載っていたりするもんね。

コロ: 余談なんだけどさ、取材のときに聴かせてくれた音が、
操作のあんばいで、最初は左チャンネルが鳴っていなかったんだ。
音圧が強いな、くらいしか違和感がなかったんだけどね。
それでコーヒーのみながらもう一度聴かせてくれた。

聴き直すと別物だったよ。

カル: さすが、マスター、やさしい! 
で、コーヒーはどんなだって?

コロ: 深煎りのストロング・スタイル。

カル: まさに王道だ。

イタリアのジャズトリオ、アルボラン・トリオの『ISLANDS』。

イタリアのジャズトリオ、アルボラン・トリオの『ISLANDS』。

ちょっと深煎りな味わいがとても芯があって美味。焙煎はお願いしているとはいえ、自身でブレンドはするそうだ。

ちょっと深煎りな味わいがとても芯があって美味。焙煎はお願いしているとはいえ、自身でブレンドはするそうだ。

information

map

Jazz et booze EONTA 

住所:長野県松本市大手4−9-7

tel:0263-33-0505

営業時間:16:00~23:00

定休日:水曜

 

SOUND SYSTEM

Speaker:ALTEC A7 +JBL2405+JBL HARKNESS

Turn Table:MICRO SX-555 FVW

Control Amplifier:McIntosh C36

Power Amplifier:Sound & Parts 6550(custom)

DS Player:LINN Akurate DS

旅人

コロンボ

音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。

旅人

カルロス

現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。

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