連載
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
京都府京都市。
コロンボ(以下コロ): 今回は〈ビートルmomo〉というレコード酒場。
カルロス(以下カル): 四条、高瀬川沿いという絶好のロケーションだから、
桜の季節ともなれば外国人客でごった返しているんだろうね。
コロ: ごった返しているもなにも、いまはお客さんの9割が外国人なんだって。
カル: 桜とも関係なしに?
コロ: 桜の時期は特に。お店の窓から見る高瀬川の夜桜はサイコーだよ。
コロナまでは地元のお客さんや日本人の観光客、
たまに外国人客って感じのしっとりとしたリスニングバーだったけど、
コロナを機に外国人寄りのお店へと振り切ったんだってさ。
カル: 店主の肥田博貴さん、
もともとは銀座8丁目の路地裏で〈beatle lane〉っていう
イカしたお店をやっていたんでしょう。
コロ: 酔っぱらって行ったら2度と辿りつけない迷路みたいな小径の
小さなレコードバー。
というか、レコードをかけるバーって感じ。
朝6時までやっていたので、入稿明けによく行ったなー。
カル: わー、昭和。不適切にもほどがある。
コロ: そうは言っても2017年閉店だから、平成後期だよ。
カル: その銀座が立ち退きで惜しまれつつ閉店し、京都に?
コロ: そうみたい。
外国人のお客さんと日本人のお客さんは音楽の聴き方が違うから、
次第に相容れなくなっていったようだよ。
カル: 日本人がレコードバーに求めるものって、
外国人にとってのそれとはかなり違うからね。
コロ: 日本スタイルのレコードバーが
ニューヨークやロンドンで増えてきたっていうけど、
まだまだその辺のムードまでは浸透していないみたい。
カル: オープンでフレンドリーなPUB文化というか、
おとなしく飲むって意識が少ない外国人が、
肥田さんのかける音楽をちゃんと聴いてくれているのだろうか?
コロ: はじめのうちはおとなしく聴いていて、
「あなたのかける曲はグレートだ」とか言ってくれるんだけど、そのうちに騒ぎ始める。
バーに来た外国人に「静かにしてくれ」っていうのも野暮かなと、
最近は意識を改めたんだってさ。
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カル: 肥田さんの選曲が逆に盛り上がるきっかけになっちゃいそう。
コロ: ただ、京都に来る外国人は、日本文化に溶け込もうというなかで楽しむので、
盛り上がるといっても品位があるらしいよ。
カル: あとお店の音のよさも新鮮らしく、
真空管の灯りに神秘を感じるみたいだってね。
コロ: 京都進出を機に変えたスピーカー、TANNOY〈Eaton〉の
まろやかな音にも最初は興味津々。
カル: ピンク・フロイドのライブとかをかけると静かに盛り上がるんでしょう。笑える。
外国人にとってピンク・フロイドは盛り上がる側の音楽っていうのも
日本人にはおかしいよね。シティポップとかはどうなの?
コロ: これがまた微妙で、大瀧詠一とかは反応が悪くて、
やはり鉄板は竹内まりやの「プラスティック・ラブ」。
女性ヴォーカルが好きみたいで、ほかにも松原みき、杏里のリクエストが多いそう。
カル: 日本人らしい透明感が外国人の心をくすぐるのかな。
リクエストも聞いてくれるんだね。
コロ: リクエストを聞いてあげるとたくさん飲んでくれるんだって(笑)。
カル: そりゃ、聞いてあげないとね。
〈PLASTIC LOVE〉っていうジンベースの名曲カクテルもあるんでしょ?
コロ: そうなの。
ほかには〈PURPLE RAIN〉、〈HERE COMES THE SUN〉、
〈BOHEMIAN RHAPSODY〉と名曲カクテル多数。
カル: カクテルばかりのオーダーだとサーブが忙しくて、
レコードをまわすヒマがなくなっちゃいそうだけど。
コロ: そういうときは「ホテル・カリフォルニア」とか
「ボヘミアン・ラプソディ」とか長い曲をかけるんだってさ(笑)。
シティポップの話に戻るけど、
高中正義とかカシオペアあたりの80年代のフュージョン系に
やたら食いつきがいいそうだ。
カル: フュージョン人気、根強い。この辺も選べば長い曲ありそう(笑)。
肥田さん自身はどんな嗜好なの?
〈ビートルmomo〉ってくらいだから、ビートルズ?
コロ: 店名のビートルは、
馴染みのあるワードの方が屋号にふさわしいとのアドバイスからだって。
ちなみに「momo」は肥田さんの愛犬ね。
とはいえビートルズだと『アビーロード』の「Here Comes The Sun」ではじまるB面。
基本ラインはブリティッシュロックで、
お気に入りのアルバムは
ピンク・フロイドの『狂気』、『炎』、フリートウッド・マックの『噂』。
カル: レコードバーのあるべき姿でうれしい!
しかも邦題全盛期の名作ばかり。ストロング・スタイルってとっても大事。
コロ: ツェッペリンとかストーンズの王道に加えて、
産業ロック的なヒットチューンとかヒップホップをリクエストに応じて。
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カル: ヒップホップはどのあたり?
コロ: 80年代ものはアレステッド・デベロップメント。
年代を追って、カニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマーかな。
カル: いいねー、潔よし!
銀座の頃は歌謡曲とかもかけていたけど、いまそれほどでもないの?
コロ: 客層が変わったから、ほとんどかけないみたい。
あっ、そうそう羊文学の『12 hugs (like butterflies)』はよくかけるそうだ。
ゆくゆくはもう一軒、昭和歌謡のお店をつくりたいそうだよ。
カル: 肥田さんの蝶ネクタイのバーテンダーキャラ、
外国人ウケがいいみたいで、
TikTokとかインスタに京都のレコードマスターとしてよく上がっている。
コロ: ニューヨークに日本オリジナルのレコードバーを出してみたいという
野望もあるみたい。
騒いじゃって、音楽を聴いてくれないという環境にも馴染んできたみたいだし。
カル: グローバルにキャラ立ちしているから楽しみだ。
日本オリジナルっていうのはいいよね。
いくらリスニングバーが人気といっても、
海外のレコードバーって、どうしてもDJバーみたいになっちゃうもんね。
コロ: ねー、お客さんがうるさいと注意するような、
キリッとしたお店があってもいいかもしれないね。
information
レコード酒場 ビートルmomo
住所:京都府京都市中京区下樵木町204-4 啓和ビル2F
Tel:075-254-8108
営業時間:19:00〜25:00
定休日:水曜
Instagram:@beatlemomo_kyoto
【SOUND SYSTEM】
Speaker:TANNOY EATON
Turn Table:DENON DP-500M
Power Amplifier:LUXMAN MQ60 Custom
Pre Amplifier:LUXMAN A3032
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
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