連載
posted:2024.3.15 from:東京都西東京市 genre:エンタメ・お楽しみ
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスがリスニングバーを探す巡礼の旅。
今回は特別編。
リスニングバーから飛び出し、
東京都西東京市の床屋へ。
コロンボ(以下コロ): 今回はすごいよ、意外性たっぷり。
レコードバーじゃなくてレコードバーバー。
カルロス(以下カル): えっ、床屋さん?
コロ: 〈レコード音楽床屋セキ〉、レコードをかけながら散髪してくれるんだ。
カル: 店構えからイカしてるね。貼り紙のコラージュ!
《アナログレコード再生中です》だとか
《ビートルズを3音源で聴けます》だとか。
コロ: 3音源を貼り紙のまま説明すると、
①王道のレコード(ノイズ、歪みを含め熱い音で再生)
②スピーディなCD(好きな曲を選んで素早く聴けます)
③マニアックなUSENで(全曲大好きというマニアには
ランダム再生のUSENが最高)
だってさ。
カル: USENにビートルズ・チャンネルってあるね。
たしかになにがかかるかわからないのは楽しみ。本人は何が好きなの?
コロ: 店主の堰(セキ)信太郎さん的には
アルバムは『Please Please Me』で、楽曲だとほぼ全部なんだって。
「Now and Then」はありますか? って聞いたら、
聴いたけど、買ってないってさ。ビートルズは4人揃ってこそだと。
カル: たしかにね。微妙といえば微妙。
ところで、どうしてこんなトリッキーな床屋の形態になったの?
コロ: 創業は昭和41年だから、そろそろ60年。
レコードをかけるようになったのは、ここ15年くらい。
カル: 元々はUSENがメインだったんでしょう。
コロ: 家のオーディオやレコードが、家族に邪魔者扱いされて、
それじゃお店に置こうってことがはじまりだとか。
カル: たしかにオーディオって、関係ない人には邪魔だったりするよね。
スピーカーは箪笥みたいでかさばるし。
コロ: レコードも最初はラックに行儀よく並んでいたのが、
どんどん増えて、今じゃバーバー・チェアにも侵食して、
3つのうち2つを占領。1000枚は軽くあるかな。
とはいえ、レコードの半分はお客さんからのいただきものなんだってさ。
カル: だからいろんなジャンルがあるんだ。映画音楽も豊富。
サウンドトラックとは違って、
昔懐かしい、LP12枚組の映画音楽大全集があったり。
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コロ: ほとんどの音楽に対応するらしいよ。
昭和歌謡もあるし、グループサウンドもあるし、クラシックもある。
特に60〜70年代の映画音楽のメジャーどころはほぼほぼ揃っている。
カル: どの辺がストライクゾーンなのかな?
コロ: いちばんといわれれば『サウンド・オブ・ミュージック』だそうだ。
作曲家でいえば、『ゴッドファーザー』のニーノ・ロータ、
『ひまわり』のヘンリー・マンシーニ、『男と女』のフラシス・レイだって。
カル: 王道だね。いまでいうところのジョン・ウィリアムズ級。
ボクはなんだろう、
『トレインスポッティング』とか『パルプ・フィクション』かな。
サントラというかコンピレーション的だけど。
コロ: 取材に行ったときにかけてくれたのが、
ジュリー・アンドリュースの「ドレミの歌」と「燃えよドラゴン」。
それも7インチ。
カル: 「燃えよドラゴン」はこの間、
山下達郎さんの『サンデー・ソングブック』の辰年特集で久しぶりに聴いたけど、
「ドレミの歌」のオリジナルは久しく聴いてないな。
ところで7インチをかけながらだど、3分くらいで中断しちゃって、
カットに影響しないの?
コロ: 大丈夫なんだって。
カル: 職人芸だね。
コロ: ターンテーブルは、いまじゃ懐かしいフルオート。
カル: 機材も古くてイケてるんでしょ。
コロ: そうなんだよ。この間までCDプレイヤーは
SONYのハンディな初期型だったんだけど、
さすがに悲鳴を上げてこわれちゃったみたい。
スピーカーも当時としては珍しかった〈TANNOY〉だったりと。
そうそう、〈STAX〉のコンデンサー型のヘッドフォンもあったよ。
カル: ラジカセもあるけど、カセットもかけるの?
コロ: リクエストがあればかけるみたいだけど、
カセットはもっばら落語がメイン。
カル: リクエストもできるんでしょ。
コロ: もちろん。手書きのレコードリストから好きに選べるんだ。
カル: そんなんじゃ、床屋としては回転が悪くて効率よくないね。
コロ: 回転は悪いみたいだけど気にしてないみたい。
予約も余裕をみて1時間半刻みで入れるそうだ。
カル: 調髪が終わったあとコーヒーも出るんでしょう。
コロ: コーヒー飲んで、レコード聴いて、
お客さんはだいたい2時間くらいはいるみたいよ。
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カル: 窓という窓は映画のポスターやら、レコードジャケット、
ソノシートで埋まっていて、ギャラリーみたいだし、
鏡の横にビートルズのフィギアがあったり、ハサミのそばに7インチがあったり、
北の湖など名力士たちの手形があったりと、ちょっとしたカオス。
コロ: まさに昭和そのままに、ミュージアムと化している。
ビートルズ関連のグッズを見つける楽しみもあるんだ。
なんたって、時計の中にだっているんだから。
カル: 歌謡曲、グループサウンズ、フォークとたいがいはあるんでしょ。
リクエストはした?
コロ: 八代亜紀を追悼ということでお願いしたら、ベスト盤でかけてくれた。
「舟唄」は沁みたなー。この日、入口には小澤征爾のアルバムジャケット、
篠山紀信が撮った南沙織のシングルジャケットと
お店はちょっとした追悼ムードだったよ。
カル: でもって、調髪料はいくらなの?
コロ: おひとりさま4000円だってさ。
information
レコード音楽床屋 セキ
住所:東京都西東京市住吉町4-5-1
Tel:042-421-0405
営業時間:8:30〜19:30
定休日:月曜
【SOUND SYSTEM】
Speaker:TANNOY Stirling(Custom Hand Made)
Turn Table:Technics SL-1300
Pre-Main Amplifier:DENON PMA-390AE
CD Player:SONY D-50
Radio Cassette Player:Victor RC-55
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
*価格はすべて税込です。
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