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コミュニケーション能力

マチスタ・ラプソディー
vol.028

posted:2012.9.21  from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

広告プレゼンの思い出。

10年近く前のこと。取材で会った脳科学者の茂木健一郎さんに
「本当に頭がいい人ってどんな人ですか?」と聞いたことがある。
「コミュニケーション能力の高い人でしょうね」
即座にそんな答えが返ってきた。
たとえば、満員電車の中でつり革につかまった老人が隣にいたとする。
そして目の前にはシートに座った若者が。
そんなとき、若者の気を損ねることなく席を譲らせる、
そんな言葉をかけられる人間こそ本当に頭がいいのだと茂木さんは言うのだった。
なるほど。そこでぼくならと想像すると、気を損ねるどころでなく、
流血沙汰の展開しか見えてこない。

2010年に岡山県内で圧倒的な購読率を誇る『山陽新聞』の
130周年記念号を制作させてもらった。
その年の2月あたりだったか、同社系列の広告代理店で第一回の企画のプレゼンを行った。
その場にいた20名ほどのスーツを着た営業マン、
とくに社長を含む上層部の人たちはぼくの企画が理解できないという反応だった。
「そんな企画で広告が売れるわけがないだろう? 
どうやってクライアントに説明すればいいんだ?」
社長の言葉には明らかに怒気が含まれていた。
「そんなこと言われても、なあ?」
ぼくはそう言って、隣にいた唯一の味方、デザイナーのリュウくんと顔を見合わせた。
我ながら最低の受け答えである。
「この写真集を見ると」
そう質問を切り出したのは、同社でデザインを担当しているS女史。
「安村さんは人をまったく撮っていませんが、大丈夫なんですか?」
鋭い質問だった。ぼくの企画は写真家の安村崇に県内在住の一般の人を撮ってもらい、
1ページにつきひとりの写真を掲載して8ページを構成するというものだった。
異様に思われたのは、8ページに入れる文字要素が人名と肩書きだけで、
説明的な文章を一切入れないという点だった。
そんな大胆な企画をたてているわりに、
「こんな写真家です」と渡した写真集には、
こたつの上のミカンだの、お風呂のふただのホッチキスだの、
一般家庭にある普通のモノの写真しかなかったのだった。
実際、安村さんが撮影しているのはモノか風景がほとんどで、
ぼくも彼が人を撮った写真は見たことがなかった。
それでもぼくは自信たっぷりに答えた。
「大丈夫です」
「本当に?」
「はい、絶対いいものができます」
 そう言うと、さらに鋭い返しをくらった。
「その根拠は?」
 根拠、とな? 根拠は……
「……勘です」
その場がさらにざわめいた。
もうこれ以上いても無駄だと思い、ぼくとリュウくんは早々にその場を後にした。
結局、その企画は同社の担当Iさんの熱意に会社がほだされるかたちで実現に至ったのだが、
いま思い返してもひどいプレゼンだった。
たぶん、ぼくはやっちゃいけないのだ、こうしたプレゼンの類は。

児島で縫い子(縫製業者)をやっているフジタくんとは
昼どきから延々とエッチな話に花を咲かせることはできても、
言葉で人に何かを説明するのは苦手だ。
ましてや説得するとか、意見を戦わせるなんていうのは論外な話。
つまりマチスタの経営者はコミュニケーション能力が異常に低い。
茂木さんの論理で言えば、あまり頭がよろしくない人なのであった。

実は本人はかなり以前からそのことには気づいており(当たり前だな)、
致命的な弱点のひとつと認識している。
マチスタでもそんなぼくの性質がマイナスに働いてきたのは疑いない。
開店前まではコイケさんと店の方向性などについて話すこともよくあったのだが、
開店後はほとんど話すことはなくなった。
それでいいと思い込もうとしていたフシがある。
ぼくが口をはさむより、現場に立っているコイケさんとのーちゃんに
すべて任せた方がいいだろうと。
「コイケさんは飲食のプロ、対してぼくはズブの素人」という遠慮があったのも事実だ。
それにしてもコミュニケーションがなさすぎた。
どんどん赤字が膨らんでいくような状況であれば、
なおさらコミュニケーションが必要だった。
そう考えるようになって、
ぼくのコミュニケーション能力の低さの原因が少しわかったような気がした。
ぼくはたんに臆病で、ぶつかるのを恐れていたのだ。

そろそろだ。そろそろマチスタのこれからについて
コイケさんとじっくり話さなきゃなと思っている。

これが例の130周年記念号の表紙。翌年の全広連(全日本広告連盟)の最高賞を受賞している。ぼくの勘は間違っていなかったわけだが、そのわりに以降、同社とは仕事の付き合いがまったくなし。プレゼンの印象が悪すぎたか。

植木屋時代の先輩ジローちゃんのライブイベント「コーヒー&レゲエナイトvol.1」の開催が迫ってきた。日時は9月29日(土)午後6時から。チケットはコーヒー付きで800円。当日はジャマイカのコーヒーを用意して待ってます!

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

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