連載
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつの商店街(地域)をねり歩きながら、パンと具材を集めて勝手にサンドイッチを作る旅。
そこでしか食べられないオリジナルなサンド、果たしてどんなものができるのか?
writer profile
Kozakai Maruko
小堺丸子
こざかい・まるこ●東京都出身。読みものサイト「デイリーポータルZ」ライター。江戸っ子ぽいとよく言われますが新潟と茨城のハーフです。好きなものは犬と酸っぱいもの全般。それと、地元の人に頼って穴場を聞きながら周る旅が好きで上記サイトでレポートしたりしています。
credit / note
撮影:水野昭子
「商店街サンド」とは、
ひとつの商店街(地域)で売られているパンと具材を使い、
その土地でしか食べられないサンドイッチを作ってみる企画。
必ずといっていいほどおいしいものができ、
ついでにまちの様子や地域の食を知ることができる、一石二鳥の企画なのだ。
今回の舞台は、和歌山県の北東に位置する高野山。
1200年前に弘法大師・空海が切り開いた聖地であり、多くの寺が密集している。
高野山といえば、まず浮かぶのは険しい山々。
そして、お坊さんたちが日々厳しい修行をしている、というイメージだ。
そんなところでサンドイッチ作りをやりに行くわけだけど……
商店街どころか、食材屋さんが並んでいる気がしない。
しかし高野山に行ったことがある知人の「余裕でできる」という言葉を信じ
向かってみることにした。
大阪から、南海電鉄の電車とケーブルカーを使い山の中を駆けあがった。
季節は10月の頭。
標高867メートルにある高野山駅につくと
気温がグッと下がったのを感じた。
高野山駅前には特になにもなく、ただまちへ向かうバス停があるのみ。
少しうねりのある道を通り、まちの一番端っこ< 大門>まで向かった。
今回ご縁があってサンド作りにつきあってくれたのは、
南海電鉄の出村谷さん。
日々、高野山にあるお店やお寺を周っては、
まちのいいところを外部に発信しているそう。
そんな彼女から、知人と違う情報が入ってきた。
「和菓子屋さんは多いですけど、食材あったかなあ」と自信なさげなのだ。
やっぱりないのか!? 私の不安も高野山レベルに高まってきた。
少し歩いてみてまず驚いたのは、土地が平坦であったことだ。
険しい山奥をイメージしていたので坂が多いと勝手に思っていたのだ。
綺麗に舗装された道を出村谷さんと進む。
高野山はお寺のイメージが強いけど、
聞けば病院も図書館も、幼稚園から大学までもある立派な“まち”だそうだ。
かと言って、同じくお寺が多く並ぶ京都とも雰囲気が違う。
宗教色がより濃く、
おみやげ屋さんは多いもののそこまで観光地化はされていない。
“静かで厳かな雰囲気”を味わえるのが、高野山の魅力なのだそうだ。
開創してちょうど1200年とあって、
今年(2015年)はそれはもう多くの人が訪れたそう。
その中には外国人、特に西洋人が多いらしい。
大阪から約90分で行ける“天空の宗教都市”は、
神秘的でとても魅力を感じるのだろう。
Page 2
出村谷さんが「ここに入ってみましょう」と案内してくれたのは、
スタート地点の大門から寺の密集地へ向かう途中にあったガソリンスタンド。
トイレでも借りるのかと思ったがそうじゃない。
なんとここ、近所で評判の手づくりジャムが置かれているそうなのだ。
もともとは、お母さんが趣味で作っていたのを、
知り合いにプレゼントしていたのがきっかけだそう。
それが好評になり、人に勧められお店に置くようになったのだとか。
どれも和歌山産の素材にこだわっているそうで、
見た目からしてめちゃくちゃおいしそう。
時期的なものでこの日はなかったが、
ネーブルのマーマレードでは
「プレミア和歌山 審査委員奨励賞」を受賞したそうだ。すごい!
ガソリンスタンド屋さんが作るジャムと蜂蜜、とてもおもしろい。
サンドの候補に入れつつ、他のお店も見てまわろう。
ここで残念なお知らせ。
いま高野山にはパン屋がないそうだ。
1年前までは人気のパン屋さんがあったのだけど、
近くにコンビニができたからなのか閉店しまったそう。
仕方ないのでサンドに必要なパンはほかのもので代用しよう。
味噌屋〈みずき〉さんでは、
それぞれ違った食べ方が楽しめる味噌を展開していて
味見をすると全部欲しくなってしまった。
特に梅の味噌は一日中ずっとなめていたい、と思うほどおいしい。
味噌のしょっぱさと梅の甘酸っぱさが絶妙なのだ。
さらに梅は和歌山の特産ということもあり、人気ナンバーワンらしい。
これは是非いれたいぞ。
メインの通りにはおみやげ屋さんの中に、
酒まんじゅう屋さんや麩まんじゅう屋さんをはじめ、
和菓子を売るお店がたくさん。
観光客が買っていくというのもあるが、
そもそもはお寺が多く、お客に出すお茶菓子が必要なため
和菓子屋さんが多いのでは、ということだった。
なるほどー。
Page 3
食事どころとしては、精進料理を出すお店や、
外国人がよく入るカフェなどがあった。
高野山の見どころは半径1キロ程度に凝縮されており、
2時間も歩けばだいたいまわれる。
散策にはちょうどいいまちである。
しかし、サンド作り目線でまちを眺めると……
困ったことに何もない。
ヤマザキショップなどの商店はいくつかあるけれど、
オリジナルの食材を出すお店はほとんど見つけることができなかった。
特に肝心要のパンに変わるものを見つけるのにひと苦労。
まちを何度かウロウロしてみるものの、
パンの代わりになるものがどうしても見つからず、
普通のサンドイッチを作れる気配なし。
もうこうなったら、新しい世界へチャレンジするしかない!
「真言密教の聖地・高野山」のイメージとはほど遠い
かわいらしいサンドが完成した。
パンの代わりに使った麩焼きは、
総本山・金剛峯寺でも出されるこの辺の代表的なお菓子。
和三盆で周りがほんのり甘いのだが、
購入した松栄堂オリジナルの〈五智〉は色が5色あり、
黄色はショウガ味、黒は黒糖味など微妙に風味が異なっていた。
中に挟んだごま豆腐は、
ふつうワサビ醤油をかけていただくものだが、
黒蜜をかけてスイーツ感覚で食べるのもオススメというもの。
モッチリとした食感を楽しむものであり、割となんでも合う食材である。
ということは、梅味噌もきっと合うに違いない。
スペースを貸してくれたお味噌屋さんも、
梅味噌とごま豆腐の組み合わせは絶対合うと太鼓判を押してくれた。
問題は、果たして麸焼きとごま豆腐&梅味噌が合うかどうかである。
味わう前に、ごま豆腐が逃げた。
実はごま豆腐をパッケージから開けた瞬間、嫌な予感がしていた。
表面がツルツルとしていて、麩焼きの上で軽い滑りを見せたからだ。
いざひと口噛んでみると、
麩焼きの圧力にスルリと抜け落ちるごま豆腐。
もっちりした高い柔軟性が裏目に出てしまったようだ。
その扱いにくさに笑ってしまって、食べるのが大変だった。
「外はサクサク、中はモッチリ」。
この食感の表現はよく見かけるけれど、
この高野山サンドほどそれが感じられるものはないんじゃないだろうか。
実際は「外はサクサク、中のモッチリが逃げる」。だけれど。
味は、やはり梅味噌がすごくおいしくて、その濃厚さが主導権を握っていた。
ほんのりと甘い麸焼きと、割とあっさりとしたごま豆腐はその引き立て役で、
食感を楽しむ役割であった。
それにしても、高野山でサンド作りが「余裕でできる」と言った知人は
何をどうするつもりだったのだろうか。今度会った時に問い詰めようと思う。
・角濱ごまどうふ総本舗のごま豆腐…238円
・松栄堂の麩焼き〈五智〉…650円
・レストハウスみずきの梅味噌…500円
・コンフィチュールコウヤ(ガソリンスタンド)の桃ジャム…680円
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
合計 2,068円
*なお、コロッケは単品でおいしくいただきました。
商店街サンド #08 -- Spherical Image -- RICOH THETA
Information
和歌山県 高野町
住所:和歌山県伊都郡高野町高野山
Feature 特集記事&おすすめ記事