〈 この連載・企画は… 〉
ひとつの商店街(地域)をねり歩きながら、パンと具材を集めて勝手にサンドイッチを作る旅。
そこでしか食べられないオリジナルなサンド、果たしてどんなものができるのか?
writer profile
Kozakai Maruko
小堺丸子
こざかい・まるこ●東京都出身。読みものサイト「デイリーポータルZ」ライター。江戸っ子ぽいとよく言われますが新潟と茨城のハーフです。好きなものは犬と酸っぱいもの全般。それと、地元の人に頼って穴場を聞きながら周る旅が好きで上記サイトでレポートしたりしています。
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撮影:水野昭子
「商店街サンド」とは、
ひとつの商店街(地域)で売られているパンと具材を使い、
その土地でしか食べられないサンドイッチを作ってみる企画。
必ずといっていいほどおいしいものができ、
ついでにまちの様子や地域の食を知ることができる一石二鳥の企画なのだ。
今回は、島根県の離島・隠岐の諸島にやってきた。
隠岐の諸島は4つの有人島と約180の無人島からなっている。
海の浸食による奇岩や断崖絶壁が見られたり、島独自の進化をとげる動植物があったりと、
古代の姿を残す美しい島々だ。
その貴重さゆえ「世界ジオパーク」にも認定されている。
そのなかでも今回は、一番大きい有人島・島後(どうご)の
隠岐の島町でサンドを作ることにした。
また、隠岐の島といえばかつて島流しの地であったことでも知られている。
流されたのは高貴な身分の人が多く、
有名どころでは後鳥羽上皇、後醍醐天皇。
そして、絶世の美女と名高い小野小町の祖父、小野篁(おののたかむら)だ。
小野篁は高官であり百人一首にも出てくるような文人でもある。
と、なぜ小野篁について詳しく述べたかというと、
今回サンド作りにつきあってくれた井上靖之さんが
その小野篁と恋仲になった「門古那姫(あこなひめ)」の末裔だったからだ。
初めて聞く名前ばかりでピンとこないけど、きっと凄いにちがいない。
「子どものころは島を早く出たくて仕方なかった」という井上さん。
高校を卒業後に島を出たが最近になって自分の出自を知り、
思うところあって戻って来たそうだ。
フェリー乗り場からすぐ近くの〈愛の橋商店街〉を案内してもらいながら
一緒に食材をさがすことにした。
井上さんは今回の商店街サンドをやるにあたり、
食材が集められるかとても不安だったようだ。
魚介類はそのままではサンドに挟めないし、
大型スーパー(車でちょっと行くとある)や
商店に売っている加工品は本島のものが多い。
そして食事は自分の家でとる人がほとんどなので、
買ってその場で食べるようなお惣菜はあまりないのだという。
絶景が多く観光にはもってこいの島ではあるが、
食べ歩きができるようなザ・観光地というよりは
静かなまち、のんびりとしたまちといった感じのようだ。
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かつてあったという離島ブームが去り、少し寂しくなった商店街だが、
井上さんの思い出の風景はまだまだまちに残っている。
たとえば愛の橋だ。
愛の橋と言うからには、
男女の恋や家族愛に関係するかとおもいきやそうではないらしい。
かつて遠回りしないと川を渡れなかった子どもたちのために、
近所の金物屋さんが私財をなげうちつくったそうなのだ。
クリスチャンだった金物屋さんの信条「なんじ隣人を愛せよ」から、
愛の橋と呼ばれるようになったという。
歩いていると、サンドに欠かせないパン屋さんを見つけたので入ってみることに。
どうやら井上さんがよく知るお店のようだ。
木村屋さんは家族3人でパン屋を営んでいる。
主にはスーパーにおろしているが、こちらの工場でも買うことができるそうだ。
食パンやロールパンといった定番はもちろん、
5つの味がランダムに入ったユニークな〈おやつあんぱん〉なんていうのもあった。
おやつあんぱんの紹介ニュースはこちら→『あんこはハズレ?!5つの味がランダムに入ったレアなパン。島根県「おやつあんパン」』
お母さんは、久々に見るやっちゃん(井上さん)の近況をひとしきり聞いた後、
先日東京で起きていた大きめの地震について気遣ってくれた。
隠岐の島では地震はほとんどなく、
せいぜい震度1〜2ほどの地震しか起きないそうなのだ。
4年くらい前から売り出しているというこちらの〈さざえ最中〉は
中身もそうだがパッケージがとてもかわいい。
なんでも、女性目線で隠岐のいいところをPRしていこうという地元の女性グループ
「ロマンティック愛ランド委員会」がデザインしたものだとか。
昔からある特産品もパッケージを変えるとさらに売り上げが伸びることがある。
新しい切り口でまちが動き出してるんだなと感じた。
さすが水木しげるさんゆかりの地だ。隠岐の島町にはかっぱ伝説があるのだ。
むかし、畑からキュウリを盗んでいた悪かっぱが地主に懲らしめられ、
「もう盗みはしないこと」「海で泳ぐ子どもたちに悪さをしない」ことを
約束し改心した。
以来、水難事故などが起こらないよう
水の守り神としてまつられるようになった、という話である。
海に囲まれた島ならではの話である。
よし、サンドにキュウリを入れることに決定だ!
井上さんのおかげもあり、まちの人たちがとても協力的で嬉しい。
教わった具材の候補地は商店街から少し離れていたので車で向かうことにした。
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あともうひとつくらい何か欲しいところだけどなにかないかね、と井上さんと頭をひねる。
そこで、井上さんがよく食べにいくというカフェでテイクアウトできないものか
聞いてみることに。
隠岐の島のあちこちで見られる岸壁のような姿をしたアゴカツは、
揚げてはいるけれど練り物のような食感。
ツミレのような、甘さの中に魚独特の苦みがある大人好みの味である。
その上にのせたフワフワのダシ巻き卵は、
味も舌触りも出会った島の人々のようにとても優しく、
プリプリとイカのような食感が楽しめるバイ貝がよく合っている。
頂きにのせた贅沢なうに味噌は、
まるで船から見たロウソク島の灯火のようにおぼろげに美しく、
しっかりとした塩気で存在感を主張していた。
そして最後、それらをまとめあげているのが木村屋さんのやわらかパンだ。
下のパンはまばゆいばかりにキラキラと輝く細やかな白波のようであり、
上のパンは隠岐の広い空にぽっかりと浮かんだ仙人雲のよう。
まるで隠岐の島全体を彷彿とさせるその姿に、
キュウリと化したカッパたちが喜んでいるようじゃないか!
もちろん、とてもおいしい。
さらに井上さんから嬉しい話を聞いた。
実は今回の商店街サンド企画をやると決まったとき、
商店街の人たちが皆で話し合う、一つの良いきっかけになったというのだ。
井上さんは「また隠岐の島で商店街サンドやりに来てください。
次来た時に、またひと味違うサンドができるように頑張ります」
と頼もしいことを言ってくれた。
またいつか、隠岐の島に商店街サンドを作りに来たい。
どんなものができるのかと、今からすごく楽しみである。
・木村屋のロールパン 4個275円 (食パン2枚 130円)
・あんき市場のキュウリ 2本120円
・味彩海道 うに味噌 100g 1280円
・福井鮮魚店のアゴカツ 2個入り300円
・Spuntino のダシ巻き卵 おすそわけ
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合計 1975円
夜、サンドの材料を探し中に出会った方が営むバー〈YULAYULA〉へ寄ってみた。
特性の豆腐コロッケをいただきながら
まちの課題を井上さんとマスターに聞いた。
離島ブームが去り、ほかの人に店をゆずるのではなく
シャッターをおろすことを選んだ親の世代。
まちに何もないと言って、ほかの地へ飛び出す若い世代。
そのどちらの気持ちも理解できるようになった
井上さん達の世代(私もだ)が、歯がゆくも、
なんとか踏ん張らないといけないのだなと、珍しく考えさせられてしまった。
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Information
隠岐の島町 愛の橋商店街
住所:島根県隠岐郡隠岐の島町城北町1番地
http://oki-dougo.info/
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