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摂氏0度の朝

鴨方町六条院回覧板
vol.002

posted:2016.1.27  from:岡山県浅口市鴨方町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  コロカル連載、『マチスタ・ラプソディ』『児島元浜町昼下がり』の著者・赤星 豊さんの新連載。
岡山県浅口市鴨方町に引っ越した赤星さん。“町内会の回覧板”をテーマに地方都市での日々の暮らしを綴ります。
更新は「回覧板が届いたとき」。気長にお待ちください。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●東京でライター・編集者として活動した後、フリーマガジン『Krash japan』を創刊。 広告制作会社アジアンビーハイブの代表を務める傍ら、岡山市内でコーヒースタンド〈マチスタコーヒー〉を立ち上げる。 マスターとして奮闘するも、あえなく2013年に閉店。2015年、岡山県浅口市に移住。

credit

写真:堂本裕樹

「おまえ、それはちと遅いんじゃないか?」と、
そんな非難やご指摘を覚悟の上で言わせてもらうと、
このように回覧板をテーマに書くことになって、
わが町・鴨方町六条院には二種類の回覧板が存在することがわかってきた。
ひとつは一般的な回覧板。
地域の催しなど伝達事項が文具店やホームセンターで売られている
普通のバインダーに挟まれ回ってくる。
そしてもうひとつがJAの回覧板だ。
A4サイズ、二つ折りのビニール製の専用バインダーで、
表紙部分には「回覧板」と「JA六条院」の文字がプリントされている。
日本列島を大寒波が襲った1月の下旬のその日にやって来たのも後者、
JAのそれだった。内容は、廃農薬回収のお知らせと果樹苗木の注文書。
果樹の種類は桃、ぶどう、柿、りんご、梅。
それぞれに細かく品種が分かれており、最多は桃で17品種にも及ぶ。
去年はご近所さんからありとあらゆる野菜をいただいた。
さすがフルーツ王国といわれる岡山だけあって、
いただいた果物も実にいろいろ、
イチゴに桃、スイカ、ぶどう、梨、柿、キウイ、リンゴなどなど。
あの中にはこの回覧板でJAに発注した苗木から育てられた分も
少なからずあったにちがいない。
いずれにしても、それがJAであろうがなかろうが、
近所の人たちからもらったものはことごとく美味かった。
幸い畑もあることだし、今年はいくらか自分でも作ってみようと思っている。

回覧板には定められたルートがあって、ぼくが次に回すのはAさん宅と決まっている。
この家、なかに入ったことはないんだけど、
どの部分をとっても懐かしい匂いがある。
築年数で70〜80年は経っているだろうか。
焼杉(杉を真っ黒に焼いた壁板)と泥壁の外観で、
アルミ製のサッシを入れるようなリフォームも一切施していない、
いわゆる昔ながらの日本家屋だ。
回覧板を回すのに、この家以上にふさわしい家もない。
トイレとお風呂が離れているつくりも、懐かしさに拍車をかけている。
しかもそのお風呂というのが五右衛門風呂、毎日薪で炊いているのだ。
夏の夕方、野良仕事の疲れを癒しているのだろう、
まだ陽も高いうちに細い煙突の先から白い煙をたゆたわせている光景を目にすると、
ぼくまでほのかに幸せな気分になったものだ。

五右衛門風呂こそないのだけれど、かくいう我が家も昔ながらの日本家屋である。
築80年の平屋の母屋の南側に2階建てをごっそり増築したつくりで、
その増築が50年前というからすべてにおいて古い。
しかし、昔の日本の家というのは、そらおそろしくなるほどよくできている。
夏の日中、外気温は35℃以上もあるというのに、
家のなかに入ると鍾乳洞のようにひんやり。
おかげで去年の夏はエアコンなしでも涼しい顔でいられたのである。
そしてその古い日本家屋で迎えた初めての冬……。

「あ、これしもやけだ」
風呂から上がり、足の爪を切るのと同じ体勢で足の指を見ていたタカコさんが言った。
あまりにも久しく聞かない言葉だったので、
ぼくはしもやけがどんな症状なのかまったく思い出せなかった。
「しもやけって、どんなんだっけ?」
「なんかね、むずむずしてかゆくて、ちょっと痛いのよ」
さほど深刻でない痛手のうちの、まさにこれくらいのものに対して、
同情よりも小意地の悪さが打ち勝ってしまうのがぼくの性格である。
でも、それがえてして諍いのもととなり、
大きな痛手となって返ってくることがままあることを学習しているので、
言葉は同情を装ってみるのだけれど、
それはやはり言葉の上っ面だけのものなので、意味もないものが付属していたりする。
たとえば、薄っぺらい無意味な笑いとか。
「そうなんだ、へへへ大丈夫?」
それから2日後のこと。チコリとツツを風呂に入れていると、
なにやら左の足の指先がむずむずする。
かゆいといって掻くほどじゃないんだけど、うっすらかゆいような。
風呂から上がって、むずむずする部分を見てみた。
人差し指と中指にあたる部分の爪の下あたりが赤くなっている。
「タカコさん、あのさ、これってなんだろうね?」
「ああっ! それ、しもやけじゃん!」
「やっぱり……へへへ」
古い日本家屋で迎えた初めての冬、ぼくたちはそろってしもやけになった。

昔の日本家屋というのは本当によくできている。
でも、それは冬にはあてはまらない。
昔の人は冬になるとみんな沖縄に行っていたのだ。
そう思えるくらい、昔の日本家屋は冬に対して無防備なのである。
JAの回覧板がやってきた1月のその日の朝、
我が家のリビングの気温計は0℃だった……。

リビングからの光景。室内の天井と空間を間仕切る建具をほとんど取っ払ってしまったので、当然暖房効率は悪い。さらに、1階部分の床の半分以上を土間に、おまけに一部2階の床をぶち抜いて吹き抜けにしているので、暖房を目一杯きかしても室温が二桁になる日はまずない。

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