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いま、町に本屋をつくるとしたら…… 前編

町の本屋制作ノート
vol.004

posted:2014.8.1  from:北海道札幌市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  町の本屋を巡る現状は厳しい。いま、町に本屋をつくるとしたらどうなるのか――。
本づくりに携わるライターが、本をつくるように本屋をつくることを目指す、ささやかな試みの記録。

writer's profile

Masatsugu Kayahara

萱原正嗣

かやはら・まさつぐ●フリーライター。主に本づくりやインタビュー記事を手掛ける。1976年大阪に生まれ神奈川に育つも、東京的なるものに馴染めず京都で大学生活を送る。新卒で入社した通信企業を1年3か月で辞め、アメリカもコンピュータも好きではないのに、なぜかアメリカのコンピュータメーカーに転職。「会社員」たろうと7年近く頑張るも限界を感じ、 直後にリーマン・ショックが訪れるとも知らず2008年春に退社。路頭に迷いかけた末にライターとして歩み始め、幸運な出会いに恵まれ、今日までどうにか生き抜く。

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撮影:島田拓身

名物書店が迎えた激動の夏

小豆島を訪ねた1週間後、僕は北海道へ飛んだ。
4月とはいえ、空港からの道すがら、ところどころに雪が見える。
冬が色濃く残る札幌で、僕は、町の本屋が直面する厳しい現実を垣間見るのと同時に、
本屋のあり方についてのヒントを手にすることになった。

札幌を訪ねたのは、前回同様、
「町には本屋さんが必要です会議」(通称:町本会)に参加するためだ。
この日、町本会を主宰する夏葉社・島田さんが対談するのは、
札幌で70年近い歴史を持つ「くすみ書房」の久住邦晴さん(62歳)。
くすみ書房は、これまで数々のユニークな企画を手がけてきた。
売れ行きの悪い文庫ばかりを集めた「なぜだ!? 売れない文庫フェア」や、
中学生へのオススメ本を集めた「本屋のオヤジのおせっかい、中学生はこれを読め!」など、
その取り組みは新聞やテレビで広く紹介され、北海道のみならず全国にもファンを持つ。

そのくすみ書房が、閉店の危機に直面している――。
とのニュースが流れたのは、2013年6月のこと。
3か月後には、クラウド・ファンディングで300万円の資金を調達し、それも話題を呼んだ。

危機の発覚から10か月が経過した4月の半ば、
くすみ書房の店舗近くのカフェを借りきり、行われたイベントは、
会場にぎっしりと40名を超える人が集まった。
全国的な知名度を持つ書店が、どうして苦境に陥ったのか――。
夏葉社の紹介から穏やかに始まったふたりの話は、
島田さんのこの問いかけで、一気に核心へと入り込んだ。
会場に集まった人たちは、久住さんの話に固唾を呑んで耳を傾けていた。

にこやかに談笑する久住さん(左)と島田さん(右)。本の力、本屋という場の力を信じるおふたりの話に、僕もおおいに勇気づけられた。

3度目の危機

二代目の久住さんが、店を継いだのは1999年、
くすみ書房は、それから3度の危機を経験している。
最初の危機は、2003年に訪れた。当時、店を構えていた札幌市西区琴似(ことに)は、
地下鉄の延伸によって人の流れが変わり、店の業績が急激に悪化する。
客足がもっとも増える夕方以降の売上が、以前の3分の1に落ち込んだというから凄まじい。
打つ手が尽き、店を閉める覚悟が定まりつつあったとき、久住さんは、
『あなたの会社が90日で儲かる』(神田昌典著、フォレスト出版)という
一冊の本を手にする。
「この本で救われる人が必ずどこかにいるだろう」というコピーに、
騙されたつもりで読み始めると、目が醒める思いがしたという。
その本は、売上を求めるよりも、人を集めることの重要性を説いていた。

まだやれることはある――。

そう感じた久住さんは、人を集めるために、ほかの店と違うことをしようと考える。
そこで思いついたのが、先に紹介した「なぜだ!? 売れない文庫フェア」だ。
周りが売れる本を追い求めるなら、うちは売れない本を集めてみよう。
逆転の発想は見事に功を奏し、起死回生の策となった。新聞やテレビでフェアが紹介され、
集めた新潮文庫とちくま文庫の売れ筋下位1500点は、1か月も経たずに完売した。
「売れない」烙印を押されていた本たちが、光を浴びて次々と売れていった。
それを見たほかの出版社が、「うちのほうが売れていない」と企画を持ち込んできた。
フェアの大ヒットで、傾きかけた経営は持ち直すかに見えた。

いまではくすみ書房の顔となった「なぜだ!? 売れない文庫フェア」。ちくま文庫、ちくま学芸文庫、岩波文庫、中公文庫などの文庫が揃う。

ところが、2000年代後半に入ると、近隣に大型書店が相次ぎ出店、売上が再び急降下を始める。
2度目の危機は、大きな決断によって切り抜けた。
2009年、厚別区大谷地にある商業施設からの出店依頼をきっかけに、移転を決意。
新天地は、売り場が以前よりも広くなり、売上は2倍以上になった。
好評だったフェアも常設できるようになった。
だが、攻めの移転によって負った傷も小さくはなかった。
店舗の賃料とともに、在庫の仕入負担も増した。
移転費用や、琴似時代に抱えていた負債も、経営をじわじわと圧迫する。
こうして、3度目の危機に見舞われたのが、2013年のことだった。

6月中に一定額の支払いができなければ、取引を停止する。

本を仕入れる出版取次(出版販売会社、以下「取次」)から、そう通告を受けた。
取次とは、文字通り、出版社と本屋の間を取り次ぐ卸売業者(問屋)のことで、
大手二社が市場の7割を押さえている。
プレイヤーが少ない業界で、取引相手の本屋の経営状況はすぐに広まる。
一社と取引が途絶えたからといって、別の取引に乗り換えることは通常できない。
要するに、取次からの取引停止宣言は、本屋にとって死刑宣告に等しい。
6月はじめの時点で資金繰りの目処は立っておらず、
「さすがに今度こそダメだと思った」と久住さんは述懐する。

くすみが書房なくなる!?

救いの一手をもたらしたのは、長女でフォトグラファーのクスミエリカさんだった。
エリカさんは、店の窮乏を訴え、広く資金を募ることを提案する。
「くすみが書房なくなる!?」と題したウェブサイトを公開し、
2012年に始めた「くすみ書房友の会『くすくす』」への入会者をひとりでも増やし、
支払い資金に充てようということになった。
「くすくす」は、年会費1万円で、久住さん自身が選んだ7000円相当の書籍と、
手づくりの情報誌「くすくす」が届けられる会員サービスだ。

サイトを公開したのは2013年6月14日(金)。
直後から、ツイッターやフェイスブックを介して反響が広がる。
週末には店がごった返すほどの客が来店し、「くすくす」への入会申し込みは400名を超えた。
各方面からも支援が得られ、わずか2週間で必要額が集まった。
これで一件落着だと、久住さんも胸を撫で下ろした。

だが、待ち受けていたのは、予想もしない厳しい現実だった。
取次からは、6月はじめの時点で支払いの猶予を受けていたこともあり、
単行本や文庫など、書籍の出荷を停止するペナルティが課せられた。
雑誌の出荷を続けてくれたのは唯一の救いだったが、
本屋が本の入荷を止められてしまえば、戦場で兵糧の補給路を断たれたに等しい。
「なぜだ!? 売れない文庫フェア」や「中学生はこれを読め!」など、
店の顔とも言える棚も、
「去年の6月以来、売りっ放しで補充ができていない」と久住さんは言う。

もちろん、久住さんも打てる手は打っている。
東京・神田神保町には、中小規模の取次が集まる通称「神田村」と呼ばれる一画があり、
神田村の取次2社に打診し、新刊をいくらかは融通してもらえるようにはなっている。
だが、それで調達できる本は、店として仕入れたい量の3分の1にも満たないという。
書籍の補充は充分にできなくとも、取次への支払いは毎月続く。
クラウド・ファンディングで資金を募ったのも、店を存続させるための一手だった。
(後編へつづく)

くすみ書房の取り組みや3度の危機を乗り越えてきた経緯が、日経新聞で紹介された(2014年4月5日)。記事には、「小さな町の書店が淘汰されていく姿は嫌というほど見てきた。黙って閉店するぐらいなら、『大変だと声を上げるべきだ』との思いはずっと抱いていた」とある。

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くすみ書房

住所 札幌市厚別区大谷地東3-3-20 CAPO大谷地(地下鉄東西線大谷地駅隣接)
電話 011-890-0008
営業時間10:00~22:00(2Fは21:00まで) 年中無休

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