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プランターからはじまる綿の物語

セコリプレス
vol.003

posted:2014.6.13   from:栃木県真岡市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  生地をつくったり、染めたり、縫製したり。
日本には、地域ごとに、色とりどりの服飾のものづくりが存在しています。
土地の職人とデザイナーをつなげる、セコリ荘が考えるこれからの日本の服づくり。

editor's profile

Shinya Miyaura

宮浦晋哉

ファッションキュレーター。1987年千葉県生まれ。London College of Fashion在学中に書いた論文をきっかけに、日本のものづくりの創出と発展を目指した「Secori Gallery」を始業。産地をまわりながら、職人とデザイナーのマッチング、書籍『Secori Book』の出版、展示会の企画、シンポジウムの企画、商品開発などに携わる。産地のハブを目指したコミュニティスペース兼ショールーム「セコリ荘」を運営。

身近な素材、綿の国内自給率は0%

四季が豊かな日本では、衣替えを繰り返しながら
コットン(木綿、綿)、リネン、ウール、化学繊維などさまざまな素材が
クローゼットに並びます。
特にコットンは、肌着からジャケットまで1年を通して
袖を通す回数が多く、もっとも身近な素材だと言えます。

しかし、コットン衣料の原料となる「わた」の国内自給率は
限りなく0%だと言われています。
Made in Japanと書かれたタグでも、
綿の原料は、アメリカやインドから輸入されたものを使っています。

僕自身、国内最大の綿織物の産地として有名な
兵庫県西脇市や静岡県浜松市を訪れることはあっても、
綿畑を訪れたことがありませんでした。

現在、国内のわたの栽培は個人や有志団体などの小規模のみですが、
日本の気候風土はわたの栽培に適しています。
実は明治時代の中期にはわたの国内自給率は100%を誇っていたんです。
しかし徐々に、海外から安価なわたや綿布の輸入が拡大し、
それに伴い、国内の綿畑の数もなくなっていきました。

繊維産地を歩き、セコリ荘ではさまざまな方と服づくりについて
語り合う日々の中で、「和綿の復活」とまではいかなくても
みんなでプランターからわたを育て、
もっとも身近な天然素材であるコットンに対して、
新しいアクションを起こせないかと考えはじめました。

みんなでつくる生地

プロジェクトスタートに向けて、
栃木県真岡(もおか)市の「真岡木綿会館」を訪れました。

真岡木綿会館の外観。真岡市までは東京から車で3時間ほど。

真岡木綿の全盛期は、江戸時代。その質の高さから、
江戸の木綿問屋の仕入高の約8割が真岡木綿という人気の品でした。
当時、真岡一帯で、綿の栽培から機織りまでが行われていましたが、
戦後になるとその生産はほとんど途絶えてしまったそうです。

会館には3名の機織りの伝統工芸師が在籍していて、綿栽培から手紡ぎ、機織りまでさまざまなアドバイスを受けることができます。こちらはカーディングと呼ばれる作業。

和綿は海外の綿より繊維が太いのが特徴で着物に適していたと言われています。
現在、真岡木綿会館では、独自に管理する畑で採れたわたを糸にして、
手織り機を使った生地づくりが体験できます。

会館の2階に多くの手織り機があります。

ここでは、個人栽培用の和綿の種を受け取ることができます。綿の歴史や育て方が載ったしおりが同封されています。

個人のプランターや花壇でのわた栽培は、
ほとんどが観賞用になることが多いです。
もちろんわたも収穫できますが少量の糸しか紡げません。
しかし、このプランターや花壇の規模を、何倍何十倍へと広げて、
秋のわたの収穫でそれを集めることができれば、
大量の糸を紡ぎ、大きな生地を織っていけるのではないか!
とこのプロジェクトを始めようと思い立ったのです。

収穫されたわたと種です。コットンの中に種が入っていて、わたと同時に翌年の種も採れることになります。

興味が連鎖して広がるように

「自宅の空いているプランターにコットンの種を植えてみませんか」

フェイスブックでのこんなカジュアルな呼びかけから、
このプロジェクトはスタートしました。

今年の5月10日。
コットンの日に、15名の方々がセコリ荘に集まってくれました。
参加者と一緒に、真岡木綿会館と
西脇にある「大地のぬくもりコットンボール銀行」に
送ってもらっていた種をプランターに植えました。

大阪や埼玉など、県外からの参加者も。

近所の方も賛同してくれて、空いているプランターを貸してくれました。

ひとつひとつの点であるプランターが、
線で繋がりプラネタリウムの星空のように、
広がっていくようにと思いを込めて
このプロジェクトを「週末プランタリウム」と命名。

集まった参加者は、世代も職業もバラバラ。
家庭用の種を配り、みんなで協力して100種ほど植えました。

わたの種植えは6月いっぱいまで可能です。
ベランダで栽培できるようなプランターひとつから参加できるので、
「週末プランタリウム」は随時参加者を募集しています。
参加希望の方には、コットンの種と育て方のしおりを送ります。

種と同封されて届く育て方のしおりです。

成長日記をインスタグラムとフェイスブックで共有していくので、
全国各地のプランターの成長を見るのが楽しみです。

5月10日のイベント後に植えられたプランター。

北は北海道、南は広島まで、
各地の団体が管理する綿畑へも訪れていく予定です。

セコリ荘から伝えたい服が生まれる背景

インターネットを使えば、一瞬で商品の価格比較をして、
ほしい服を素早く買うことができます。
注文後、翌日には手にすることも可能です。

一方、日本では年間約100万トンの服が捨てられると推測されています。
捨てられた服の一部はリサイクルされますが、そのほとんどが焼却されます。

誰もが日常的に袖を通している身近な素材のコットン。
Tシャツ1枚をつくるためにはどれくらいのわたを収穫しないといけないのか。
プランターのわたの成長をインターネットで共有しながら、
服が生まれる背景について、考えるきっかけになればと考えています。

5月10日からスタートした週末プランタリウムは、
宮城、大阪、京都、静岡、埼玉、千葉と、思いが広がり始めています。

ちなみに、6月15日には千葉県柏市沼南町のヨシオカ農園の協力のもと、
畑をお借りして、コットンの種を植えにいく予定です。
また、この企画に協力してくれている、
真岡木綿会館や兵庫県西脇市の綿畑へのプチツアーも
7月と8月に計画しています。

小さな規模でも、この思いが連鎖して各地に広がって、
みんなの生地をつくっていきたいと思っています。

information


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真岡木綿会館

住所 栃木県真岡市荒町2162-1
電話 0285-83-2560
営業時間 10:00〜16:00 火曜休
http://www.mokamomen.com/

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週末プランタリウム

参加者のプランターに植えたコットンの成長の様子は、
「週末プランタリウム」のfacebookで確認できます。

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