連載
posted:2022.2.14 from:新潟県新潟市 genre:ものづくり / アート・デザイン・建築
PR 新潟県
〈 この連載・企画は… 〉
伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。
writer profile
Kiyoko Hayashi
林貴代子
はやし・きよこ●宮崎県出身。旅・食・酒の分野を得意とするライター・イラストレーター。旅行会社でwebディレクターを担当後、フリーランスに転身。お酒好きが高じて、唎酒師の資格を取得。最近は野草・薬草にも興味あり。
credit
撮影:ただ(ゆかい)
新潟の伝統工芸のひとつ「新潟仏壇」。
その若き職人によるユニークなプロダクトが、いま注目を集めています。
今回はその人気商品を、
『新潟のつかいかた』Twitterフォロー&リツイートキャンペーンの第4弾、
編集部が見つけた「新潟のいいモノ」としてプレゼントします。
直径5センチほどの見込み(酒を注ぐ内側の凹み)に、
大小さまざまな無数の星が描かれたお猪口。
のぞき込めば、そこに広がるのはまさに“宇宙”。
澄みわたる酒をお猪口の縁いっぱいまで注げば、表面張力の効果で
レンズを透かして見るかのような、壮大な銀河が浮かび上がる。
伝統工芸士の資格を持つ、新潟の蒔絵師・佐藤裕美さんが手がける
〈宙(そら)COCORO〉は、2019年の販売開始以来、
その美しい宙模様がSNSを中心に話題となっている。
12星座が描かれたお猪口は、自分の星座のものを購入する人や、天文ファンをはじめ、
成人式や結婚記念日といった慶事のプレゼントとしても人気が高い。
ポップアップ販売が行われるとなれば、オープン前から長蛇の列ができ、
オンライン販売ではものの数分で完売となる、きわめて入手困難な一品だ。
ステンレスのお猪口に蒔絵の技術で模様が描かれた〈宙COCORO〉。そこにあるのは、大小さまざまな星、光の帯、星雲……まるで本物の天球を眺めているかのよう。角度の違いによって宙の表情がさまざまに変化していく。
澄んだ酒や水を注ぐことによって、色の深み、浮かび上がる星の様子に変化が。このお猪口を眺めながら、別のお猪口でお酒を楽しむ人もいるのだとか。
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佐藤さんは、新潟市で1830年頃から続く〈林仏壇店〉の長女として生まれ、
現在6代目を継ぐ若き匠だ。
林仏壇店は、国指定の伝統的工芸品である「新潟・白根仏壇」を継承する店で、
5代目である佐藤さんの父・林 芳弘さんは、伝統工芸士の資格を持つ塗師。
さらに母・由利子さんも、同じく伝統工芸士の蒔絵師であり、
親子3人が資格を所有する職人一家である。
蒔絵の伝統工芸士・佐藤裕美さん。小さい頃から絵を描くのが好きで、イラストレーターを目指していたが、仏壇の蒔絵の図柄を写す手伝いをするなかで蒔絵のおもしろさと難しさに目覚め、工芸の世界に入る。飲食店の壁画を手がけるなど、イラストレーターとしても活動中。
新潟仏壇は、木地・彫刻・金具・塗箔・蒔絵の5人の匠によって分業されるのが特徴で、
すべての工程は手作業で行われる。
つややかな漆黒と、きらびやかな金箔、花鳥や人物といった緻密な彫刻に蒔絵――
荘厳ながらも絢爛なその姿は、神仏への信仰を大切にする人々の
心のよりどころとなってきた。
近年は、生活様式の変化から仏壇を所有する家が少なくなり、
仏壇業界は苦境に立たされている。そんななかで佐藤さんは、
伝統工芸を生かした新しいものづくりにいち早く取り組んできた。
インテリア感覚で飾れる仏具のおりんの制作や、
オイルライター、琴、ギター、箸、タンブラーなどへ蒔絵をほどこしたり、
一級ネイリストの妹・亜美さんと、父、母、佐藤さんの家族4人が
それぞれの得意分野を生かしてつくりあげた蒔絵ネイルなど、
伝統工芸という固定観念にとらわれない挑戦的なアイデアを次々とかたちにしてきた。
ネイリストである亜美さんが、爪の幅や湾曲にあわせたネイルチップを作成し、父の芳弘さんがそのチップに下地の漆塗りを担当。母・由利子さんが爪のデザインを手がけ、佐藤さんが蒔絵をほどこす、フルオーダーの蒔絵ネイル。(撮影:林亜美)
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宙COCOROは、日本全国の若いものづくりの匠をバックアップする、
とあるプロジェクトに、佐藤さんが参加したことがきっかけで誕生した。
地域のものづくりの特徴を生かし、従来の技術や製法にとらわれない
新しい試みを加えることが同プロジェクトの目的とテーマにあり、
酒どころかつ、ステンレス加工が有名な新潟県の特徴を酒器で表現し、
そこに蒔絵という佐藤さんの匠の技を加えることにした。
佐藤さんは金属加工会社を見学に訪れ、
ステンレスでできたお猪口のサンプルを初めて見たとき、直感的に
「ここに宇宙を描いてみたい」と思ったという。
星の図鑑や専門サイトを参考にしながら、星の配置、星の大小、
星座に含まれる星団まで、ひとつひとつ手作業で、忠実に描写している。
宇宙の描写に限っては筆を一切使わず、やすりで先端を細くした楊枝、スポンジ、ブラシ、綿棒など、通常の蒔絵では用いない道具で描いている。
「この作品ができた当初、天文学の研究者の方が偶然このお猪口を見たんです。
『これはいい! でも、ちょっと星の位置が違うな』と言われたのが、
すっごく悔しくて。湾曲している面に星を描くのって、とにかく難しいんです。
見る角度によっても違ってくるので。
でもその日以降、とにかく勉強して研究を重ねて、
位置についても文句を言わせないぞ! と思ってつくってきました(笑)」
その研究者の方は、それ以降も何度か林仏壇店を訪ね、お猪口を気にかけていたという。
訪れるたびに、銀河の再現性が高まるお猪口をたいそう気に入り、
何千人と参加する学会の打ち上げで、宙COCOROを広くアピールしてくれたのだとか。
「それくらい気に入ってくださったみたいです。
あのときのひと言は、ものづくりを高めるきっかけになった言葉なので、
いまではありがたかったな、と思っています」
宙COCOROは、青・赤・緑の3色で展開されているが、
同じ青でも微妙に色が違ったり、光の当たり方による色の変化に個性がある。
これは、ステンレスに特殊な酸化発色の加工をかけ、そこに漆を焼きつけているのだが、
焼きつけによって大きく変化するものもあればしないものもあり、
ひとつとして同じ色味にならないのだ。
このステンレスの特徴は、ときに美しい偶然を生み出し、
青と紫の斑模様が100分の1個程度の割合で現れるなど、
意図的には出せない、貴重なカラーが生まれることがあるという。
佐藤さんは、それらの微妙な色の違いを魅力と捉え、酒器の色や斑模様に合わせて、
上下左右、デザイン、蒔絵や漆絵の構図を決めていく。
宙COCOROシリーズ。左ふたつが「銀河」、右は「惑星」。青と紫が混ざり、宇宙の暗闇や深みをより感じられる中央の作品が、100分の1個程度の割合で出てくるという貴重なカラー。
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酒器の胴、唇が当たる口縁(こうえん)、酒器の底面には、
漆を金属に焼きつける技法で、何度も漆が重ねられている。
持ち手や、口当たりが滑らかになるだけでなく、
胴につく水滴や手脂による変色を防ぐ役割も担っている。
胴に漆を塗っては焼き、口縁に塗っては焼き……と
焼きつける回数はなんと10回前後にも及ぶ。
さらに佐藤さんは、乾燥に時間がかかり、扱いも難しい「本漆」を使用。
蒔絵には、代用金粉と比較すれば20~30倍の値がする「純金粉」を用いている。
ひとつの酒器をつくるのに、手間ひまを惜しまず、原料にも本物を追求する。
先祖代々受け継いできたものづくりの心と、
「商品を手にするお客さんの喜ぶ顔が見たくて」
という佐藤さんのこだわりが詰まっている。
プロジェクトをきっかけに制作がスタートした宙COCOROだが、
販売当初はここまで反響があると思っていなかった。
「プロジェクトで作品の発表をしたとき、
新潟伊勢丹のバイヤーさんが声をかけてくれて。
母の日のプレゼントとして並べることが決まり、27個くらい売れたんですけど、
この商品はそれで終わりにしようと思っていたんです」
しかし、商品を購入した人が投稿したSNSが大反響となり、
各方面へ問い合わせが殺到する大騒ぎとなった。
それから2年経ったいまも、お猪口の入荷を心待ちにするファンが全国にあまねくおり、
オンラインサイトで販売開始となれば即完売。
なかなか購入できないという人のために、公平な抽選枠を設けるなど、
販売にも工夫をこらしている。
新潟伊勢丹の限定品として、漆絵で季節のモチーフを描いた「春夏秋冬シリーズ」も展開中。
月にせいぜい30個つくるのが限度という宙COCORO。
それだけ手間ひまがかかり、量産が不可能なお猪口だが、佐藤さんは、
もっと多くの人に楽しんでもらいたいと新商品開発にも取り組んでいる。
「今後発展させたいのはタンブラーですね。
お酒は好きだけど、日本酒は苦手という人もいるので、
酎ハイや白ワインなどを楽しめるものにしたいと考えているんです。
ただ、お猪口よりも絵を入れるのがすごく難しくて……。
うまくいけば、今年中に出せたらいいなと思っています」
若き匠の創造は、日本が誇る伝統を継承しながら、まったく新しいアイデアをもって、
これからも私たちを驚かせてくれるに違いない。
今回は、希少な青と紫の斑模様に蒔絵をほどこした作品など、
5つの〈宙COCORO〉をご用意。
各1個、合計5名様にプレゼントします。
さらに、新潟市に蔵を構える〈今代司酒造〉の名酒〈錦鯉〉もセットに。
白桃のような香りを持ち、華やかさ、清らかさのなかに堂々とした味を感じる日本酒は、
「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で銀賞を受賞し、
国際的な評価を得ている一品。
また、新潟を発祥とする国魚・錦鯉の姿を表現したボトルは、
2016年の「グッドデザイン賞」の受賞をはじめ、
国内外で高く評価されたデザインで、飲んだあとも飾って楽しめます。
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information
『新潟のつかいかた』Twitterフォロー&リツイートキャンペーン
第4弾「新潟のみつけかた」POPEYE&colocal編集部、推しの新潟
新潟のいいモノプレゼント
応募方法:アカウントのフォロー&欲しいプレゼント投稿のRT
応募時期:2022年2月14日(月)~3月30日(水)
賞品:編集部が選んだ「新潟のいいモノ」を各5名様にプレゼント
profile
Hiromi Sato
佐藤裕美
さとう・ひろみ●蒔絵部門・伝統工芸士。新潟県新潟市にある〈林仏壇店〉の長女として生まれ、6代目の継承者。専門学校でデザインを専攻。家業である仏壇や仏具の蒔絵をはじめ、ライター、和楽器、ネイルチップなど、さまざまな素材に蒔絵装飾を手がける。イラストレーターとしても活動中。子どもの手形を用いた「手形アート」や、大人も子どもも楽しめる蒔絵体験などのワークショップも開催。〈宙COCORO〉は未来ショッピングで販売。
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