連載
posted:2014.5.9 from:福岡県広川町 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。
editor's profile
Kanako Tsukahara
塚原加奈子
つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。
credit
撮影:山本陽介
直接炭火にもかけられて、食材の旨味を凝縮させる調理器具「ダッチオーブン」。
キャンプやバーベキューなどを楽しむには欠かせないアイテムのひとつだ。
そんな鋳物のダッチオーブンシリーズ「WEEKENDER」を展開するのが、
プロダクトブランド「(READYMADE)PRODUCTS」。
つくられているのは、鋳物の産地としてはあまり耳にすることも少ない、
福岡県南部の八女郡広川町。
博多から南へ車を走らせること1時間ほど、田園風景の広がる広川町を訪れた。
WEEKENDERは、
鉄板皿のようなスクエアタイプと鍋のようなラウンドタイプがあり、
フタのデザインは、シンプルなものとパターンが施されたものと2種。
ちなみに、この(READYMADE)PRODUCTSは、
2014年春に立ち上がったブランドで、
WEEKENDERは、その第一弾として販売がスタートしたばかりだ。
このブランドを主導するのは、
福岡県八女郡広川町にある吉田木型製作所の吉田いずみさんと、
ブランディングをサポートしているのは、福岡を拠点に活動している
クリエイティブディレクターでデザイナーの中垣幸成さん。
(READYMADE)PRODUCTSは、吉田木型製作所の
技術を活用して立ち上げられたプライベートブランドだ。
いずみさんの祖父が始めた吉田木型製作所は、昭和10年創業。
その名の通り、鋳造用の「型」をつくる工場を始めた。
隣まちである久留米市を中心に、広川町周辺のエリアでは、
軍事用のさまざまな鉄工部品を製造するための型の需要があったのだそう。
現在は、農機具や造船などの機械部品の型など精密なものから、
公共の橋の欄干、地域モチーフのマンホールなど大型なものまで
産業向けを中心に、あらゆる鋳物の型をつくっている。
そもそも、鋳造用の「型屋」とは、どういう仕事なのか。
鋳造は、砂でできた「砂型」に溶鉄を流し込み、
鉄が冷え固まったら、その砂型を叩き割って取り出すという加工法。
その砂型をつくるにも、元となる型が必要になる。
この元型を専門につくっているのが吉田木型製作所の仕事だ。
現在は、用途に応じて木型、樹脂型、金型を製造。
さらに金型を用いたシェルモールドと呼ばれる特殊な砂型まで製造している。
WEEKENDERは、シェルモールドと呼ばれる特殊な砂型で製造されており、
特に精度が高い製品に仕上がっている。
さまざまな素材の型を状況に合わせて対応できるのが吉田木型製作所の強み。
何より、熟練した技術を有する職人が揃っている。
そんな吉田木型製作所を取り巻く状況も変化しつつある。
「北部九州エリアの鋳物産業は、
鋳造所と木型屋に分業化されているのがスタンダードなんです。
木型屋といえば、2〜3人の家族経営の会社がほとんど。
かつては公共事業などによる大規模な受注も多かったけれど、
時代の変化とともに、
後継者がおらず廃業されていくところも少なくないです」
と、いずみさんが教えてくれた。
「今は、まだ父が社長であり、現役で職人として勤めていますが、
この先、女性である私がこの会社を受け継ぐ番になったとき、
これまでの経営、事業展開のままでいいのだろかと不安を抱え、
今できることは何だろうかと考えていました」
といずみさんは続ける。
そこで彼女が約4年前に参加したのが「九州ちくご元気計画」だ。
これは、福岡県が主導する雇用促進のためのプロジェクトで、
筑後地域の15市町村の事業者が新規事業や販路開拓などを勉強するための、
講座や研究会などさまざまなプログラムが設けられている。
ここで、当時東京から帰郷したばかりで、
このプロジェクトに関わっていた中垣さんと出会った。
中垣さんと相談しながら、いずみさんが考えたのは、
「これからは、培ってきた技術力とノウハウを生かした、
吉田木型製造所のものづくりを外へも発信していくことが
必要なんじゃないだろうか」ということ。
そこで、(READYMADE)PRODUCTSを立ち上げることになるが、
製造、企画、販売までを自社で行うことを想定すると、
製造業にとっては、覚悟のいることだった。
製造業であり職人集団である吉田木型製作所は、
受注したものをつくることには長けているが、
自ら何かを生み出し、外へ発信することに対しては経験がない。
いずみさんは、ひとつひとつ、時間をかけて実現可能な方法を選んでいった。
最終的に、自社商品の候補にあがったのが「ダッチオーブン」。
もともといずみさんが、以前から手ごろな鉄皿がほしくて、
自社でつくれるんじゃないかなと考えていたのが、きっかけとなった。
「単純だけど、地元には新鮮な食材が豊富にあり、
それを自分たちの技術でつくった道具で
最高においしく食べられるって素敵なんじゃないか」
と中垣さんは考え、いずみさんに提案。
「まずは自分たちが楽しくなるような道具からつくろう」
と家庭でも気軽に楽しめるようなダッチオーブンの開発がスタートした。
完成までに、一番苦労したのは、
砂型(シェルモールド)の精度をあげることだった。
デザインから金型をおこして、
砂型(シェルモールド)を製造するところまでは比較的スムーズに。
しかし、その砂型で実際に鋳造試作してみると、
製品として流通させるクオリティーにはほど遠く、
不良率がかなり高かったのだ。
大量につくる工業用製品とは違った視点を持つ必要がある。
さまざまな視点と可能性を模索しながら、
砂型の精度と協力先の鋳造技術とも向き合い、
1カ所1カ所、検証しながら、細かい修正作業が続いた。
そして、最初の鋳造試作から半年を経て
ようやく納得のいくクオリティーに仕上がった。
プロジェクト自体の構想からすると足かけ4年、
(READYMADE)PRODUCTSのダッチオーブンシリーズ、
WEEKENDERが完成したのだ。
職人たちにとっても、新たな発見の機会となったよう。
これまで、自分たちが納品した型からどんな鋳物がつくられるかは
ほとんど見ることも知ることもなかったが、
WEEKENDERをつくるのは、最終的なかたちを見据えた作業。
今回のことで、製造に対する向上心や意識がより深まったという。
使いやすいサイズ感で気軽にダッチオーブン料理を楽しめるWEEKENDER。
洗練されたデザインも反響が大きく、
販売開始後間もないが、オーダーが増え始めているのだそう。
「吉田木型製作所の技術には、
既存の鋳造専門の型屋にはとどまらないポテンシャルが眠っています。
(READYMADE) PRODUCTSでは、
『型から生まれるプロダクト』をキーワードに、
鋳物以外にも他の素材を使ったアイテムも
少し時間をかけて展開して行く予定です」
と今後について中垣さんは話す。さらに、
「一方で、背伸びしすぎない自分たちのスタンスを大切に、
進化していく型屋として、
吉田木型製作所のビジネスモデル構築を
裏方としてサポートできればと思います」と続けた。
いずみさんの思いと職人の技術を融合し完成した
ダッチオーブンシリーズ、WEEKENDER。
これからの吉田木型製作所を担っていく、
いずみさんのチャレンジはまだまだ始まったばかりだ。
information
(READYMADE) PRODUCTS
information
吉田木型製作所
住所 福岡県八女郡広川町藤田1423-12
電話 0943-32-3806
www.yoshidakigata.jp
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別冊コロカルでは、(READYMADE) PRODUCTSのダッチオーブンシリーズWEEKENDERを扱っている久留米市内のライフスタイルショップ「PERSICA」を訪ねました!
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