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神藤タオル

ものづくりの現場
vol.024

posted:2015.6.28   from:大阪府泉佐野市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。

writer profile

Satoko Nakano
仲野聡子

なかの・さとこ●ライター。生まれも育ちも日本一人口の少ない鳥取県。帰省するたびに色が変わっている地元で、まち歩きをしながら新しい発見をするのが最近のブーム。反面、古いモノや場所も消えないでいてほしいと切に願う。

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photo:在本彌生

明治40年創業の老舗が育む、新しいタオル

朝起きてから夜眠るまで、人の肌に触れる「タオル」という存在。
何気なく使う人も多い中で、最近はその質にこだわる人も増えている。
そんな中、注目を集めているのが、神藤タオル株式会社だ。
実は日本のタオル産業発祥の地と言われる大阪府泉佐野市・泉州地域で、
明治40年から製造工程や原料にこだわった上質なタオルを生産している。
そこには、伝統技術を守り続ける職人たちと、
使い手の目線で新たな商品を企画する若手社長の姿があった。

工場に入ると、あちこちからガシャン、ガシャンと大きな音が聞こえる。
ここで日々せわしなく働いているのは、新旧3種類の織機だ。
最新のエアー織機を半年前に導入したことで
量産にも対応できるようになったが、古株の織機もフル稼働。

古株のシャットル織機。これを現役で使っているタオル工場は少ない。唯一調整できる工場長の日根野谷さんは74歳で、勤続半世紀。

「工場最古のシャットル織機は、主力商品のひとつである
インナーパイル専用になっています。
これはダンボールのような構造で、
中にパイルが入っているタオルなんです」
そう話すのは、弱冠29歳の社長・神藤貴志さん。
社長職に就いて1年半、業界8年目の若手である。

シャットル織機で、横糸を飛ばす時に使われるのが、この木製の「シャットル」。

通常、綿には油分やロウなどの不純物が入っていて、その状態では水を吸わない。
そこで、タオルの場合はそれらを取り除くために「さらし」という工程を経る。
糸の状態で先にさらしをかけることを「さきざらし」、
タオルのかたちに仕上げたばかりの「なま生地」をさらしにかける工程を
「あとざらし」と呼ぶ。このあとざらしが、泉州タオルの特徴だ。
織り上がったあとにさらしにかけることで吸水性が上がり、肌触りの良さが際立つ。

縦糸がパイルになる糸、下の糸が地組織になる糸。そこに横糸を1本、2本と通し、3本目でギュッと打ち出すとパイルができる。

もともと神藤タオルは、神藤さんのおじいさんが経営していた。
お父さんが東京で会社勤めをしていたため、神藤さん自身も関東で育ったのだという。
「東京の大学に通っていた3年生の頃、祖父が東京に出てきて
『どうする? 継がんのやったら、たたむ準備するけど』と言うんです。
自分の名字がついている会社ですし、祖父の思い入れが強いことも知っていたので
100年も続いている会社を終わらすのはもったいないという気持ちから
卒業後、ここで修業することに決めました」と神藤さん。

タオルがどういう工程を経てつくられるのか何も知らなかった神藤さんは、
製造や検品などの現場で、昔の職人気質な「見て覚える」過程を経て、
商品の名前や重さ、規格などの細かな知識を身につけたあと、営業職に就いた。
そこで、今までになかった新しい商品の企画をすることになる。

社長の神藤貴志さん。

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お蔵入りになりかけたタオルが、日の目を見た瞬間

「もともと、分厚いのにとても柔らかい
インナーパイルを主力商品として売り出していたのですが、
最古の織機を使って織っている上に、特殊織りのため
今のところその織機を完璧に調整できるのが工場長しかいないのです。
将来的に織機が動かなくなり、
インナーパイルがつくれなくなってしまう可能性を考えて、
これに代わる代表商品をつくりたいという思いがありました」
大事にしたのは、柔らかくてボリュームがあり、
なおかつ織機をあまり選ばず、継続して生産できるタオル。
こうして生まれたのが、2.5重ガーゼだ。

これが織り上がったばかりのインナーパイルのなま生地。

「あとざらし」後のインナーパイル。思わず触りたくなる、ふわっとした肌触りが特徴。

泉州タオルに代々伝わる、変則的な特殊ガーゼ織りを駆使し
ガーゼの優しい手触りを残しながらも、
今までのタオルにない薄さと軽さを同時に実現。
ごわつきのないふんわりとした心地よさと、独特の風合いが愛おしい。
「開発した頃は、多少商品のことがわかってきた、という程度でした。
でも、わかり切っていたら新しいアイデアはあまり出てこないんです。
わからないなりに『こんな商品をつくることはできないか』と現場に尋ねて
『それはちょっと難しいなあ』『何かやり方はないですか?』
『じゃあ、こういう風につくるか』という掛け合いの中から生まれたのがこの商品。
祖父も『新しいことはどんどんやりなさい』という考えの人だったので、
前向きに新商品開発に取り組むという土台が現場にもあったんです」

糸の動きを制御するためにレピア織機で使われる「パンチカード」。穴あけはこの機械を使って手動で行う。2.5重ガーゼタオル開発のときには何度も調整したのだそう。

しかし、2.5重タオルの製品については絶対的な自信があったものの
生産効率も悪く、タオル業界の人間からすれば「よいかどうかわからない」代物。
展示会に出しても「どう売ったらいいのか……」と首をひねる会社が多く、
一時はお蔵入りになりかけたという。
そんな時、神藤さんに声をかけたのが
「made in west」というプロジェクトを展開中の、
大阪を拠点とするオプスデザインだ。
これは、関西の企業が培ってきたものづくりの技術を生かし、
新しいデザインを提案していこうというプロジェクト。
当時はまだ商品化されていなかった2.5重ガーゼタオルが、
ここで初めて日の目を見ることになる。

現場事務所には、故障した部品を直すための道具が揃う。かつて織機を自分で直していた職人さんは「機(はた)大工」と呼ばれていた。

タオル業界に魅力を感じてくれる若者を増やしたい

「サンプルは基本的に白無地でつくるのですが、
味気なくて展示会でも反応がよくなかったんです。
これはどうすれば売れるのか、想像がつかなかったんですよね。
プリントはデザインによって生地の印象も大きく変わってしまうし、
そもそも柄をどうすればいいのかもわからなかったんです」

そこでmade in westが、泉州タオルのつくり方、そしてサイズの考え方、
さらに吸収力や速乾性などの特徴を神藤さんにヒアリングし
素地のタオルそのままの良さを生かした商品を一緒につくり上げていった。

色は、タオルとして吸収力が最も高い「白」を採用。
また、通常タオルの定番規格はウォッシュ、フェイス、バスの3種類だが、
「made in west」で最初に商品化した2.5重ガーゼタオルは、
気軽に使いやすい、バスタオルより少し小さいMサイズと、
バスタオルより少し大きいLサイズだった。
Lサイズは、大きめのバスタオルとしても充分使い勝手がよく、
2.5重タオルのさらりとやわらかい触り心地から、
夏場の寝床ではタオルケットとしても機能する。

made in westで最初につくられた真っ白な2.5重ガーゼタオル。(撮影:津留崎徹花)

また、同じ素材を使って、ストールにもなるタオルも誕生。
首に巻いても肌触りがよく、ストレスもゼロだ。
徐々に小売りやセレクトショップなどからもニーズが高まり、売れ行きは順調だという。
「これを見て今までのお客様も『面白いやん』『こういう風合いもいいね』と
言ってくださるようになりました。
業界内で企画を担当されている方への認知度も高まっていて、うれしい限りです」
徐々に百貨店などからもニーズが高まり、売れ行きは順調だという。

made in westのYETIシリーズはフェイスとタオルケットの2種。(撮影:津留崎徹花)

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2.5重ガーゼタオルは、工場で2番目に古いレピア織機を使って織られる。
猛スピードで回転していく最新の織機だと大量生産には向くが、
2.5重のやわらかい風合いを出そうとすると糸の調節が難しく
どちらかというと、古い織機との相性がいいようだ。
「バスタオルだと1日に20枚程度しかつくることができず、
納期が遅くなることでご迷惑をおかけしているのですが、
それも納得していただいた上でお受けしています。
量産をメインにすると、どうしても価格の競争になってしまう。
それは僕たちの本意ではないので、これからもこの2.5重タオルのように
時間がかかっても、値段が割高であっても
他の会社ではできない、新しい商品をつくっていきたいという思いがあります」

2.5重ガーゼタオルを織る、工場の中で2番目に古いレピア織機。

2.5重タオルを企画した当時のご自身について、神藤さんは
「悪く言えば素人考え、よく言えば消費者に近い目線だった」と語った。
かつては、お祝いや記念品などで配られることも多かったタオル。
しかし今、その機会も減ってきている。
とはいえ、タオルは人々の生活に欠かせないものだ。
もらう機会が減ったところで、必要となれば誰もがタオルを買うだろう。
そして日常的に使うなら、プレーンなデザインで実用性が高いものが好まれる。
さらに使ってみてよいと思ったら、ずっと同じものを買い続けるだろうし
「誰かにあげたい」と思う人も増えるかもしれない。
だからこそ、使ってみて素直に「よい」と思われるものをつくりたかったのだという。

「丁稚(でっち)」と呼ばれる、なま生地を積んで運ぶリヤカー。かなりの年季だが「まだ使えるから」ということで活躍中。

神藤さん曰く「技術力に甘んじてしまうと、想像力が育たない」。
既存のタオルをどう変えれば、求められる商品になるのか。
また、どうしたら、面白いタオルができるのか。
そのために、タオルが好きで、いつまでもタオルについて楽しんで考えられる人と
これからも一緒に仕事がしていきたいと話してくれた。
商品に対する思い入れがあれば、売る時にも自然と熱が入るし
世に出た時に、心から「よかった」と思えるはずだ。

2.5重ガーゼを使ってつくられたストール。快適さにデザイン性が加わる。

積み上がった「なま生地」。この後専門の染工場にて「あとざらし」を行う。

神藤さんが所属している大阪タオル工業組合青年部では、
彼の次に若い方が30代半ばで、さらにその次に若い方は40代。
技術を継承していくには、現役で働いている50〜60代の子ども世代が
業界に入ってくれることが理想ではあるが、なかなか叶っていない。
若い世代に対して魅力ある業界であり続けないと、
この仕事をやりたいと思う人間は減る一方だ。
それも、神藤さんが新しい商品を企画する時のモチベーションのひとつになっている。

2.5重ガーゼタオルの組織をつくった職人さんは、残念なことに、先日亡くなられたという。
生前「こういうかたちでものになると思っていなかったから、正直うれしいわ」と
言ってくれたことが、神藤さんの心に強く残っている。
「そういう風に、自分がつくっているものを好きになれるような
環境づくりをしていきたい」と言う神藤さんの言葉には、強い力がこもっていた。

現場で働いているみなさん。

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神藤タオル株式会社

住所:大阪府泉佐野市日野根2577-1

TEL:072-468-0777

http://www.shinto-towel.com/

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神藤タオルの2.5重ガーゼタオルは、
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