連載
posted:2017.1.11 from:神奈川県足柄下郡真鶴町 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
sponsored by 真鶴町
〈 この連載・企画は… 〉
神奈川県の西、相模湾に浮かぶ真鶴半島。
ここにあるのが〈真鶴半島イトナミ美術館〉。といっても、かたちある美術館ではありません。
真鶴の人たちが大切にしているものや、地元の人と移住者がともに紡いでいく「ストーリー」、
真鶴でこだわりのものづくりをする「町民アーティスト」、それらをすべて「作品」と捉え、
真鶴半島をまるごと美術館に見立て発信していきます。真鶴半島イトナミ美術館へ、ようこそ。
writer profile
Hiromi Kajiyama
梶山ひろみ
かじやま・ひろみ●熊本県出身。ウェブや雑誌のほか、『しごととわたし』や家族と一年誌『家族』での編集・執筆も。お気に入りの熊本土産は、808 COFFEE STOPのコーヒー豆、Ange Michikoのクッキー、大小さまざまな木葉猿。阿蘇ロックも気になる日々。
photographer profile
MOTOKO
「地域と写真」をテーマに、滋賀県、長崎県、香川県小豆島町など、日本各地での写真におけるまちづくりの活動を行う。フォトグラファーという職業を超え、真鶴半島イトナミ美術館のキュレーターとして町の魅力を発掘していく役割も担う。
神奈川県の南西部に位置する真鶴町。
真鶴駅から海岸方面に延びるメインストリート大道商店街を歩いていると、
独特なオーラを放つ建物が目に飛び込んでくる。
車道から奥の建物の入り口へと続くスロープ、棟を結ぶ渡り廊下、
建物の外壁に至るまで、形の異なる石がふんだんに使われ、
一度見たら忘れられないほどのインパクトだ。
〈コミュニティ真鶴〉の看板。真鶴駅からは徒歩10分ほどの距離にあたる。
石材業はまちの主要産業のひとつ。真鶴特産の小松石などを大量に使っている。「石尽くし」といってもいいほどの存在感。
ここ〈コミュニティ真鶴〉は、平成6年に真鶴町のまちづくり条例である
『美の基準』に基づき建てられた公共施設。
ロビーと第1会議室、第2会議室、和室〈無名庵〉を備える3棟が、
中庭をぐるりと囲むように位置している。
当時『美の基準』の策定に関わった設計事務所に設計を依頼し、
まちの職人らも加わって建てられたというこの建物は、
「美の基準を具現化する存在であるように」という町民の願いから、
粋な工夫が随所に見られる。
例えば、石を使った大胆な装飾は、石材業が盛んなこのまちならではのモチーフ。
地元で採れた小松石を砕いた際に出る端材などを使用しているそうだ。
ほかにも漁師が漁で使用する縄や、鶴や魚をかたどった細工などは
写真に収めたくなるほどの愛らしさがある。
小松石の端材が随所に使われている。
鶴のシルエットをした避雷針。まるで鶴が空を飛んでいるかのように見える。
2階の第1会議室の扉にも鶴のモチーフが。
2016年6月から、この場所を管理している一般社団法人
〈真鶴未来塾〉の代表理事・奥津秀隆さんの話によると、
かつては町役場があった敷地であり、その後は更地から公民館になるなど、
まちの中での役割は短いスパンで変化していたのだという。
コミュニティ真鶴としてオープンしてからは、
文化活動を通してまちづくりをする拠点ならびに
地域活動の交流の場として使用されてきたものの、
財政難が原因で管理がままならなくなり、
2013年度末には一時閉鎖に追い込まれたという寂しい過去も。
その後、2014年12月から、それまで施設を利用していた団体や
地域住民による運営協議会によって自主運営というかたちで新たなスタートをきり、
真鶴未来塾が協議会に参加したのを機に現在の管理体制に落ち着いたのだとか。
「まちづくりは行政の専売特許ではないと思う」と言う真鶴未来塾の奥津秀隆さん。〈コミュニティ真鶴〉を拠点に、まちを活性化させるアクションを仕掛けていく。
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真鶴で生まれ育ったという奥津さん。
大学時代から新卒で入社した大手電気メーカーを経て町の職員として約11年間働き、
一時はまちから離れていたものの、独立を期にまちに戻った。
現在は、真鶴未来塾の運営と並行し、ソフト開発やインターネットのシステムや
ネットワーク運営などの事業を手がけている。
真鶴未来塾を立ち上げたのは、町が募集した緊急雇用創出事業に
応募したのがきっかけだった。案が採用され、同事業を受託することが決まり、
2014年9月に活動名を真鶴未来塾とし事業をスタート。
事業の終了に伴い法人化し、現在に至るのだそう。
主な活動は「人づくり」「次世代育成」「創業支援」の3つ。
メインの活動としては、真鶴に暮らす人々が「何か新しいことをやってみよう」
と思うきっかけになるような講座やイベント、セミナーなどを開催している。
その内容は、フラワーアレンジメント、コーヒー焙煎、iPadの使い方を学ぶ講座に、
クリエイターを招いての座談会まで、ジャンルを問わず多岐に渡る。
「まちの人たちの背中を押したい」と話す奥津さん。
「私たちがまちから依頼されたのは、起業家を増やすための施策を打つことでした。
しかし、真鶴のような小さな町だと起業する人というのはそうはいません。
まずはその前段階として、『何かを始める人を増やそう』という考えに辿り着きました。
最初はどういう人が参加してくれるのか見当もつかなかったので、
その測定も兼ねて、幅広くやってみました。
そのうちに『この路線だと、こういう人が来てくれるな』というのが見えてきたんです。
このまちの傾向としては、外に仕事をもったサラリーマン家庭が多いので、
日中は働き盛りの男性がほとんどいないんですね。
子どもたちも学校に行っているので、平日の昼間には主婦やお年寄り、
定年退職した方に向けた講座を開くようにしました。
もともとの目的だったスタートアップ支援は、
働き盛りの方に来てもらわないといけないので週末に開催するようにして。
そうやって試行錯誤するうちに、『こういうイベントをやってみたいんですけど』と
参加者が自主的に動き始めるようになったんです。
そういう場合、私たちは協力や応援というかたちで機材を準備したりするのですが、
最近だと私たちが自主的に企画するということはあまりないんですよ」
右手の棟の1階ロビーでイベントや講座を行う。普段は住民や観光客に向けた休憩所として無料開放されている。
起業がすべてではない。新しいことにチャレンジする人が増えることで、
まち全体に活力がわき、これまで他人事として捉えていたことも、
自分事として考える習慣がつく。
「ここに暮らす人はみんな、きっとこのまちのことを考えているんですよね。
だけれども、なかなか自分は動かずに評論家のような態度でお話をする方が多い。
僕らはそういう方の背中をポンッと押せたらなと」
真鶴未来塾では、次世代育成事業にも力を注いでいる。
これからの真鶴を担うのは子どもたちであるという考えのもと、
たとえまちを一度離れてしまったとしても、
また戻ってきたいと思ってもらえるようにという思いから、
小学校の学童クラブが休みとなる毎週火曜日に和室を開放したり、
月に1回土曜日にまちを遊び場にする〈土曜クラブ〉を開催している。
和室側から見た図。左手に第2会議室がある。正面には車道にせり出すほど大きな桜の木が見える。
「僕らが子どもの頃は遊び場もたくさんあって、
外でキャッチボールやサッカーものびのびとできました。
いまはね、空き地はたくさんあるんですよ。
でも、そこでボール遊びをすると『うるさい!』と苦情がくることも多いんです。
幸いコミュニティ真鶴のそばには小学校がある。
子どもたちが地域と交流するコミュニティハウスとして
機能できたらいいなと思っているんです。
大人が活動しているところに、子どもたちも加わって、一緒に交流する。
それが実現したらこの建物はもっとよくなるんじゃないかと思うんです。
真鶴には高校も大学もないので、必ず一度は外に出ることになります。
子ども時代の思い出が、家庭をもった暁に真鶴に帰ってきたいと
思ってもらえるきっかけになったらいいですよね」
ある日の土曜クラブの活動は、真鶴港での釣り体験。真鶴らしい思い出になりそう。(写真提供:真鶴未来塾)
はじまりは行政主導のプロジェクトだった真鶴未来塾の活動も、
現在では民間団体の強みを生かし、まちの活性化に大きく貢献している。
「まちづくりは行政の専売特許ではない」と意見を述べる一方で、
民間企業やコミュニティありきで進めるのでもなく、お互いが手を取り、
力を合わせるのがベストなやり方だと奥津さんは言う。
「何かを始めようとひらめいてから、実行に移すまでの自由度の高さは、
民間の力だと思います。行政も内部だけですべてをやろうという考えから、
外部と連携したり、ときにはすべて任せたり、分業を取り入れるようになりましたよね。
それがいいんじゃないかなと思います。
誰もがこのまちをよくしたいという気持ちで動いている。
目指す方向は一緒なんだから、みんなでジタバタすることが大切です」
庭にはレモンがきれいに色づいていた。「実のなる木」を植えることを推奨する『美の基準』の精神がここにも。
information
コミュニティ真鶴
住所:神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴504-1
TEL:0465-68-0789
開館時間:9:30~16:00
定休日:月・土・日・祝日、年末年始(12月27日~1月5日)
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