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瀬戸内国際芸術祭2013 春

ローカルアートレポート
vol.036

posted:2013.4.11  from:香川県高松市ほか  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

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Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●東京都出身。エディター/ライター。美術と映画とサッカーが好き。おいしいものにも目がありません。

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撮影:中村脩(メインカット)
写真提供:瀬戸内国際芸術祭実行委員会(作品)

島の四季を舞台に繰り広げられるアート。

瀬戸内海の島々と港で開催中の「瀬戸内国際芸術祭 2013」。
3年に1度開催されるトリエンナーレの2度目となる今回は、大幅にスケールアップ。
直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島に加え、
沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島という西の5つの島が加わり、
合計12の島と高松港、宇野港周辺の広域で開催されている。
会期も、春、夏、秋と3つに分け、瀬戸内の四季に触れてもらおうというのがねらいだ。
前回から継続する43作品を含め、約200を超える作品が展示・発表される。

もはや現代アートの聖地として知られるようになった直島は、
安藤忠雄建築の地中美術館と李禹煥美術館、
アーティストたちが家を丸ごと作品にした「家プロジェクト」など、
建築と現代美術の宝庫。夏には「指輪ホテル」の公演も行われる。

豊島は内藤礼と西沢立衛による豊島美術館や、
クリスチャン・ボルタンスキーの「心臓音のアーカイブ」が島の目玉となっているが、
この夏にまたひとつ大きな見どころが。
建築家の永山祐子による、横尾忠則の美術館「豊島横尾館」だ。
三連の大作絵画をメインにした独創的な建築が誕生する。
また建築家の石上純也も、夏・秋会期にプロジェクトを展開。
そして島の豊かな食材を使った地元のお母さんたちの料理が楽しめる「島キッチン」も、
会期中無休で営業する(会期と会期のあいだは土日・月・祝日のみ営業)。

女木島では、休校中の小学校の庭に、大竹伸朗が「女根/めこん」という作品を展開。
杉浦康益は、かつて段々畑だった場所に約400個の陶のブロックを設置し、
一大パノラマをつくる。そのほか愛知県立芸術大学のプロジェクトなどが行われる。

男木島は、映画『喜びも悲しみも幾年月』の舞台ともなった男木島灯台がある島。
2012年に結成された「TEAM男気」は、大漁旗や祝い旗などで
男木島の漁師たちの男気を視覚化する「男気プロジェクト」を展開。
また会田誠、有馬純寿、大岩オスカール、小沢剛、
パルコキノシタ、松蔭浩之の「昭和40年会」のメンバーは、
休校中の校舎で滞在制作やインスタレーションを発表する。

杉浦康益の「段々の風」は集落と海が見渡せる場所に設置。

「男木の男気」をイメージした絵を大漁旗にあしらい、漁船に掲げる「男気プロジェクト」。

淡路島に次いで、瀬戸内海で2番目に大きい小豆島は、見どころも多い。
ヤノベケンジは、坂手港に巨大作品「ザ・スター・アンガー」を設置するほか、
ビートたけしとのコラボレーションによる彫刻作品も。
UMA/design farmの原田祐馬とMUESUMの多田智美は、気鋭のクリエイターを招き、
滞在制作と展示などを行うCreator in Residence「ei」を構える。
建築チームgrafは、小豆島にある「カタチ」を検証しながらデザインを考える
「小豆島カタチラボ」を展開。
そのほか、コロカルに連載中の山崎亮さんによる
「小豆島町コミュニティアートプロジェクト」は、連載でも紹介する。

大島は、高松港の北東に浮かぶ小さな島。1909年にハンセン病の療養所が設立され、
多くの患者が隔離政策によってそこで暮らすことを余儀なくされた。
現在は入所者の介護や支援、ハンセン病を正しく理解するための啓蒙活動が行われている。
ここでは、入所者の人たちと交流を深めてきた
「やさしい美術プロジェクト」による「つながりの家」や、
画家で絵本作家の田島征三が、療養所だった建物に作品を展示する
「青空の水族館」などが展開する。

銅製錬所の遺構を保存、再生した美術館
「犬島精錬所美術館」がシンボルになっている犬島では、
新たに「家プロジェクト」もスタート。
キュレーターの長谷川祐子がアートディレクターを務め、
SANAAの妹島和世の設計により、名和晃平や荒神明香らのアーティストが参加する。

田島征三による「青空の水族館」は、春に人魚の部屋が公開。夏、秋と徐々に海の世界が広がっていく。

今回から新たに加わるのが、沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島の西の5つの島。
春に開催される沙弥島では「三つの白」をテーマに、
神戸芸術工科大学がプロジェクトを展開。
またEAT & ART TAROが、沙弥島、伊吹島、本島の
島ごとのスープをつくる「島スープ」を考案する。
伊吹島では、夏に建築グループ「みかんぐみ」が
伊吹島名産のいりこにまつわる展示をするほか、
本島、高見島、粟島でも、秋会期にさまざまなプロジェクトが行われる。

島だけでなく、高松港と宇野港、その周辺でもプロジェクトが展開する。
野外でのアートプロジェクトに参加するのは珍しい荒木経惟が参加し、
その作品で車体を覆った「アラーキー列車」が
JR予讃線と土讃線を走り、話題となっている。
また高松では、夏にバングラデシュから約100人ものアーティストや
ものづくりに携わるアルチザンがやって来たり、
秋にはパレードとダンスが繰り広げられる一大イベント
「現代源平屋島合戦絵巻」が行われる。

宇野港周辺では、デイヴィッド・シルヴィアンによるサウンドインスタレーションや、
荒木経惟+デイヴィッド・シルヴィアン、
佐内正史、野村佐紀子らによる「街中写真プロジェクト」などが行われ、
サウンドアートや写真作品も見どころのひとつとなっている。

沙弥島で戸矢崎満雄が展開する「名もなき遠き島より」。沙弥島の浜に打ち寄せられたものを使ったインスタレーション。

荒木経惟の作品で車体をラッピングした「アラーキー列車」は予讃線と土讃線を走る。宇野線の車内をアラーキーの写真が埋め尽くす「PARADISE」も。

島の人たちが元気になる芸術祭を。

瀬戸内国際芸術祭は「地域の活性化」と「海の復権」を掲げる。
かつては航路が発達し、さまざまな産業が盛んだった島々も、現在は過疎化が進む。
「いちばんの目標は、島のおじいさんやおばあさんに元気になってもらうこと」
と総合ディレクターの北川フラムさん。
北川さんは新潟県越後妻有地域の「大地の芸術祭」を成功に導いたアートディレクターだ。
狭義のアートを見せるではなく、人が生活していくうえで生まれる
さまざまなものづくりにアートの根源があると考え、その面白さを伝えたいと話す。
「できるだけ生活に密着したようなことができるアーティストを選んでいるつもりです。
島の人たちが面白がってくれるのも、そういうことにあると思います」

越後妻有や瀬戸内の芸術祭は、世界からも注目されている。
ここ数年、北川さんはたびたび海外から招聘され、講演に赴くことも増えた。
「世界的に、地域という問題に関して切実な思いがあります。
世界中のいろいろな場所が大切だし、
都市が地方を引っ張っていくという時代ではないと思います。
海外から瀬戸内や越後妻有に視察に来ていた政治家もいました。
特にアジアは大きな関心を持っています」

今回の芸術祭では、アジアがつながるというのもひとつの特色。
高松でのバングラデシュのプロジェクトは、かなり大がかりなものになりそうだ。
「バングラデシュという国は、生活ときわめて密接にものづくりをしている国。
生活美術ともいうべきものが根づいていて、とても面白い。
所得は低くて貧しい国だけれど、
ワーキングシェアは世界でもトップレベルで、幸福度も高い。
彼らと日本の人たちが協働することによってアジアがつながるということと、
ものづくりの現場を見せたいというふたつのコンセプトがあります」

島の人たちの笑顔が最大のテーマ。(撮影:中村脩)

現在は芸術祭のサポーター“こえび隊”の登録者は3600人を超え、
大阪での説明会には定員の倍以上の人が集まったそう。
「それだけ地域に関わりたいと思っている人が増えているということです。
これは都市の欲求と言ってもいいかもしれませんが、知識や情報偏向で、
身体性が弱まっていることに対する、現代の都市に暮らす人たちの直感的な何か、
あるいは無意識の表れではないでしょうか」
人が住んでいるところで大切でない場所などない。
地域とそこに住む人が本当に大事なんだという信念を持ち、丁寧に関係をつくってきた。
「本当に島の人が面白くなきゃ困るんだと、私が思っているということが、
なんとか伝わり始めたのではないかと思います」

まだ課題もあるが、アートにはある種の力があると北川さんは信じている。
「アートって直接的にはあまり生活の役に立たない。
でも動機はナチュラルなものだし、現代の価値観に合わなかったり、
違和感を持った人がアーティストになっていたりする。
そういうことが、いいなと思うんです。
あらゆるものがスタンダード化、グローバル化するなかで、
他人と違っていて褒められるのは、アートくらいでしょう」
瀬戸内国際芸術祭は始まったばかり。
春、夏、秋のいずれかでも、すべての会期で違う風景を楽しむのもいいかもしれない。

information


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Setouchi Triennale 2013
瀬戸内国際芸術祭 2013

春:3月20日(水)~4月21日(日)
夏:7月20日(土)~9月1日(日)
秋:10月5日(土)~11月4日(月)
会場:瀬戸内海の12の島+高松・宇野(直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島、高松港・宇野港周辺)
http://setouchi-artfest.jp/

profile

FRAM KITAGAWA
北川フラム

1946年新潟県生まれ。アートディレクター。97年より新潟県十日町地域ニューにいがた里創プラン事業総合コーディネーターとして越後妻有アートネックレス整備構想に携わり、2000年から開催されている「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」総合ディレクターを務める。10年に初開催された「瀬戸内国際芸術祭」でも総合ディレクターに。4月20日から29日まで開催される「徳島LEDアートフェスティバル2013」ではスーパーバイザーを務める。
2003年フランス共和国政府より芸術文化勲章シュヴァリエを受勲。2006年度芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)、2007年度国際交流奨励賞・文化芸術交流賞受賞。2010年香川県文化功労賞受賞。2012年オーストラリア名誉勲章・オフィサー受賞。
(photo:Yuichi Noguchi)

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