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海が見える丘の上の窯元
〈不悉洞〉。真っ白な磁器や
美しい色の伊賀焼を

おでかけコロカル|北海道・道央編

posted:2016.8.23  from:北海道小樽市  genre:旅行

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

photographer profile

YAYOI ARIMOTO

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp

writer's profile

Akiko Yamamoto

山本曜子

ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/

credit

取材協力:北海道観光振興機構

ベースは伊賀焼。凛と佇む高田さんの器

広くとられた窓の前に並ぶ作品が、日本海を背にしてまるで絵画のよう。
ここは、眼下に穏やかな忍路(おしょろ)湾が広がる丘の上に佇む、
陶芸家、高田義一さんの工房軒ショップ〈不悉洞〉(ふしつどう)。

お店に目立った看板はないものの、窓越しに並ぶ陶器が目印。
土の風合いが生きる伊賀焼の器と、手にしっくりとおさまる真っ白な磁器。
築60年の古民家に寄り添うようにさまざまな焼きものが並びます。

大阪生まれの高田さんの作風のベースは、
修行先の三重県伊賀で身につけた伊賀焼。
「これは伊賀の土を含め3種類の土をブレンドしています。
伊賀の先生から、この配合なら伊賀焼と名乗っていいと言われているんです」

左の明るい緑は、天然松灰のみで、濃く青みがかったものは二軒隣にあるおいしいパン屋さん〈エグ・ヴィヴ〉の薪窯から出たケヤキの灰を合わせたもの。(各4000円)

緑色の自然釉が雫のように器の底や表面に流れ、独特の個性が生まれた美しい器。
高温で焼かれることで降りかかった薪の灰が緑色のガラス質になるという、
伊賀焼独特の意匠です。
外側は土の質感を感じるざらりとした手触り。
ところどころにある気泡は土の成分に含まれる長石や珪石による効果だそう。

ぽってりとしてツヤのある磁器は、札幌のコーヒー店でも使われている人気のシリーズ。
口当たりのよさが特徴です。

ころんとした姿が愛らしいカップ。ひとつひとつ形が違うので、お気に入りを探して。(各4000円)

「ごはんがおいしく炊けるよ」と高田さんお墨付きの土鍋(8000円)。年に1回、冬場に集中してつくっているそう。伊賀焼の製法でしっかり焼きしめられ、耐火性に優れています。

入ってすぐのホールには、大きな壺がずらりと並ぶ一角が。
「僕がつくりたいのは壺。もう15年間つくり続けています。
僕の幹にあたるのはこの壺で、このために枝葉にあたる磁器を焼いている。
裏にある穴窯も、壺を焼くためにつくったんです」と高田さん。

土の質感がみなぎっている、大壺。

ショップとなっている古民家のすぐ隣に住まいと窯、そして別棟に作陶室があり、
建物裏の丘には斜面に沿ってつくられた立派な穴窯が風格を放っています。
2年を費やし2001年に完成した穴窯を、年に一度徹夜で焚き、
壺をはじめとした作品を焼いています。初窯の時は150個もの作品を焼き上げたそう。

海を見下ろす穴窯。もとは葡萄畑だった斜面を、日本の穴窯の平均角度の14度にならしてつくりました。「冷めるのが早くなるので、土を掘ってわらを混ぜてふとんのようにかぶせています」

穴窯の周りには自然そのままの山野草や山葡萄、桑の実がのびのびと自生し、
小さな自家菜園ではジャガイモが可愛い花をつけています。高田さんの楽しみ、
渓流釣りで見つけて植えてみたというシラネアオイが群生していました。

窓の向こうは海、静謐な空気の漂う作陶室。窓の下にふたつ見えるのが、丸い板のふちを蹴って回す〈けろくろ〉。

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高田さんと陶芸の出会い

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高田さんと陶芸の出会いは浪人生時代。
たまたまテレビで見かけた職業訓練校の陶芸の授業風景に、
突然、これをやろう!と閃いた高田さんは、陶芸科のある京都のデザイン学校へ入学します。
卒業後、京都の美術陶芸グループ〈走泥社〉の陶芸家の元で6年、
その後伊賀焼きの中興の祖といわれた故 谷本光生さんの内弟子として1年働き
独立のための場所を探し始めます。

あたたかく気さくな人柄の高田さん。骨董品や古書がなにげなく置かれ、そっと野の花が生けられた店内には、高田さんのセンスがちりばめられています。

「金沢か盛岡か小樽で焼きものをやろうと思った」
高田さんは、下見に訪れた札幌で縁あって陶芸講師を始めることになり、
北海道に移住。やがて念願の小樽に構えた窯が立ち退きとなり、
1980年、引っ越し先にと知人が見つけてくれたここ忍路で暮らし始めます。

「忍路はニシン漁で昔栄えたまちだから、よそものも受け入れてくれる大らかさがある。
遺跡が多く、遥か昔から人が住んでいたところだしね。静かでいいところですよ」

庭には、高田さんがつくったチャーミングなオブジェが。

「一番楽しいことを仕事にしてしまった」と笑う高田さんは、
自らを「作家でもアーティストでもない」と言い切ります。
「僕は“ええもん”をつくりたい。手にした人が飽きのこない、
使い続けたくなる普通の器をつくり続けたいんです」

“不悉”とは、大正時代、手紙の末尾に添えられたという言葉。
“言葉至りませず、ことごとく尽くせませんでした”という意味。
「この仕事はこれで100点満点ということはないので、いい言葉だなあと思って」

気づけばいつも、日々の食卓にあるうつわ。
ここには、長く大切につきあっていきたい一品との出会いが待っています。

information

map

不悉洞(ふしつどう)

住所:小樽市忍路1-217

TEL:0134-64-2103

営業時間:9:00〜17:00

定休日:不定休

※駐車場あり

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