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写真でめぐる、道東の魅力!
森と海、そして土地のぬくもり。
写真家・在本彌生の旅の記録。|Page 4

おでかけコロカル|北海道・道東編

Page 4

3 時空を超える、根室の自然

根室を走っていると、道路に昆布が落ちていました。さらに走ると、昆布盛という駅に遭遇。
近くで昆布漁をしているのではと、海岸を探して車を走らせます。

道路にまた昆布が落ちています。きっと近いはず。

見つけました。浜松の海岸で出合った昆布拾い。重い昆布をかつぎトラックへ。商品となるまでには、
この後約40以上の工程があるそう。手間ひまかけて私たちの食卓へと来ていることを学びます。

道中に食べていきなとおいしい昆布を家から持ってきてくれました。土地のあたたかさに触れた旅のひとコマ。

続いて、根室の知人たちに教えてもらった
落石岬灯台へ。

絶壁と太平洋。

北欧やアイルランドに来たかのような
景観に圧倒されます。

ハマナス。

そのまま近くの森を散策。

根室市の中心街へ戻り、魚信へ。

最後に訪れたのは、春国岱(しゅんくにたい)。
ドキドキするような真っ赤なアッケシソウが。

この風景のなかをひたすら歩く。

1時間以上歩いて出合えた、念願のクジラの骨。

海道の根室で会った知人に、
春国岱(しゅんくにたい)という湿地帯で、クジラの骨を見つけられると聞いた。海で死んだクジラが、流れ着いて浜に上がる。鳥たちや動物たちに肉を食べられ、骨だけがそこに残るのだという。

私は浜に佇むクジラの骨を思った。
春国岱に立ち寄る予定はなかったのに、
クジラの骨のことを考えるといてもたってもいられなくなった。
どうしてもこの眼で見て、写真に収めたかった。

無理を承知で、同行していた編集者に翌日の予定の大幅変更を懇願し、
クジラの骨を目指し湿原を歩くことにした。
右手は灰色波立った海、左手には数千年かけてつくり上げられた湿原と林、
そんななかを歩いていると、
いつの時代のどこの場所にいるのかわからない感じ。
遠近感が狂い、時空がよじれるような不思議な感覚が、
脳みその内側から溢れ出てくる。

ごま粒のような小さな虫にあちこち刺されながら、
ひたすら続く海岸に沿って砂浜を進んだ。

クジラの骨のだいたいの在処は聞いてきていたので、
そろそろあるはず、と期待を膨らませながら、
行く手に白っぽいものを見つけては歩み寄る。
しかし、それは打ち上げられた流木や貝殻だった。
それを何度も繰り返しながら1時間近く歩いて、とうとう砂浜が途切れた。

もう時間切れだから引き返そう、そう促され、悔しい気持ちが残る。
見落としたはずはないと思いつつ、
歩いてきた浜をもう一度見直しながら引き返すことになった。

私は納得がいかなかった。
巨大なクジラの骨は、高波にさらわれ根こそぎ浜から消えたのか、
急速に風化したのか。かけらにも出合えない自分の不運を嘆いて、
一杯やるしかないのか……。

私は来た道をもう一度丁寧に、点検しながら歩く。
骨には見切りをつけて、湿原の野鳥や草花を見て帰ろうと、
編集者は奥まった林に近い草原の道を歩いた。

半分も過ぎたあたりで、呼び声が聞こえた。

「骨、あったー!」

彼女は海沿いの浜から50メートルも内側にはいった、
小い道からこっちに向かって手を振っている。
一瞬冗談かと思ったが、確信を持って手招きをしている。

駆けてゆくと、確かにクジラの骨が、草っ原にどっかりと並んでいた。
公園の遊具のようで拍子抜けした。

この世界に生まれ落ちたところと、消えるところが違っても問題はない。
大きな命が死んだ後、その身を遍く生き物たちに振り撒いて、
すっかりなくなり骨になる。そしていつか
その美しい彫刻のような白い骨さえも風化されていく。
そんな終わり方、この上なく綺麗ではないか。
巨体からほんの一部残された、それでもかなり大きな骨の連なりを、
しばらく私はじっくりと眺め、そして3枚シャッターを切った。

「どこを探していたんだよ」

クジラの骨は、ちっぽけな私を嗤っていた。