地元のお米を使って真面目に丁寧に造る、家族で営む小さな酒蔵。
鳥取砂丘のある海沿いから、どんどん内陸に車を走らせていくと、
回りはすっかり山と田畑に囲まれた、緑濃い静かな農村地帯へと景色が変わっていきます。
単線のローカル列車がのどかにコトコト走っていたり、
きれいな川や果樹園の横を通り過ぎたり、
朝方は濃い霧が立ちこめて水墨画のようだったり、
冬は雪に覆われ一面銀世界だったり。
目を見張るような風景が次々に現れ、車窓を眺めていても飽きることがありません。
太田酒造場があるのは、そんなローカル線の終着駅近く、
若桜と書いて“わかさ”と読みます。
兵庫県と岡山県に隣接する、鳥取の中でも特に奥地のほう。
歩いてすぐ一周できるくらい小さなまちには、
まだ古い家もたくさん残っていて、情緒が感じられます。

太田酒造場は、主に家族で営んでいる小さな酒蔵。
仕込みは杜氏を中心に3人で行います。
農家さんをとても大切にしていて、
使うのは全て地元若桜町で収穫された酒米です。
春には自分たちでも田植えをして、酒米を作っています。
お米の種類(山田錦、五百万石、強力、玉栄、鳥姫など)ごとに、
また、同じ種類のお米でも、生産農家が違えば別々のタンクに仕込んで、
ブレンドせずに出荷されています。
なので、酒瓶のラベルの裏には農家さんの名前も紹介されています。
もろみを搾るのは槽搾りといって、見た目はお風呂のような、
中はステンレスだけど柿渋を塗った木枠の槽に、もろみを詰めた酒袋をどんどん載せ、
昔ながらの方法で、ぽたぽたゆっくり搾ります。
酒造りに大忙しな冬の季節は、3人では人手も足りないかと、
この蔵のファンだという一般の人が休みを返上して駆けつけ、
嬉しそうにお手伝いしていることもあります。

建物は築100年以上経っているそうで、天井を見上げると立派な梁があり、
造りには昔ながらの蔵らしい知恵があちこちに見られます。
急な木の階段を上った2階は蒸し立てのお米を冷ますところで、
冷たい風が来るようにと、北側に窓が開いています。
奥には昔蔵人さん(お酒を造る人)が寝泊まりしていたという部屋が残っており、
資料室として古い道具がたくさん納められていました。
狐桶と呼ばれる、先が細くなって狐の顔のようなかたちをした木桶
(もろみを酒袋に移すための道具)など、珍しいものを見かけます。

ここのお酒は全て純米酒で、しっかりとお米そのものの味が感じられます。
ふくよかでコクの深い、うまみのあるお酒だと思います。お燗で飲むのもおすすめ。
お米の種類毎に味比べをするのも楽しいです。
強力、玉栄、鳥姫などは鳥取ならではの酒米です。
冬には酒粕を販売していることもあり、
できたての板状の酒粕を少し炙っていただくのもたまりません。
また、蔵では酒粕を使った奈良漬けも作っており、
やはり地元産の大根やきゅうりを使い、
2年掛けて7回酒粕を漬け替え(きゅうりは6回)熟成し、
手間暇掛けて作られています。材料は酒粕と塩のみ。
奈良漬け蔵の中で、漬け終わった酒粕をちょこっと味見させてもらったところ、
塩と野菜の出汁が染み込んで、まろやかないい味になっていました。
漬けた粕でさえおいしいのだから、そんな奈良漬けがおいしくない訳がありません。
いつも人気であっという間に売り切れてしまうのだそうです。

奈良漬けを漬け終わった酒粕。ちょうどいい塩梅!
information
太田酒造場
住所 鳥取県八頭郡若桜町若桜1223-2
TEL 0858-82-0611 FAX 0858-82-0612
http://www1.ocn.ne.jp/~bentenmu/
