暖簾を下ろした旅館を、新たに人が集う場所に。
鉄輪(かんなわ)で平成8年まで「冨士屋旅館」として営業していた
「冨士屋ギャラリー 一也百(はなやもも)」は、
明治32年に建てられた建物で、別府に唯一残る明治時代の旅館建築。
衣料品店、食料品店など、趣のある長屋が連なる奥、
現在の蒸し湯の場所にあった「冨士屋」本館の最後の日。
取り壊されていく様子を見つめた冨士屋ギャラリー代表の安波(やすなみ)治子さんは、
「悲しくてしょうがなかった」と振り返る。
新館も、建物の老朽化に伴い営業を停止した際に、取り壊される予定だった。
「けれど、頼んでいた解体業者さんが来た当日、そのまま追い返しちゃったの」
鉄輪という場所で過ごした記憶が、そうさせたのだろう。
無理なく冨士屋の空間と価値を残していくために選んだ手段が、
ギャラリーとして再生させ、開放することだった。

現在、冨士屋では、コンサートや展覧会などのイベントが開催されている。
そこでは、音楽や作品を通じて訪れた人が交流を深め、
終われば皆それぞれの家へ帰って行く。
「同じなんです、旅館のときと。旅人も訪れて、交流し、やがて去って行く。
昔から、ここはそういう場所だったんですよね」