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長岡市〈猟師食堂WADA正〉
森の恵みを家庭料理で。
女性ハンターが営むジビエ料理店

おでかけコロカル|新潟編

posted:2021.3.22   from:新潟県長岡市  genre:旅行 / 食・グルメ

PR 新潟県

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

writer profile

Hiroyo Yajima

矢島容代

やじま・ひろよ●フリーライター。岐阜県生まれ。大学卒業後に上京。東京では『GINZA』などの雑誌でインタビューしたり、おいしいものを紹介したり。一度日本を離れてタイやドイツで生活したあと、田舎暮らしをしようと、山形県に隣接する新潟県村上市に移住。夫とともに新潟と山形の両方の文化を楽しむ日々。

credit

撮影:ただ(ゆかい)

野性味あふれる肉をやさしい料理に

長岡駅からほど近い繁華街、殿町。
ここにカウンター席のみの小さなジビエ料理店があります。
名前は〈猟師食堂WADA正(ワダマサ)〉。
ジビエといってもフレンチではありません。こちらでいただけるのは、
コロッケ、パスタ、麻婆豆腐といった普段着の料理。

「ジビエのイメージと全然違うって言われます」と話すのは、
自身もハンターである店主の和田正子さん。

ビストロのような雰囲気の赤いドアが目印。

ビストロのような雰囲気の赤いドアが目印。

明るく気さくな雰囲気が印象的な和田正子さん。新潟県小千谷(おぢや)市の出身。ひとりで店を切り盛りしています。

明るく気さくな雰囲気が印象的な和田正子さん。新潟県小千谷(おぢや)市の出身。ひとりで店を切り盛りしています。

和田さんの料理の魅力は、素材のおいしさを引き出しながらも、
それが野生の肉であることを感じさせないところ。

たとえばクマ汁。
「クマ肉のおいしさは、何と言っても脂身です」という和田さんの言葉どおり、
脂の旨みと甘みがスープに深みを与え、
煮込むほどに真価を発揮する肉の力強さを感じます。
が、味わいはあくまでやさしく、それがジビエだということを忘れてしまうほど。

脂の旨さを味わいたいクマ肉は、自家製の三年味噌を使ってクマ汁(880円)に。肉は何度も噛み締めたくなる濃厚な味わい。

脂の旨さを味わいたいクマ肉は、自家製の三年味噌を使ってクマ汁(880円)に。肉は何度も噛み締めたくなる濃厚な味わい。

イノシシやシカ肉もしかり。和田さんの自由な発想から生まれる、
気負いのない料理を楽しんでいると、どの肉も慣れ親しんだ食材のように思えてきます。

里芋のコロッケ(1個495円)。大きめにカットされたイノシシ肉がゴロゴロ入った食べ応えのある一品。

里芋のコロッケ(1個495円)。大きめにカットされたイノシシ肉がゴロゴロ入った食べ応えのある一品。

自家製ラー油を使ったイノシシの麻婆豆腐(880円)。軽やかながら甘みの濃い脂身のおいしさも魅力。

自家製ラー油を使ったイノシシの麻婆豆腐(880円)。軽やかながら甘みの濃い脂身のおいしさも魅力。

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絶品イノシシのローストも!

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イノシシは豚肉、シカは牛肉の要領で

そもそもジビエとは、食材として狩猟、捕獲された野生の鳥獣肉を意味するフランス語。
イノシシやシカ、カモなどがよく知られていますが、
そのほかにも日本では、キジ、ハクビシン、クマなど、
全部で48種類の動物の狩猟が認められているそうです。

「ジビエといっても種類も味もさまざま。
獣臭いというイメージを持っている人もいますが、
ていねいに処理された肉は、まったく臭みがありません。
それどころか、木の実を食べているイノシシやクマの肉は、
ナッツのいい香りがするんですよ」

野山を駆け回り、山の恵みを主食とする動物たちの肉は、おいしいだけでなく、
無添加で栄養価の高い“本物の肉”だと和田さんは言います。

メニューはその日の素材によって決めるそう。店で扱う肉は信頼のおける食肉処理施設から届く。

メニューはその日の素材によって決めるそう。店で扱う肉は信頼のおける食肉処理施設から届く。

「ジビエだからと難しく考えず、豚肉や牛肉と同じ感覚で使っています。
ブタは大昔に人間がイノシシを家畜化したものだと言われているくらいですし、
シカは脂身が少なく、鉄分が豊富なので、牛肉の赤身のイメージで」

牛肉を香味野菜とともに煮込むボロネーゼ(1650円〜)をシカ肉で。コクのある味わいながら食後感の軽さが印象的。

牛肉を香味野菜とともに煮込むボロネーゼ(1650円〜)をシカ肉で。コクのある味わいながら食後感の軽さが印象的。

しっとりとした質感が伝わってくる美しいイノシシのロースト(3300円)。この日のソースは完熟した柿をすりおろしたもの。果実の甘みが肉の旨みを引き立てます。

しっとりとした質感が伝わってくる美しいイノシシのロースト(3300円)。この日のソースは完熟した柿をすりおろしたもの。果実の甘みが肉の旨みを引き立てます。

料理は独学という和田さんですが、その腕前は『ミシュランガイド新潟2020』で
“ミシュランプレート”として掲載されるほど。
店にはジビエ好きをはじめ、ハンター仲間、地元の常連さんなど、
さまざまな客が訪れます。

ビスキュイの代わりに長岡の焼き麩を使用したティラミス(495円)。和田さんの自家製デザートも楽しみのひとつ。

ビスキュイの代わりに長岡の焼き麩を使用したティラミス(495円)。和田さんの自家製デザートも楽しみのひとつ。

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店を開いたきっかけは…?

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ジビエが抱える問題を解決したい

和田さんを中心に客同士があっという間に打ち解けていきます。店は2017にオープン。

和田さんを中心に客同士があっという間に打ち解けていきます。店は2017にオープン。

もともとは介護の仕事をしていたという和田さん。
店を開いたきっかけを尋ねると、意外な答えが返ってきました。

「本当は、ジビエの解体処理施設をつくりたかったんです」

和田さんが狩猟免許を取得したのは6年ほど前。
もともと釣り好きで、自分で釣った魚を自分でさばいて食べていた和田さんにとって、
天然の肉を求めて猟師になることは、自然な流れだったといいます。

雪の上を歩くための「かんじき」。冬の狩猟には欠かせない道具。

雪の上を歩くための「かんじき」。冬の狩猟には欠かせない道具。

「狩猟をするうちに、自分の好きなことを仕事にしたいと思うようになりました。
野生の肉は、食品衛生法に適合したジビエ専門の処理施設を通さなければ、
食肉として流通させることはできません。でも処理できる施設って少ないんです。
これではせっかくのおいしい肉が、食べる人のもとに届かない。
自分でできないかと思うようになり、いろいろな処理施設に行って、
見学させてもらいました」

ディスプレイされている頭蓋骨は処理施設から譲ってもらったという。骨や皮も和田さんにとっては大切な命。

ディスプレイされている頭蓋骨は処理施設から譲ってもらったという。骨や皮も和田さんにとっては大切な命。

しかし実際は、高額な設備投資に加え、野生の動物が相手であるため
安定供給が難しいなど、ひとりで実現するには壁が多く、
断念せざるを得なかったといいます。

「でも、どうしても諦めきれなくて。
自分にできることは何かと考えたときに、ジビエを身近な家庭料理で提供して、
そのおいしさを知ってもらうことでした。
野生の肉を気軽に家庭で食べてもらえるようになったらいいなと思います」

「今日の命いただきます」の文字が印象的な手書きのメニュー。

「今日の命いただきます」の文字が印象的な手書きのメニュー。

お客さんから「おいしい」と言ってもらえるのが何よりうれしいという和田さん。
近年、森や畑を荒らす害獣であるイノシシやシカを捕獲し、
地域資源として活用する動きが高まっているものの、
その多くが食肉になることなく廃棄されているといいます。

奪った命を“森の恵み”としてありがたくいただきたい。
命と向き合うハンターがつくる料理には、そんな動物愛がぎゅっと詰まっています。

information

map

猟師食堂WADA正

住所:新潟県長岡市殿町3-1-5 ツチダビル1F

営業時間:18:00〜(閉店時間は日によって異なる)

定休日:不定休

Web:Facebook

*価格はすべて税込、時価で提供する料理もあり。

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