odekake
posted:2017.9.16 from:北海道函館市 genre:旅行
〈 おでかけコロカルとは… 〉
一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。
photographer profile
Yayoi Arimoto
在本彌生
フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp
writer's profile
Akiko Yamamoto
山本曜子
ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/
credit
取材協力:北海道観光振興機構
道南に、日本で唯一、国宝を鑑賞できる道の駅があるのを知っていますか?
函館市街地から車で約50分、緑深い峠道の先に広がる内浦湾に面した、
上質な真昆布の産地として名高いまち南茅部。
2011年に誕生した道の駅〈縄文ロマン南かやべ〉と
同じ建物にある〈函館市縄文文化交流センター〉は、2007年国宝に指定された、
まちが誇る、縄文の土偶〈中空土偶〉に会える、道南の大きな見どころです。
厳しい自然と共生し、優れた技術や豊かな精神性をもつ縄文文化。
函館市縄文文化交流センターでは、南茅部で発掘された中空土偶をはじめ、
縄文の歴史が色濃く残る函館市で発掘された
貴重な遺構や出土品をゆっくりと鑑賞することができます。
縄文遺跡の数は函館市内で400か所、南茅部地域だけでも90か所にのぼります。
函館で出土する縄文土器の中には青森県の同時代の土器との共通点も多いことから、
現在、道南〜道央の6つの縄文遺跡と、
青森県・岩手県・青森県の縄文遺跡を〈北海道・北東北の縄文遺跡群〉という名で
世界遺産登録を目指す動きも進んでいます。
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建物は、入り口が2階にあるというつくり。まずは導入部分となる〈展示室1〉へ。
約1万2000年間という世界でも類を見ない長さで続いた縄文文化の移り変わりや、
時期ごとの函館地域の遺跡が紹介されています。
気候の変動に適応しながら成熟していった縄文文化は日本列島全域でおこりました。
しかし、北海道では縄文文化ののちに弥生文化がおこらず、
本州とは異なる独自の歴史にも触れられています。
本州が古墳時代、飛鳥時代、奈良時代、平安時代と続く頃、
北海道では、続縄文文化、オホーツク文化(特にオホーツク海側地域)、
擦文(さつもん)文化と呼ばれる、
土器を使い採集や魚狩猟文化が行われる時代が続きました。
次は、1階へと下りてメインとなる展示室へ。
まるで今も地中に眠る縄文時代へタイムトリップするような感覚です。
天井の高い〈展示室2〉では、南茅部地域を中心に
函館市内の遺跡から発見された出土品がスタイリッシュな空間に展示されています。
なかには、貝塚から発掘されたクルミなど、数千年前の有機物も。
日本特有の酸性土壌をアルカリ性にするため遺物が残りやすい貝塚ですが、
北海道では、貝のゴミだけではなく翡翠やイルカの骨なども見つかっていることから
“ものに宿った魂を送る場所”という意味合いがあったとも言われています。
入り口正面に積まれている平たい石は、すぐ近くにある大船遺跡から
大量に出土した石皿で、こちらは直接触れてOK。
食べ物をすりつぶすのに使われた石皿の、
すり減った部分のなめらかな触り心地を体感してみて。
「この地域は、縄文時代には今より暖かい気候だったようで、
現在はとれないハマグリも見つかっています。豊かな漁のできる海に、
狩猟の獲物も多い山のある南茅部は、
縄文人にとって暮らしやすい地域だったのでしょうね」
学芸員の平野千枝さんはそう解説します。
展示から伝わる、道南の豊かな自然の中で漁撈や狩猟・採集をしていた
縄文時代のいとなみに引き込まれます。
また、展示品の中でも見どころとなるのが、
北海道には自生していない漆を使った出土品です。
赤漆の塗られた美しい注口土器などの漆製品、
また、漆の糸の残された墓の内部のレプリカもあります。
縄文文化交流センターそば、縄文時代早期の〈垣ノ島B遺跡〉から
副葬品として2000年に出土した複数の漆の繊維製品が、
放射性年代測定の結果、9000年前の世界最古の漆工芸品ということが判明しています。
残念ながら2002年、同遺跡の埋蔵文化財調査団事務所が全焼し、
その貴重な出土品の多くが焼失してしまったものの、
わずかに残った漆製品の調査が現在も進められています。
縄文文化の大きな特徴と言えるのが、交易。
函館市内で出土する美しい翡翠(ひすい)はそのほとんどが、
日本各地の縄文遺跡で見つかる翡翠と同じく、
新潟県の糸魚川産のものと判明しています。
当時から全国規模の交易が行われていたことを示す、翡翠の勾玉や大珠のほか、
秋田県から運ばれ、さまざまに利用されていた天然のアスファルトなど、
興味をそそられる展示がたくさんです。
順路に沿って、やがて神秘的な雰囲気が漂う空間へ。
縄文の人々の思想、死生観に触れられる出土品が並ぶ〈展示室3〉には、
縄文時代でも大変珍しい出土品のひとつ、
小さな子どもの足型を残した〈足形付土版〉が目を引きます。
「いろいろな説がありますが、出土状況から、
幼くして亡くなった子の足型を形見として残し、
親とともに埋葬されたのではないかもと言われています」と語る平野さん。
縄文時代の人々にとって、死と再生とはどんなサイクルだったのでしょう。
さて、いよいよ、北海道唯一の国宝の中空土偶が展示されている静謐な空間へ進みます。
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暗闇に浮かび上がるようにたたずむ中空土偶は、
地元では“カックウ”という愛称で親しまれています。
1975年、南茅部の主婦の方が畑仕事中に偶然頭部を見つけたことから、
発掘調査が開始されました。発見時はバラバラな状態だったものの、
両腕と頭部の一部以外はほぼ完全な状態で復元されています。
函館病院でのCTスキャンでわかった内部の構造や、
見つかった畑が約3500年前の特別な人物の墓という状況から、
中空土偶は壊されることを前提につくられ、
再生を願って死者と共に葬られたとみられています。
本物の中空土偶が放つ不思議な魅力を体感しながら、
そばに置かれたベンチに腰かけて、じっくりと鑑賞するのもおすすめです。
ふたたび明るい光の差し込む2階に戻ったら、
縄文時代につくられていた工芸品の制作体験ができる
体験学習室を訪ねてみましょう。
鹿角を使った釣り針や縄文ペンダントづくり、組みひもアクセサリー、
ミニチュア土器づくりなど、団体でなければ開館中はいつでも制作することができます。
このほか、入り口にはオリジナルのお土産品を販売するコーナーもあるので、
カックウグッズもチェックしてみて。
縄文文化交流センターとセットで訪れたいのが、
車で7分ほどの海岸沿いの丘にある国の史跡〈大船遺跡〉。
1996年、町営墓地造成のための調査で発見された遺跡は、
縄文時代、約5000〜4000年前の1000年間にわたって続いた
集落の跡地とみられています。
100を超える竪穴の建物跡や土坑墓、貯蔵穴などのうち、
一部の竪穴住居や盛土遺構が再現され、自由に見学することができます。
すぐそばの管理棟で展示されている大船遺跡の概要も、合わせて鑑賞してみましょう。
南茅部に今も息づく縄文文化に触れ、太古の暮らしに思いを馳せる。
日本のルーツにもつながる、ここにしかない歴史の旅に出かけてみませんか?
information
函館市縄文文化交流センター
住所:函館市臼尻町551−1
TEL:0138-25-2030
営業時間:4月1日〜10月31日9:00〜17:00、11月1日〜3月31日9:00〜16:30
定休日:月曜(祝日の場合は翌日休)、最終金曜、年末年始
入館料:一般300円、学生・生徒・児童150円
駐車場:あり
information
函館大船遺跡埋蔵文化財展示館
住所:函館市大船町575−1
TEL:0138-25-2030
営業時間:9:00〜17:00
定休日:11月下旬〜4月下旬(冬期間)※開館期間中は無休
入館料:無料
駐車場:あり
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