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写真集「ことでん 仏生山工場」
100年前から
走ってきた「ことでん」の
魅力と再生の記録。

コロカルニュース

posted:2015.6.13   from:香川県高松市  genre:旅行 / 活性化と創生

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。

writer profile

Yu Miyakoshi

宮越裕生

みやこし・ゆう●神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへて2011年よりライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。

100年前から香川県高松市のまちや山を
走ってきた高松琴平電気鉄道。
「ことでん」という名前で親しまれている、
とってもかわいい電車です。

この鉄道の心臓部ともいわれる仏生山工場と、
そこで働く人たちを写した写真集があります。

©GABOMI.

でも、田園を走る風景でもなく、
車窓風景でもなく、なぜ工場?
そのわけは、仏生山駅の隣に立つ巨大な工場の中にありました。

こちらはただの整備工場ではなく、
東京の京浜急行や京王電鉄の30年落ちの中古車を改造補修し、
ぴかぴかの「ことでん」によみがえらせる工場なんです。

©GABOMI.

2011年の冬、たまたまこの工場を訪れ、
その技と技術者さんたちに惚れ込んでしまったのが、
高知県生まれの写真家・GABOMI.(がぼみ)さん。

足りない部品は鉄を加工してつくる、
生まれ変わった電車は数十年寿命を延ばす……
GABOMI.さんはそんなエピソードに興奮し、
気づいたら「写真を撮らせて下さい!」と言っていたそう。

©GABOMI.

おりしも、GABOMI.さんが工場を訪れたのは、
1911年(明治44年)に「ことでん」の前身のひとつ
「東讃電気軌道」が走り出し、
ちょうど100年目を迎えようとしていた頃。

その時、高松琴平電気鉄道の
取締役・真鍋康正さん(当時)は
“百年目の現在を記録して地域の方に伝え、
新たな未来を描いていきたい”という思いを抱いていました。
そこで、GABOMI.さんに撮影を依頼。

それからGABOMI.さんは、撮影のために何度も工場を訪れました。

©GABOMI.

工場では、約25名の技術者の方たちが、
日々80を超える車両の点検を行っていました。
車両は数年おきにねじ一本まで分解され、
洗浄・点検・修理をほどこされます。

足りない部品を自分たちでつくるのは、
古い交換部品がないから。
マニュアルのようなものもありません。
だからここでは、つくれるものは買わずにつくる、
使えるものはできるだけ長く使う、ということが
伝統的に行われてきたのです。

香川の工場の奥で、
こんなにすごいことが行われていたなんて!

©GABOMI.

そして同年の冬、GABOMI.さんは
ことでん開業100周年記念イベントにて
「ことでん百年目の写真展」を開催。
写真展は反響を呼び、イベントも大成功を収めました。

©GABOMI.

そんな「ことでん」にも
存続が危ぶまれた大変な時期がありました。
しかもそれは、「ことでん」の長い歴史の中では、つい最近のことでした。

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「ことでん」は、必要ですか?

いまでは地域の人や観光客から
人気を集めている「ことでん」ですが、
いまから15年ほど前、厳しい節目に立たされました。

それは、2001年に同社が運営する「コトデンそごう」が
倒産し経営が立ち行かなくなり、
民事再生手続きを進めていた時のこと。

©GABOMI.

高松琴平電気鉄道は、沿線に住む方々に
「ことでんは、必要ですか?」と問いかけました。
多く集まったのは「鉄道はいるけど、ことでんはいらない」という答え。
それは「鉄道は必要だけど、それはことでんじゃなくてもいい」という厳しい意見でした。

この評価を真摯に受けとめた新経営陣は、
再生へ向けてすぐさま動きだしました。
まずは「過去を忘れるな」「変わり続けよう」「挑戦を続けよう」
という前提にもとづいた「ことでん100計画」を宣言し、
設備やサービス面を改善。
そして地域の人と一緒に香川と鉄道の未来を
描いていく鉄道へと生まれ変わり、
2006年には、無事再生計画を終了しました。

再建の際には、イルカのマスコットキャラクター「ことちゃん」も誕生しました。
なぜイルカなのかというと、「いるか?」にかけているんです。

「どれだけ長い歴史をもっていようが、
真摯に地域の声に向き合わなければ
愛着や信頼は簡単に失われる。
その当たり前のことに気づいた苦い経験が、
新生ことでんの原点にあります。
「ことでんはいるか?」と問いかけた記憶を失わないよう、
そして今後も地域に自分たちの価値を問いかける姿勢を失わないよう、
再生後のことでんのマスコットはイルカ(いるか?)の『ことちゃん』です。」
—高松琴平電気鉄道株式会社 取締役 真鍋康正さん執筆
「『ことでん』と仏生山工場について」より(「ことでん 仏生山工場」収録)

存続の危機から生まれたマスコット、ことちゃん。
誕生話を聞くと、何とも愛くるしく思えてきます。

最近では、車窓風景などを発信している
Twitterも人気だそう。
100年前からことこと走り続けてきたから、
「ことこと」が口癖です。
ことちゃんのTwitterはこちら

さらにICカードは、
「Suica(スイカ)」や「ICOCA(イコカ)」ならぬ、
「IruCa(イルカ)」なのだそう!かわいいですね。

うどんをすする“ぞぞーことちゃん”

©GABOMI.

写真集「ことでん 仏生山工場」には、「ことでん」を支えてきた
人たちのいとなみと技がつまっています。
表紙には、バンド「くるり」のDVD「くるくる節」に
「ことでん」が登場したご縁から、
ヴォーカルの岸田繁さんが推薦文を寄せています。
いろいろな方が「ことでん」の魅力に惹かれているようですね。
「ことでん」のことを知れば知るほど、その理由がわかるような気がしました。

GABOMI.さんと工場の皆さんとの交流も続いており、新たな写真も生まれているよう。
「ことでん」の魅力は、まだまだ尽きることがなさそうです。

「ことでん 仏生山工場」
著者 GABOMI.
アートディレクション 寄藤文平
価格 2,500円+税
出版社 赤々舎
出版年 2012年

写真集「ことでん 仏生山工場」
GABOMI.
高松琴平電気鉄道
ことでん 100周年記念サイト

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