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posted:2025.1.21 from:高知県高岡郡四万十町 genre:食・グルメ
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writer profile
Yuria Jo
城リユア
じょう・りゆあ●大分県出身。出版社の情報誌編集部などを経て独立。旅やライフスタイルについて執筆。ニュースメディアでインタビューやノンフィクション取材、旅メディアで動画制作も担当。趣味は飲み歩き。
茨城から高知に移り住み、杜氏として“高知で一番小さな酒蔵”〈文本酒造〉の
再出発を牽引してきた石川博之さんにお話を伺いました。
酒づくりへの思い、そして移住者の視点から見えてくる
“日本最後の清流のまち”「四万十町(しまんとちょう)」の魅力を紹介します。
高知龍馬空港から車を走らせること約1時間、四万十町の窪川地域に到着です。
かつては町に7軒ほどあった酒造も、
いまは四万十川のほとりの文本酒造1軒が残るのみ。
コロナ禍では売上が減少し、3年ほど醸造を停止している間に
廃業を検討するほどに追い詰められましたが、
「窪川の街に酒蔵を残したい」と願う現オーナーが事業を承継し存続が決まりました。
事業承継後には、酒蔵や蔵の建物に大幅な手入れを行い、
2023年5月にリニューアルオープン。店に一歩足を踏み入れると、
1903年創業の古めかしい外観からは想像できないような
酒蔵の母屋を大胆にリノベーションした
日本酒ペアリングBAR〈お酒やさん〉の洒落た空間が広がります。
杜氏の石川さんと番頭の十代幸栄さんが出迎えてくれました。
石川さんは長年働いた茨城の酒蔵を卒業した際、
日本各地の酒蔵から『杜氏としてうちに来てほしい』と引く手あまただったそうですが、
ある強い確信をもって、文本酒造を選びました。
「お声がけいただいた各地の酒蔵を巡りつつ地元の酒場を飲み歩いていたんですけど……
飲んでいて一番面白かったのが、この四万十町だったんですよ(笑)
ふらっと入った飲み屋で隣り合ったおじさんとすぐ仲良くなって、
2、3杯は奢ってもらったと思うんだ。
あとから分かったけど、それは近所の床屋さんのおじさんだった(笑)。
この町の人々の温かさ、人懐っこさにとても惹かれたんです」
実はこれ、高知では消して珍しくはない酒場体験。
高知で宴会は「おきゃく」と呼ばれ、老いも若きも美酒と料理を囲んで
朝から晩まで楽しく飲み明かすカルチャーが古くから根づいているんです。
役場の職員さんいわく『ひとりより、みんなで楽しく飲みたい酒好き』がとにかく多いのだとか。
「移住して1年以上たったけど、最初の印象は全然変わらないですね。
食べ物も美味しいし、最高ですよ」
そして、石川さんが文本酒造に惹かれた理由がもうひとつ。
「伝統を継承してほしい」「こんな風なお酒をつくってほしい」と
型にはめられることなく、まっさらな状態で理想の酒造りを追究できる環境だったから。
「地元の方、日本の方々に愛されるお酒づくりはもちろんですが、
やっぱりこれからの日本酒は海外に打って出ていかないと
本当に業界として成り立っていかない、そんな危機感を持っています。
日本の人口も、飲む人もどんどん減るばかりですから……。
海外を見据えたお酒造りをどんどんしていかなきゃいかんと思ってますね」
オーナーや番頭の十代さんも同じ思い。かくして新生文本酒造は
新たなメンバーで、新しい日本酒造りのチャレンジを始めたのです。
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老朽化した酒蔵の復旧工事を皮切りに、
地元の米、水、風土と日々向き合って完成した酒のひとつが、
〈純米大吟醸 【火入】 “SHIMANTO”BLUEラベル alc.16〉です。
四万十町産の仁井田米(にこまる)で醸しています。
容器に“スパウト”を採用したのも大きな特徴。
ゼリーや健康飲料にもよく使われるパッケージです。
「瓶だと重たいし冷蔵庫でスペースをとりますよね。
でもスパウトなら寝かすのも縮めるのも簡単。
くるくると丸めれば瓶より捨てやすいので好評ですよ。
いろんな方に手にとっていただく機会が増えて『スパウトの良さ』を
お客様に実感していただけるとうれしいですね」(番頭の十代さん)
廃棄費用が安くはない瓶は、ペットボトルと比べると
リユース・リサイクルが進んでおらず、瓶不足は全国的な課題。
ビニール製のスパウトは「燃やすゴミの日」に出せる自治体も多く、
解決策として注目されています。
『酒づくりは毎年が、1年生だ』なんて言葉もありますけど、
四万十町に移住してからは、よりそれを実感してます。日々勉強です」
と石川さんは話します。
「たとえば、お酒に使っている四万十町産の『仁井田米』は、
その年の気候によって出来が全然違うし、
より厳密に言うと農家さんごとにも性質が変わる。
柔らかな四万十川の伏流水は酒造りにとてもよい水なのですが、
同じ酵母を使ったとしても、水に含まれるミネラル成分が変わると
発酵の具合も変わってくる……正直、最初はどうしようかと頭を抱えました。
常に気は抜けません」(石川さん)
番頭の十代さんは、「水と米と麹(こうじ)、日本酒の材料は極めて少ないのに、
その味は造る人、場所、年度によって千差万別、
日本酒造りは本当に魔法のようです」と話します。
酒蔵に併設する日本酒ペアリングBAR・お酒やさんでは、
蔵オリジナルの日本酒や地元産の食材を使った食事を楽しめ、
気に入ったお酒を併設の売店で購入することもできます。
また事前に予約すれば、酒蔵の見学(有料・飲み比べなどの特典付き)も可能です。
店内のバーカウンターで、石川さんたちの試行錯誤の結晶を
「飲み比べセット」で一度にまとめて体験するのもオススメ。
取材時の飲み比べセットを紹介すると……
ストロベリーのような甘い香りと米の甘さが心地よくも
後味スッキリな清酒〈HANAYAGI〉、
生原酒ならではの深さ、フレッシュな香りを楽しめる
純米大吟醸〈SHIMANTO 生原酒〉、
酵母が生きている自然なシュワシュワ感が
普段日本酒を飲まない人にも好評な純米大吟醸〈霧の里 にごり生原酒〉など、
どれも個性的な味わいで驚かされます。
酒の肴は、岩本寺門前の〈和菓子 松鶴堂〉が
蔵の酒に合わせてつくったオリジナルせんべい。
味噌味と醤油味の2種類が「飲み比べセット」を注文するとついてきます。
旅人にとってもうれしい地元食材「四万十ポーク」を使った
生姜焼きやとんてきなど四万十町の味を堪能できるメニューがそろっているので、
ぜひお腹も満たして帰りたいところ。
もしかしたら、たまたま隣に座った「人好きで、酒好きで、フレンドリー」な
高知県民やお店のスタッフと予期せず盛り上がれるかもしれませんよ。
四万十町・窪川地域を初めて訪れたときの石川さんのように。
都会へ帰っても、日本酒を飲むと取材のときの十代さんの言葉を思い出します。
「かたわらで酒造りをみていると、日本酒は丁寧な手作業でつくられていて、
職人たちの心意気みたいなものが込められているんだと実感しますし、
自分たちの酒蔵だけでなく、よその酒蔵のお酒もひとつひとつが尊く大切に思えてきます」
筆者は高知の四万十町を旅してからというもの、
いろんな土地の日本酒を口にするたびに、
この酒の故郷はどんな場所だろう、いつかそこへ旅できるだろうか?
とふんわり思いを馳せるようになりました。
「どっぷり高知旅キャンペーン」の特設サイトでは、
オススメの旅先や旅のスタイルの提案などを随時発信中です。
新年の旅は、高知においしいお酒探しの旅にでかけてみては?
information
文本酒造 fumimoto brewery
*価格はすべて税込です。
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