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posted:2024.11.27 from:高知県高岡郡四万十町 genre:旅行
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writer profile
Yuria Jo
城リユア
じょう・りゆあ●大分県出身。出版社の情報誌編集部などを経て独立。旅やライフスタイルについて執筆。ニュースメディアでインタビューやノンフィクション取材、旅メディアで動画制作も担当。趣味は飲み歩き。
高知県といえば坂本龍馬像がたつ桂浜や仁淀川ブルーなどの
有名観光地が思い浮かびますが、
今回はディープな旅先、四国最長の四万十川(しまんとがわ)近くにある
四万十町を訪れてみました。
本流に大規模なダムがないため「日本最後の清流のまち」とも呼ばれるこの地には、
1300年の歴史をもつ古刹〈岩本寺(いわもとじ)〉があります。
お遍路さんが巡る「四国八十八ヶ所霊場」
37番目の札所(ふだしょ)として知られています。
門をくぐると、お寺とは一見不釣り合いなポップ・アートが目に飛び込んできました。
「LOVE & PEACE」をテーマに、親しみとユーモア溢れる表現で注目を集める
湘南出身のアーティスト・SHETA氏のイラストです。
〈COACH〉や〈STAR WARS〉とのコラボ、ミュージシャンのCDジャケット、グッズなどの
イラストを手がける注目のアーティストの作品が、なぜお寺に?
聞けば、境内のみならず四万十町の6か所に
彼のオリジナルアートが点在し鑑賞できるとのこと。
朗らかな笑顔で出迎えてくれたのは、
室町時代から数えることなんと31代目住職の窪博正さん。
斬新な旅の取り組みにチャンレンジしている四万十町のキーパーソンです。
〈岩本寺〉がお遍路の札所、つまり空海(弘法大師)ゆかりの
仏教寺院となったのは平安時代。
中世に一度廃寺したものの室町時代に窪さんのご先祖さまが引き継ぎ、
長い月日が流れていまに至ります。
隣の札所(ふだしょ)から距離があるため、
昔から数多くのお遍路さんたちが宿坊として旅の疲れを癒やしてきました。
「お寺をより親しみやすくアピールできる策を探していたときに、
当時人気に火がつく直前だったSHETA君をご紹介いただき、
作風がぴったりでいいんじゃないかなとお願いしました。
実際にお遍路さんをインタビューしてもらい、
そこからイメージしたものを描いていただきました」(窪住職)
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〈岩本寺〉の宿坊9部屋のうち1部屋は、「SHETA ROOM」に変身。
仏様を象徴する白、赤、黄金、緑、紫の5色で彩ったハートのモチーフたちが
楽しげに歩いているように見えるイラストは、見るだけでワクワクしてきます。
「ハートはお遍路さんを象徴しています。人の心が積み重なってお遍路ができていること、
四万十川の水がお遍路さんの心を浄化してくれるさまが表現されています」(窪住職)
「仏様という存在ははるか遠くにいるのではなく、
皆さんの側にいらっしゃるというのが仏教の考え方。
お遍路の最中は仏様が側にいらっしゃるのです。
お遍路さんが歩いた道は、つまり仏様が歩いた道でもあります。
そのことをSHEATA君が素敵なイラストにしてくれました」(窪住職)
ほかにも〈岩本寺〉では斬新な取り組みがたくさん。
宿泊者に向けた「寺サウナ」や、
宿泊者以外のお客さんでもリクエストに応じて希望の場所へと送迎する「寺トゥクトゥク」、
四万十川の浅瀬で行う「水中坐禅」、
各季節ごとに境内で開催し毎回400名以上の来場者を集める「しまんとマルシェ」など、
お寺の枠にとらわれないユニークな体験ができます。
「水中坐禅って意外とリラックスできるんですよ。
穏やかな四万十川は水の流れや揺らぎが一定なんです。
それを身体で感じることで集中力が増して瞑想がはかどります。
天気が良くて寒くない日はお寺で申し込んでもらえれば体験できますので、
ぜひトライしてほしいですね」
「お寺に興味がない人たちにも足を運んでもらうきっかけとなれば」との想いから、
「どこのお寺でもやっていない、ここだけの体験」を常に模索してきた窪住職。
「これによってお寺を訪れるお遍路さんの人数が直接的に増加したわけではないですが、
『変なことをやってるお寺や坊さんがいるから寺に行ってみよう』という
参拝者が増えたなとは感じています(笑)」
実は窪住職がお寺とアートのコラボに着目したのには理由があります。
「1978年に先代の父と母が、本堂の天井を575枚の絵画で彩る『天井絵』を
思い切って始めたのですが、私もそれに大きな影響を受けてますね」
下は10歳から上は80歳まで、プロ・アマ問わず公募で集まった400名の方々が
描いた絵画が、いまも美しく天井を埋め尽くす光景は、圧巻のひと言!
「1978年当時は『お寺にふさわしくない』とめちゃくちゃ批判されましたけど、
いまはまちの名物としてすっかり馴染み、皆さんにめちゃくちゃ褒めてもらえるんです。
いい意味でも悪い意味でも“人間の価値観は時代によって変わるもの”と
子どものころから実感して育ったので、
今回のSHEATA君とのコラボもためらいはまったくありませんでした。
もう少し批判が来るかな? と思ったけど(笑)
お遍路さんたちも想像以上に好意的で……
もっとこうしたら? なんてアドバイスをくれるほどです」
天井絵の本堂は増築予定。そこには黄金に輝く5仏が安置されるという。
「いま日本では仏様をつくれる伝統工芸の職人さんがどんどん減ってきています。
この黄金の仏様は四万十川ヒノキを掘って上から漆を塗り、
最後に金箔を押してつくるのですが、漆のおかげで
仏様の表面が老朽化し剥落しても中身はしっかりと残る。
つまり木を新しい命、イコール仏様として生まれ変わらせるには
漆が鍵になっているんです。
しかし今年は漆塗りが盛んな能登半島の輪島が被災し、
後継者問題はより深刻化しています」
「せっかくならお寺として、日本文化の継承にもひと役買いたい。
だからいま、この技術が1000年、2000年後も残るものにしようと
こだわって仏様をおつくりしているところです。
伝統が消えてしまうのは簡単ですけど……続けることは難しいですからね」
窪住職のように、古きものと新しいものの両方に敬意を払いながら
旅の魅力を創造するユニークな人々に出会えるのも、
ローカルを訪れる魅力かも! そう感じた旅となりました。
「どっぷり高知旅キャンペーン」の特設サイトでは、
オススメの旅先や旅のスタイルの提案などを随時発信中。
のぞいてみればディープな冬旅のディスティネーションが見つかるかもしれません。
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