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捨てられていた魚の皮を革に。
富山県氷見市で生まれた
サステナブルな
フィッシュレザーブランド〈tototo〉

コロカルニュース

posted:2023.4.3   from:富山県氷見市  genre:アート・デザイン・建築

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
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writer profile

Saori Nozaki

野崎さおり

のざき・さおり●富山県生まれ、転勤族育ち。非正規雇用の会社員などを経てライターになり、人見知りを克服。とにかくよく食べる。趣味の現代アート鑑賞のため各地を旅するうちに、郷土料理好きに。

魚1匹ずつで異なるウロコの形がユニークなフィッシュレザー

富山県の北西に位置する氷見市。氷見といえば、ブリを思い出す人も多いはず。
その氷見でブリをはじめとする魚の皮を、
革(フィッシュレザー)に加工するブランドがあります。

魚の皮を革(フィッシュレザー)に加工するブランドがあります。

フィッシュレザーブランド〈tototo〉が販売しているのは、ブリ、スズキ、鯛、
鮭の皮をなめし加工してつくった名刺入れや財布、スマホケースなどです。

ブリのレザー。

ブリのレザー。

フィッシュレザーの最大の特徴は、表面にそれぞれの魚が持つ鱗の形が浮き出ていること。
ほかに例のない素材であることに加え、同じ種類の魚でも、
ひとつひとつ異なる模様のユニークさや、
出世魚のブリを使った製品が就職祝いに向いていると
注目する人が増えてきました。

スズキのレザー。

スズキのレザー。

商品はネット通販のほか、東京やニューヨークのセレクトショップでも販売しています。

製品は使用感をよくするため牛革と組み合わせられています。

製品は使用感をよくするため牛革と組み合わせられています。

実験を繰り返してフィッシュレザーとしてなめす技術を確立

〈tototo〉代表の野口朋寿さん。実家は香川県のお寺だそう。

〈tototo〉代表の野口朋寿さん。実家は香川県のお寺だそう。

フィッシュレザーブランドtototoが生まれたのは、2020年4月のこと。
代表の野口朋寿(のぐちともひさ)さんは、
当時氷見市の地域おこし協力隊のメンバーでした。
というよりも、そもそも野口さんが地域おこし協力隊になったのは、
氷見でフィッシュレザーを開発することも目的のひとつだったのです。

野口さんが、魚の皮を革素材、レザーにすることに興味を持ったのは大学時代。
故郷、香川県の高校でも学んだ漆工芸をもっと学ぶため、氷見市の隣、
高岡市にキャンパスがある富山大学芸術文化学部に進みました。
4年生になった2016年、卒業制作には漆と趣味にしていたレザークラフト、
両方の要素を取り入れたいと考えていました。

漆と牛革、金箔などを組み合わせて作品を制作しながら、興味の方向は素材そのものへ。
自分でも生き物の皮を加工してみたいと考えた野口さんは、
鶏の皮で試してみようとスーパーに出かけました。
富山のスーパーは実に魚が豊富。「魚の皮ってレザーになるのかな」と
1尾のスズキを一緒に買ったことがフィッシュレザーへの入り口となりました。

しかし、そのときは鶏の皮でもスズキの皮でもレザーにすることに失敗。
それから氷見市内で魚の皮からレザーをつくろうとしているNPOの存在を知り、
一緒に実験を繰り返しました。しかし、なかなかレザーとして使えるものにはなりません。

かつて試行錯誤をした魚の皮の数々。魚屋さんに並ぶ魚は、ほとんど試しました。

かつて試行錯誤をした魚の皮の数々。魚屋さんに並ぶ魚は、ほとんど試しました。

動物の皮も魚の皮も、なめすという作業を経て革素材として使えるようになります。
余計な身や毛などを削ぎ取り、水分を乾燥させ、油分を取り除いて繊維だけの状態にして、
さらにしなやかで丈夫にするための素材を染み込ませるなど工程があります。
この過程がうまくいかないと途中で腐敗したり、魚なら魚臭さが残ったりしてしまいます。

金箔と当時のフィッシュレザーを組み合わせた野口さんの卒業制作。

金箔と当時のフィッシュレザーを組み合わせた野口さんの卒業制作。

野口さん自身は、なんとか卒業制作として
フィッシュレザーと漆を組み合わせたベストをつくりました。
そのベストは現在も工房に飾られていますが
「革が下敷きみたいにかたくて、着心地のいい物にはなりませんでした」と野口さん。

大学卒業後は一度富山を離れ、別の勉強をしながら、
ひとりでフィッシュレザーの実験を繰り返しました。試行錯誤を重ねた結果、
加工技術を確立させることに成功します。
しかし、その頃、氷見で一緒に実験をしていたNPOの活動が休止することに。
「ひとりでも氷見でフィッシュレザーの活動を続けられないかな」と考え始めます。
フィッシュレザーの商品と並行してできそうだと、
氷見市の地域おこし協力隊に参加することにしました。

氷見に住みながら、地域おこしとフィッシュレザーの活動を両立させ、
任期3年の2年目だった2020年に商品化にこぎつけたのです。

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魚は50パーセントほどが捨てられているという現実がフィッシュレザーづくりを続けさせた

tototoでは、「生命の恵みを無駄にしない持続可能なものづくり」を
コンセプトに掲げています。

もらってきた魚の皮は、その日のうちに加工プロセスに。

もらってきた魚の皮は、その日のうちに加工プロセスに。

「僕がフィッシュレザーを仕事にしたいと考えたのは、
魚屋さんで捨てられる魚の皮が予想以上に多かったからです」

フィッシュレザーの材料は、ほとんどを氷見市内の魚屋さんが
刺身をつくるときなどにひいた皮をもらっています。
氷見市内にある小規模な魚屋さんでも、1日分としてバケツいっぱいの皮をもらうのだとか。

「魚は、刺身のように身だけ食べる場合、皮以外にも頭や骨、内臓など、
1尾のうち50パーセントほどが産業廃棄物として捨てられています。
初めて魚屋さんに皮を回収しに行くまで、その事実に気づいていませんでした」

加工の過程でも、環境負荷への関心が高まりました。

可能な限り環境負荷の少ない素材を選んで加工

「レザーをつくる大きな工場では、なめす作業に化学薬品が使われることがあります。
僕が勉強していた漆は木の樹液で、道具も木のヘラなど自然のものばかりです。
漆のものづくりと比べると、革の加工はこんなにも化学的なことをするのか、と」

tototoでは、可能な限り環境負荷の少ない素材を選んでいます。
例えば、もらってきた皮を乾燥させるためには塩に漬け込み、
その後油分と鱗を取るときにはバケツ型の洗濯機に入れて、
エコ洗剤、漂白剤を使用。
丈夫にするために染み込ませるタンニンは、
ミモザの仲間から取られた植物性を使っています。

こういった作業が終わるまでは約1か月もかかりますが、
「無理せずにつくりたい」と野口さんは
今後も環境を意識したフィッシュレザーを続けていこうとしています。
今のつくり方になるまでには実験の過程で化学薬品も使い、
吸い込んでしまったり、肌荒れしたりと、
身をもって化学薬品の影響を体験したことも現在の考え方につながりました。

タブレットケースとスマートウォッチのベルトも。

タブレットケースとスマートウォッチのベルトも。

当初はブリ、鯛、スズキの3種類で革製品をつくっていますが、その後に鮭が加わりました。
最近では、tototoの存在を知った九州の水産加工会社から
ふぐのフィッシュレザーはつくれないかと問い合わせを受けて実験したり、
チョウザメの皮を試したりと、今後も魚の種類が増えるかもしれません。
また、洋服や靴、家具などに使いたいという要望もあって、
素材として販売することも少しずつ増えてきました。

素材として販売することも少しずつ増えてきました。

今もなお、ほとんどが捨てられている魚の皮。
tototoの活動をきっかけに、
新たな素材としていろいろな場面で活用されていくのかもしれません。

information

tototo(トトト)

価格:〈Card Case〉33000円、〈Half Wallet〉65000円、〈Watch Belt〉19800円

Web:tototo公式サイト

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