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図書館の王道2.0へ
〈神奈川県立図書館本館〉オープン

コロカルニュース

posted:2022.10.11   from:神奈川県横浜市  genre:旅行 / アート・デザイン・建築

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
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writer profile

Saori Nozaki

野崎さおり

のざき・さおり●富山県生まれ、転勤族育ち。非正規雇用の会社員などを経てライターになり、人見知りを克服。とにかくよく食べる。趣味の現代アート鑑賞のため各地を旅するうちに、郷土料理好きに。

約70年前に前川國男が手がけた建築に敬意を込めた新しい図書館

2022年9月1日、神奈川県横浜市西区に
〈神奈川県立図書館〉の新しい本館が開館しました。

これまで図書館は、
「無料で本を借りられる場所」と認識されてきました。
しかし近年、社会の変化に伴って、教育やコミュニティをも担う場所へと
全世界的に変化しています。

〈神奈川県立図書館〉の新しい本館が開館しました

Photo DAISUKE SHIMA

新しくオープンした〈神奈川県立図書館本館〉は4階建ての建物。
県立図書館が担う、膨大な資料の保存という役割を果たしつつ、
訪れる人にとって居心地がよく、本を読むことに没頭できる空間であることを目指し、
図書館のあり方を熟知した司書や、建物の設計者、デザイナーをはじめ
様々な立場からの意見交換を積み重ね、
細かなところまで設計やデザインが行われました。

前川國男が手がけ、1954年に開館した〈神奈川県立図書館〉。ホローブリックという穴が空いたレンガを使っているのが外観の特徴です。

前川國男が手がけ、1954年に開館した〈神奈川県立図書館〉。ホローブリックという穴が空いたレンガを使っているのが外観の特徴です。

これまで神奈川県立図書館として使われてきた建物は1954年に開館したもの。
日本近代建築の歴史に大きな足跡を残した建築家・前川國男が設計し、
70年近くにわたって神奈川県民に親しまれてきました。
建物は改修後、〈前川國男館〉として保存・活用されることになっています。

新しい神奈川県立図書館本館のプロジェクトは2018年に本格スタート。
参加したクリエイターたちは、それぞれの分野で
前川國男が手がけた神奈川県立図書館への敬意を込めています。

入り口そばにはギャラリー。

入り口そばにはギャラリー。

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神奈川県教育委員会顧問としてプロジェクトを担当したのは
ブックディレクターの幅允孝氏。

「図書館を『ひらく』ことで来館者を増やしていくだけでなく、
『しっかりと本と向き合い、それを読み生かす』という読書の本義に
新しい視点を差し込みながら、未来の図書館の王道をしっかりと体現すること」を
「図書館の王道2.0」と言い表し、プロジェクトにおいて大切にしたといいます。

建築意匠設計を担当した石井秀明氏は、
前川國男建築のエッセンスをどう神奈川県立図書館本館へと連続させ、
継承させていくかが大きなテーマだったと語ります。
石井氏が前川國男建築から継承したもののひとつに、
館内への直射日光を防ぎつつ空間に開放感をもたらす工夫があります。
1954年開館の県立図書館ではホローブリックという穴あきレンガを用いているのに対し、
石井氏は有孔木パネルで同様の効果とデザインを作りました。

直射日光から資料を守る有孔木パネルを設置。

直射日光から資料を守る有孔木パネルを設置。

ロゴマークのデザインや館内のサイン計画を行ったのは
アートディレクターの木住野彰悟氏。
やはりホローブリックをモチーフとして文字に取り入れて
ロゴマークを作成しました。

館名を示したサイン(右)。文字の一部にホローブリックのモチーフを取り入れています。

館名を示したサイン(右)。文字の一部にホローブリックのモチーフを取り入れています。

家具の編集を担当した〈E&Y〉の松澤剛氏は、
70年前に水之江忠臣が
前川國男の手がけた〈神奈川県立図書館〉のために椅子をデザインし、
それを〈天童木工〉が製作した、というストーリーを重要視しました。
そのため今回、新たな家具の製作にあたって、
中坊壮介氏と二俣公一氏というふたりのデザイナーに、
新しい〈本館〉のためのオリジナル家具のデザインを依頼。
そして、〈E&Y〉と同じく家具メーカーである〈天童木工〉に
家具製作の一部を依頼するという異例の取り組みを行いました。

1階の閲覧スペース。閲覧用の机と椅子は中坊壮介氏のデザイン。〈天童木工〉による製作。

1階の閲覧スペース。閲覧用の机と椅子は中坊壮介氏のデザイン。〈天童木工〉による製作。

中坊氏は成形合板を使った閲覧用の椅子とテーブルをデザインしました。
本を読むことに集中できるよう、体をしっかり支える丈夫なつくりでありながら、軽やかな印象のものになっています。

二俣氏は、ラウンジチェアやローテーブルを手がけました。
ラウンジチェアは、シンプルなデザインながら、リラックスした空気感を感じられるものになっています。

二俣公一氏によるラウンジチェアとテーブル。椅子に体を預けてリラックスしながらの読書が可能。

二俣公一氏によるラウンジチェアとテーブル。椅子に体を預けてリラックスしながらの読書が可能。

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4階建ての館内にはそれぞれのフロアに特徴ある機能が備えられており、
来館者は本を読む時間の過ごし方を選べるようになっています。

1階には閲覧席やリフレッシュエリアがあります。
閲覧席は、背筋を伸ばして読書に集中できるチェアとロングテーブルのある空間と、
ゆったりとしたラウンジチェアが設置されたリラックスして
本を読むことのできる空間とが隣接しています。

2階の静寂読書室。他の人と目が合うこともほとんどない。

2階の静寂読書室。他の人と目が合うこともほとんどない。

2階にはパソコンなどが使えない読書に特化した静寂読書室も。
まさに没頭して本と向き合うことができます。

ラウンジチェアにオットマンが組み合わせられたザ・リーディングラウンジから、オープンテラスを臨めます。

ラウンジチェアにオットマンが組み合わせられたザ・リーディングラウンジから、オープンテラスを臨めます。

3階のザ・リーディングラウンジは
一部の椅子にはオットマンも組み合わされ、
外を眺めながら過ごすことができる贅沢な場所。

そして図書館としては珍しく
外でも本が読めるオープンテラスが設けられています。
中坊氏によるワイヤー素材を使ったチェアとテーブルが置かれています。

1階には〈猿田彦珈琲〉が入居。
コーヒーや軽食、グッズを販売するライブラリーショップを運営しています。
軽食やコーヒーと共に休憩できるリフレッシュエリアも設置されています。

今の時代に即した機能と歴史への敬意がこもった神奈川県立図書館本館。
前川國男が手がけた前川國男館に引けを取らず
将来にわたって時代に応える図書館として長く愛されそうです。

information

map

神奈川県立図書館本館(かながわけんりつとしょかんほんかん)

住所:神奈川県横浜市西区紅葉ケ丘44

Tel:045-263-5900(代表)

Web:神奈川県立図書館本館特設サイト

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