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posted:2022.6.7 from:大分県 genre:食・グルメ
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writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
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写真:高村瑞穂
2022年5月、〈HAKKO RESTAURANT vol.1〉が、
東京・日本橋口前に昨年オープンした〈TOKYO TORCH 常盤橋タワー〉3階の
〈MY Shokudo Hall & Kitchen〉で開催されました。
料理人と発酵のプロフェッショナルをゲストに、
各回のテーマに合わせたオリジナルの料理を味わいながら、
食の課題を知り、学ぶ、一夜限りのイベント〈HAKKO RESTAURANT〉は、
三菱地所株式会社が主催する「HAKKO MARUNOUCHI 2022」のプログラムのひとつ。
第1回のテーマは「海辺の風土が育む料理とものがたり」です。
昨年の9月より日本財団 海と日本プロジェクトの一環としてスタートした、
「食」と「ものがたり」を通して海を伝えるウェブメディア『海のレシピプロジェクト』
(以前コロカルで紹介した記事はこちら)
とコラボレーションし、大分県の「海」と「発酵」を軸にした学びの場が設けられました。
山と海がすぐそばにある大分。会場では、その恵みを生かした、
〈八雲茶寮〉(東京・目黒区)総料理長・梅原陣之輔さんによる、
「里山里海」をテーマにしたショートコースが提供されました。
海に想いを馳せるコースをいただきながら、
会場では、創業333年を迎えた大分県佐伯市のこうじ専門店〈糀屋本店〉の
浅利妙峰さんをオンラインでつなぎ、
梅原さん、『海のレシピプロジェクト』編集長・青木佑子さんによるトークイベントを開催。
「里山里海」がテーマであることもあり、
登壇者からは、「山と海のつながり」を教えてくれるエピソードがいくつも聞こえてきました。
「今日は里山里海がテーマということで、
海のものに加え、コースには山と海のつながりを感じてもらえる
原木しいたけを取り入れました」と梅原さん。
瀬戸内海に面し、海の幸に恵まれる大分県は、
源泉数・湧出量ともに日本一の「おんせん県」でも知られ、
トンネルの数が日本一と山の資源にも恵まれた地域。
乾しいたけの生産量は日本一で、原木しいたけの栽培に欠かせないのが、
原木となるクヌギの木です。
クヌギ林の栄養分を含んだ土壌が里の田畑を潤し、
海へと流れ、海を豊かにしている——。
「クヌギの森を守ることが海を守ることにもつながっているんですね」
と梅原さんは話します。
佐伯市の海辺に店を構える妙峰さんは、
かつてこの地を治めていた毛利の殿様が、
「山が豊であるから海が豊である。だから山を守らなければいけない」と、
「治山治水」を掲げていたことを教えてくれました。
「海辺に住む私たちも、海だけではなく、山も大切にしています。
山から流れてくるプランクトンが豊富に含まれた土から
海が豊かになっていくと考えているんですよ」
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リアス式海岸という地形により、魚種が豊富なことで知られる佐伯市では、
家庭でも魚を釣り、捌き、保存する文化が育まれてきました。
妙峰さんも子どものころ、お父様とよく釣りに行ったのだと言います。
「楽しくて、小さな魚までも釣っていました。
そうすると、『全部いただきなさい』と父が捌くことを教えてくれたんです。
魚にも私たちと同じように命がある、その命を絶って帰ってきたのだから、無駄にしてはいけない。
与えられた命をいただいて、自分たちの命を輝かせるのだということを、
教えたかったのだと思います」
新鮮なうちはお刺身、翌日は甘口の醤油だれに漬け込む「りゅうきゅう」、
その後も、煮付けにしたり、卵をすり身で包み揚げる「くじゃく」にしたり、
「ごまだし」という調味料をつくったり、スープにしたり、骨を油で揚げてせんべいにしたり……と、
頭の先から尻尾まで大切にいただいてきました。
「ごまだし」は佐伯市の一部で食べられている、
焼いた魚とゴマ、醤油、みりん、砂糖を合わせてつくる調味料。
「茹でたおうどんにのせてお湯を張るだけでおいしいうどんができる、
お出汁がいらない調味料です。炒飯やお茶漬けに入れてもおいしいですよ」と梅原さん。
「多く水揚げされる時期にたくさん獲って、
生活の中で保存してきた、ごまだしは、海の都合に合わせた豊かな食のひとつですよね」
生活環境に合わせて育まれてきた保存文化は、その土地その土地でさまざま。
ごまだしも佐伯市の一部のみに伝わり、
梅原さんの故郷・海から離れた日田市では、塩サバや塩アミなど塩蔵文化や、
「タラオサ」と呼ばれる、干したタラの内臓をお盆に食べ、
先祖を敬う文化が残っていると言います。
トークの最後に話題に取り上げられたのは、
温暖化や流出するプラスチック問題など、耳にはしているものの、
身近に感じることが少ない海の環境の変化。
梅原さんも、シェフたちによる、
持続可能な海を目指した勉強会〈Chefs for the Blue〉を通じて、
「本当の情報」に触れることができたと、「知る機会」の重要性を話します。
「今日のような会を通じて、楽しく知ったり、
美しい海を見ることで、自分ごとにする、
その中で正しい選択を私も見つけていきたいと思っています」
楽しいトークとおいしい料理、美しい音楽を通じて、
海のものがたりが自分ごとになるスペシャルな一夜。
心地よい空間の中に、海に囲まれた日本で生きる私たちへの選択のヒントが散りばめられていました。
〈海のレシピプロジェクト〉では、今後も取材地域を増やしていくほか、
代官山の〈クラブヒルサイド〉にて〈海の読書会―Listen to the Voice of the Sea 〉をスタートします。
〈EAT & LEAD〉による〈HAKKO RESTAURANT〉も、テーマを変えて開催していく予定です。
最新情報は〈海のレシピプロジェクト〉、〈EAT & LEAD〉のウェブサイトをチェックしてください。
information
海のレシピプロジェクト
Web:海のレシピプロジェクト
Web:日本財団 海と日本プロジェクト
information
EAT & LEAD
Web:EAT & LEAD
information
HAKKO RESTAURANT vol.1(終了)
テーマ:海辺の風土が育む料理とものがたり
日時:5月12日(木) 18:30~20:00
会場:TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F MY Shokudo Hall & Kitchen
ゲスト:梅原陣之輔(八雲茶寮総料理長)、浅利妙峰(糀屋本店)、青柳拓次(音楽家)
主催:三菱地所株式会社
企画協力:日本財団 海と日本プロジェクト、海のレシピプロジェクトほか
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