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posted:2021.11.16 from:青森県八戸市 genre:旅行 / アート・デザイン・建築
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writer profile
Yuri Shirasaka
白坂由里
しらさか・ゆり●神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、自然のなかで遊びながら、ラジオで音楽をエアチェックしたり、学級新聞を自主的に発行したり、自由な土地柄の影響を受ける。映画館でのバイト経験などから、アート作品体験後の観客の変化に関心がある。現在は千葉県のヤンキー漫画で知られるまちに住む。『WEEKLYぴあ』を経て、97年からアートを中心にライターとして活動。
撮影:阿野太一
いま世界の美術館では、文化遺産を収集・保存・展示するだけでなく、
対話のための空間が求められています。
そんな世界の変化にいち早く応える美術館が、青森県八戸市に誕生しました。
「種を蒔き、人を育み、100年後の八戸を創造する美術館
出会いと学びのアートファーム」をテーマとし、
2021年11月3日にリニューアルオープンした〈八戸市美術館〉。
「もの」としての美術品展示を中心とした従来の美術館とは異なり、
アートを介した人の活動に焦点を当て、
「もの」や「こと」を生み出す新しいかたちの美術館です。
前身である旧八戸市美術館は1986年から約30年間活動し、
元税務署を改修した建物の老朽化や展示・収蔵機能の不足から、
2016年に新美術館建設推進室が設置されました。
八戸市では、すでに2011年から活動している〈八戸ポータルミュージアム はっち〉や
〈南郷アートプロジェクト〉など「アートのまちづくり」が進められてきました。
そのような流れのなか、同館建設アドバイザー兼運営検討委員会委員を務めた
建築家・佐藤慎也さんが、新しい八戸市美術館の館長に就任。
多様な人々が活動し、新たな文化を創造する美術館として、
八戸市全体の活性化にもつながる第一歩を踏み出しました。
11月2日に開催された内覧会。手前が佐藤慎也館長。その隣が、開館記念『ギフト、ギフト、』のディレクター、吉川由美さん。
美術館では、江戸末期〜明治の絵師・橋本雪蕉、
現代美術家・豊島弘尚などの八戸ゆかりの作品を中心に、
棟方志功、舟越保武といった著名作家の作品など、
約3000点のコレクションを収蔵しています。
全面建て替えとなった建築は、
西澤徹夫建築事務所・タカバンスタジオ設計共同体が手がけました。
八戸の文化資源を糧として拾い上げ、調査研究することで実らせ、
新しく価値づけすることで育て、そして誰でもアクセスできるかたちに
収穫=展示・収蔵する。市民や美術館スタッフ、アーティストが
互いに学び合うために、大きく2種類の空間がつくられました。
そのひとつは、同館を象徴する「ジャイアントルーム」。
エントランスに入ってすぐに3層吹き抜けの巨大空間が広がり、
進行中のプロジェクトのプロセスなどが見られます。
9メートルのカーテンによる間仕切りや家具で自在に空間をつくることもでき、
複数のグループが話し合ったり、イベントを行ったりと、
同時多発的にさまざまな活動を行えます。
面積約834平方メートル、天井高約17メートルの「ジャイアントルーム」。床にレールがあり、用途に応じて自由に区切って使える。(撮影:阿野太一)
もうひとつは、展示や制作などの機能を備えた「個室群」。
展覧会を行う「ホワイトキューブ」、
コレクションを展示する「コレクションラボ」、
映像展示に適した「ブラックキューブ」、
パフォーミングアーツや展示、講演を行う「スタジオ」などが、
ジャイアントルームに面しています。
これらの部屋を自由に組み合わせて使うこともできます。
また、アーティストとの制作活動に取り組むなど、
美術館活動に主体的に関わる人を「アートファーマー」と呼び、
美術館とともに企画をつくり、地域の新しい価値観を生み出す
市民や団体、教育機関、企業などを「共創パートナー」と呼びます。
美術館広場からも、ガラス越しに活動の様子が眺められます。
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開館記念展は、八戸ポータルミュージアム はっちでも
文化事業のディレクションを担当した
アートプロデューサーの吉川由美さんをディレクターに迎え、
八戸が誇る「八戸三社大祭」を出発点として企画。
〈KOSUGE1-16〉、大澤未来さんら9組のアーティストの作品と、
共創パートナー〈八戸クリニック街かどミュージアム〉の
浮世絵コレクションからなる展覧会に、
向井山朋子さんによるパフォーマンスプロジェクトを加えて構成されました。
例えば、八戸では、お年寄りから子どもまでが山車づくりに参加することで、
世代を超えて祭りにまつわる技術や精神が受け継がれています。
こうした地域の豊かさを「アート」に重ね合わせ、過去から未来へ、
人から人へと巡る「贈与」=ギフトと捉えて展覧会タイトルがつけられました。
『ギフト、ギフト、』の「、」には、続いていく=「循環」の意味が込められています。
展覧会は、八戸市在住の切り絵作家、
大西幹夫さんが八戸三社大祭300年の歴史を描いた
『八戸三社大祭絵巻』の切り絵とアニメーション映像で始まります。
続いて、写真家の浅田政志さんが祭りを支える人々
「マツトモ(祭りの友だち)」を撮影した写真群からは、
八戸三社大祭の熱気が伝わってきます。
大西幹夫『八戸三社大祭絵巻』展示風景。
浅田政志さんは新作写真14点と市民から集めた三社大祭のスナップを展示。
陶芸家の桝本佳子さんは、山車からイメージを膨らませた
五重塔やイカなどをモチーフとした陶器を展示。
田附勝さんは、八戸発祥のデコトラ(電飾で飾ったトラック)を撮影した写真と
アンドンを展示。なお11月23日には田附さんによるトークがあり、
デコトラが外庭に集合する予定です。
桝本佳子さんによる、海の鳥をモチーフとした半磁のインスタレーション『Blue Birds / Blue Ceramics』。
田附勝さんが撮影したデコトラ写真の展示風景。
江頭誠さんは、三社大祭に使われた山車彫刻を、
市民から譲り受けた柄毛布でつくった花で彩り、新たな命を吹き込みました。
また、美術館を建築した西澤徹夫さん、浅子佳英さん、
森純平さんがリサーチし制作した『八戸文化資源相関図』では、
建築模型やパネルの間に、八戸市美術館の所蔵作品7点が組み込まれています。
江頭誠『おやすみのあと』展示風景。
西澤徹夫、浅子佳英、森純平『八戸文化資源相関図』展示風景。
また、田村友一郎さんは、ジャイアントルームの一角に、
閉店した地方デパートの古びた天井や床をイメージした空間を制作。
その空間内で、デパートの空きスペースの映像と
ギフト包装の手つきを撮影した映像とを上映しています。
暗闇のデパートを探検する映像は、人工的な空間が野生化していくような
ウェットな質感があり、八戸だけではない問題として目を引きます。
オンライン画面を表現した壁に上映。田村友一郎『予期せぬギフト』
今後はアートファーマーの活動も始まり、
変化し続けるアクティブな美術館になりそうです。
また、青森県の5つのミュージアム
(弘前れんが倉庫美術館、青森公立大学国際芸術センター青森、
青森県立美術館、十和田市現代美術館、八戸市美術館)が連携して
国内外に発信するプロジェクト「AOMORI GOKAN」もゆるやかにスタートしています。
いずれも建築が特徴的なミュージアム。
これを機に、青森のアートを訪ねる旅に出てみてはいかがでしょうか?
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