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posted:2021.10.14 from:長崎県平戸市 genre:アート・デザイン・建築
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writer profile
Mayo Hayashi
林 真世
はやし・まよ●福岡県出身。木工デザインや保育職、飲食関係などさまざまな職種を経験し、現在はフリーランスのライターとして活動中。東京から福岡へ帰郷し九州の魅力を発信したいとおもしろい人やモノを探しては、気づくとコーヒーブレイクばかりしている好奇心旺盛な1984年生まれ。実家で暮らす祖母との会話がなによりの栄養源。
長崎県平戸市は、九州の北西部に位置する日本海に囲まれた地域です。
古くから海を通じた大陸交流の玄関口であり、
江戸時代には平戸藩松浦氏の城下で国際貿易港として栄えました。
日本で初めてオランダとの西洋貿易が始まったのもここ平戸。
歴史あるまちで、この秋「平戸×オランダ」をテーマに
〈ART SEEDS HIRADO 2021 -平戸×オランダ 海を越えた芸術祭-〉が開催されます。
〈ART SEEDS HIRADO 2021〉は、10周年を迎えた平戸オランダ商館を中心に、
2か月間にわたって平戸の市街地を巡ってアート作品を鑑賞できるように
会場が設けられています。
まずは平戸オランダ商館からご紹介。
1階は資料館、2階ではインスタレーション作家の
原倫太郎と原游によるアーティスト・ユニットが、
平戸とオランダの歴史を遊びながら学べる〈平戸双六〉を展示。
体験型のアート作品として、大人も子どもも一緒に楽しめます。
さらに平戸オランダ商館を出てすぐ横の広場がパビリオンとなっており、
〈アリイイリエアーキテクツ + オンデルデリンデ〉が手がけた
インスタレーション作品が鑑賞できます。
作品名は『アゴ風の吹く場所』。
秋になると北東から吹く季節風を
地元の人は「アゴ風」と呼ぶのだそう。
アゴ(トビウオ)のやってくる季節と重なることから
そう呼ばれるようになったそうです。
風と共に育まれた豊かな風土を祝す交流の場として、
帆船時代の記憶と共に秋風を視覚化し称える“風の舞うパビリオン”。
ぜひ、吹き抜ける風の姿を目撃してください。
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さあ、平戸のまちを歩いてみましょう。
平戸オランダ商館をスタート地点に会場を巡っていきます。
歩いて数分でたどり着いたのはオランダ塀。
当時の平戸オランダ商館は禁教令の下で建物がすべて壊されてしまったそうですが、
このオランダ塀は当時のまま今も残っています。
こちらではアーティストの山本麻世さんの作品が展示されます。
オランダ塀で展示される作品は、
隠れキリシタンが信仰する中江ノ島では
お祈りをすると聖水が湧き出ると伝えられていること、
さらには母乳が滲み出るイメージでつくられたといいます。
思いもよらぬ方向から光が射したような、
新鮮であり懐かしくもある、不思議な感覚を受けました。
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続いて旧平戸藩松浦家の邸宅の松浦史料博物館へ。
“リリアン編み”された赤いテープに守られるように、
使われなくなった浮きや網が内部に収められているのだそう。
迫力ある、有機的な造形に引きつけられますね。
「平戸の潜伏キリシタンとアニミズムを根底に、
禁じられることで変化を強いられ流動的に姿を変えていく可能性を形にする」。
そんな思いを山本さんは作品のテーマに掲げます。
また松浦史料博物館の敷地奥、
離れの茶室でも作品が展示されています。
オランダ人アーティスト、ケース・ヴァン・レーヴェンによる、
国籍や文化を超越したユニバーサル・ スペース (普遍的空間)を
主題とした、オブジェと砂を用いた立体作品が展示されます。
この茶室の設えや趣が、またなんともいい雰囲気を醸し出しています。
スケジュールが合えば、こちらの茶室でお茶をいただけるとのこと。
詳しくは松浦史料博物館にお問い合わせを。
目的地へたどり着くまでの道のりや、その土地の歴史的な建築と空間、
気候や空気感も合わせてひとつの作品として感じられるのも、
屋外の展示ならではの醍醐味です。
そして商店街に並ぶ〈平戸屋〉に展示されるこは、
写真家・畑直幸さんの『Faith and Ground』シリーズの作品。
密かに自らの信仰対象を祀り、信仰を続けた平戸の風景を
独自の視点で切り取り、その経験を経てつくられたシリーズです。
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〈ART SEEDS HIRADO 2021〉に参加するアーティストは、
オランダにゆかりのある方たちで構成されています。
オランダで美術を学び、オランダと交流ある日本人や
オランダ人のアーティストが、平戸の風土や歴史、
土地や人々の記憶を辿り、作品に落とし込みます。
平戸に1か月滞在して作品を制作した、画家の蓮輪友子さん。
平戸で暮らす人々とオランダに暮らす人々に着想を得て、
絵画と映像を発表します。
「平戸に来たとき、向こうから歩いてきた
高校生たちが楽しそうに笑っていて。『絵に描きたい!』と、
一瞬で心を持っていかれました」と話す蓮輪さん。
そのほか、オランダ滞在時にインスピレーションを受けた
出来事をもとにしたふたつの作品も制作。
鮮やかな色彩が、今にもキャンバスの上で踊りだしそうです。
展示会場は、500年以上もの歴史がある老舗菓子店。
文亀2年創業の〈蔦屋〉の本店〈按針の館〉2階で、
蓮輪さんが平戸で制作した4点の作品や映像が展示されます。
蔦屋では伝統のおいしいお菓子やコーヒーなどが
いただけるスペースがあるので、ここらでひと息するのがおすすめですよ。
そして最後に平戸城へ。
平戸港をぐるっと周り、対岸に向かいます。
平戸城では、グループ展〈X AKI〉と
花岡美緒による作品展示が行われています。
〈X AKI〉とは、アーティストの蓮輪友子がオランダ滞在中に
出会ったアーティストたちを紹介するグループ展。13名が参加します。
オランダのアーティストがどう社会と関わり活動をしているのか、
新進気鋭の作家たちの個性豊かな作品や活動を一挙に紹介しています。
“X AKI”参加アーティスト
AïCHA KLEI
ARASH FAKHIM
BABETTE KLEIJN
BAS VAN DER LINDE
BEATRIZ PELLÉS
GEERT VAN DER SCHAAF
HANAN KLEI
JEROEN GRAS
LAURA GRIMM
RASHIDAH SIMON
SASHA HERMAN
WILLEMIJN CALIS
YIGITHAN -- AKCA
そして平戸城でインスタレーションを行うのは花岡美緒さん。
城壁の狭間(さま)から望遠鏡を使って対岸を覗き見ると、そこには……?
かつての平戸オランダ商館跡地を囲むように、
「ジャガタラ文」から着想を得た旗を立て、
それを平戸城の城壁から覗き見るーー。
そんなスケールの大きな作品を制作した花岡さん。
望遠鏡から見える旗にはどんなメッセージが隠されているのでしょう。
脈々と続く歴史深い港町、平戸。
平戸オランダ商館館長の岡山芳治さんは、
「平戸は異国情緒を感じられるまちです。
教会や世界遺産もご覧いただきながら、
平戸市民の人たちにも観光の方にも優れたアートを鑑賞してもらいたい。
平戸湾を囲むように均等に作品を配置したので、
商店街でおいしいものを食べつつ、
ぜひ歩いて平戸を回ってもらいたいですね」と話します。
訪れて感じたのは、平戸の海を越えたつながりや歴史もさることながら、
運営委員とアーティストたちが芸術祭に向けて一丸となっている姿。
そして平戸のまちの心地よい風、空気感。
平戸のまち散策や観光もたのしみに、
この秋、平戸でしか味わえないアート鑑賞はいかがでしょうか?
information
ART SEEDS HIRADO 2021 平戸×オランダ 海を越えた芸術祭
開催期間:2021年10月1日〜11月30日(会期中無休)
料金:無料(平戸オランダ商館のみ有料:大人310円小人210円)
会場:平戸オランダ商館、松浦史料博物館、平戸城、平戸蔦屋、平戸屋
参加アーティスト:原倫太郎+原游、蓮輪友子、畑直幸、山本麻世、花岡美緒、ケース・ヴァン・レーヴェン、アリイイリエアーキテクツ、オンデルデリンデ
平戸オランダ商館
住所:長崎県平戸市大久保町2477
TEL:0950-26-0636
*価格はすべて税込です。
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