news
posted:2021.9.21 from:青森県弘前市 genre:食・グルメ
〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。
writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
今や世界中にファンをもつ、青森県・津軽地方のおばぁちゃんの味。
〈津軽あかつきの会〉が伝える“津軽伝承料理”が
レシピ本になって発売になりました!
津軽あかつきの会の拠点は、青森県弘前市。
市の中心部にある中央弘前駅から弘南鉄道に揺られて約20分、
石川駅から徒歩約5分の場所にあります。
津軽あかつきの会のメンバー。平均年齢70歳で始まった活動は、現在20~30代にも受け継がれ、約30名で活動しています。右から3番目が代表の工藤さん。(撮影:船橋陽馬)
工藤良子さんをはじめとした農家の女性メンバーが、
地元で暮らすおばぁちゃんを訪ね、
土地に伝わる料理のレシピを聞き書きし始めたのは20年以上前のこと。
当時は工藤さん自身もつくり方がわからなかったと言いますが、
2001年に津軽あかつきの会を立ち上げて以来、
津軽の内陸部に伝わる作物や調理法を調査しながら、
料理教室や予約制の食事会を催す機会を重ね、
200以上のレシピを蓄積・伝承してきました。
予約制の食事会は1食1500円。地元で採れるものをその時期に一番おいしく食べられる方法で調理した料理を味わうことができます。写真はある日の春のお膳。数々の新鮮な山菜料理が並びます。(撮影:船橋陽馬)
春夏には採れたての山菜や自らの畑でつくる野菜、
秋にはキノコ、冬には、発酵・塩蔵(えんぞう)・乾燥といった技術を駆使した
保存食を調理した料理が並ぶ食事会は、県外のみならず海外からも注目され、
多くの訪問を受け入れてきました。
食用菊が彩りを添えるある日の秋のお膳。「自然の色」が鮮やかに並び見た目にも美しい。(撮影:船橋陽馬)
Page 2
津軽あかつきの会が活動する津軽内陸部は、
冬場は降雪や厳しい寒さのために作物を育てることができなかった地域。
海からも離れているため、夏に沿岸部から届く海産物や、
春から秋にかけて収穫した畑や山の恵みを長期保存し、
冬においしく調理する知恵が育まれてきました。
雪が降り積もる津軽平野と、その中心に位置する津軽のシンボル岩木山。冬の寒さが厳しい津軽内陸部ですが、夏は一転温暖で好天が続くため、雪解け水による稲作が盛んで、米を使った発酵食品が多く伝わります。(撮影:船橋陽馬)
誌面では、米や米麹を漬床にする飯寿し(いずし)や三五八(さごはち)漬け、
塩蔵した山菜や、昆布・スケソウダラなど
海の幸の乾物を材料にしたレシピなど、多くの発酵食・保存食が紹介されています。
塩・米麹・米でつくる漬床「三五八」のつくり方や、山菜のアク抜きなど下処理から塩抜きの方法まで紹介されているので、保存食づくりがはじめての人にもやさしい誌面。準備に手間はかかりますが、保存のための過程を経ることでうま味が醸成されるため、春から秋にかけての生食と冬の発酵食、同じ食材で異なるおいしさを味わえるのも保存食をつくる楽しみのひとつです。
初夏が旬の山菜ネマガリダケの混ぜご飯と飯寿しのレシピ。ネマガリダケは、新鮮なうちは天ぷらや味噌汁でいただき、同時に冬に備えて水煮や飯寿しにすることで1年中楽しむことができます。
津軽ならではの食材もありますが、素材の旨みを生かす調理法には、
身近な食材でもアレンジできる料理のヒントが満載です。
雪深い地域で生まれ育った人には、ふるさとを思い出す料理も多いのではないでしょうか。
Page 3
キノコや山菜は、山仕事が得意なメンバーが自ら採ってきたものを調理します。(撮影:船橋陽馬)
本書では、津軽あかつきの会が伝えてきた料理に使われる素材が、
自分たちの畑で育てた野菜・豆類や、山菜・キノコ類などの菜食中心であることにも着目。
健康・美容やサスティナビリティを重視する思想が高まる昨今注目される、
植物由来の食べ物を中心とした食事法「Plant Based」を
100年以上前から実施してきた“津軽伝承料理”は、
「世界の最先端」になっているのではと紹介しています。
ある日の冬の膳。出汁に使う昆布や煮干し、タラやイカなど、一部に海産物は使われていますが、メニューはほとんどが野菜や山菜、豆類などで構成されています。「上の世代の人たちは健康だった」と、固有種も大切にしている工藤さん。伝統野菜の〈大鰐温泉もやし〉や〈清水森ナンバ〉(トウガラシ)・〈毛豆〉(枝豆)など在来種も料理に取り入れ、伝え繋いでくれています。手前中央が温泉水と地熱で栽培する大鰐温泉もやし。(撮影:船橋陽馬)
お米と一緒に炊くことでほんのり緑色になる「えんどう豆ごはん」のレシピ。冬が長い津軽では、春を感じさせてくれるうれしい一品。昆布と豆の旨みをじっくり味わうことができます。
東日本で親しまれている〈ナラタケ〉(津軽ではサモダシと呼ばれる)のレシピも豊富。土地ならではの食材は津軽あかつきの会の季節の膳で味わってもらいたいですね。
初夏の山菜で漬け込む「山菜寿し」のレシピ。ミズ、ワラビ、フキ、ネマガリダケ、身欠きニシン(ニシンの干物)、清水森ナンバなど津軽の味が詰まっています。
本書を開けば、きっと津軽あかつきの会のみなさんに会いに行きたくなる、
つくって食べてみたくなる、そして津軽に伝わる食はもちろん、
自分のまわりの食にも目を向け見直す機会にもなる。
そんなきっかけをくれる一冊です。
コロナ禍にあり、なかなか集まることができない現在は、要望があればお弁当の宅配を行うこともあります。(撮影:船橋陽馬)
最後に本書から工藤良子さんの言葉を引用します。
「本書を紐解いても、わからないことはきっと多くあることでしょう。
そんなときはぜひ、津軽あかつきの会へお越しください。
書物では伝えられないことを直接お伝えします。
年齢も、性別も、国籍も問いません。
本州の北の端でみなさまのご来訪を心よりお待ちしています」
代表の工藤良子さん。食事はもちろん、会のメンバーのみなさんとのおしゃべりも楽しみのひとつです。(撮影:船橋陽馬)
早く会いに行きたいけれど、今はしばし我慢。
コロナが落ち着くまではまずは本書で、
彼女たちが伝えてきた食の物語を味わってみてください。
information
『津軽伝承料理』
著者:津軽あかつきの会
青森県弘前市で、津軽地方の郷土料理と食文化を伝える「伝承料理」活動をしている女性だけの料理研究ユニット。地域でのヒアリングを軸に津軽地方に伝わる伝承料理をレシピ化しアーカイブ。1食1500円で提供する予約制の食事会を毎週数日開催しているほか、青森県津軽地方の観光コンテンツとしても機能している 。20代~80代という多様な年齢層からなる会員数は30名(2021年7月現在)
判型:B5変型 144ページ
定価:2200円(税込)
発行:株式会社柴田書店
information
*価格はすべて税込です。
Feature 特集記事&おすすめ記事