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posted:2021.8.5 from:北海道河東郡上士幌町 genre:旅行 / アート・デザイン・建築
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writer profile
Ai Sakamoto
坂本 愛
さかもと・あい●香川県高松市出身。フリーランスの編集&ライター。建築と食という両極端な2ジャンルが大好物。製麺所(いまは廃業)の孫として、子どもの頃から鍛えられたおかげで、うどんも打てる。
穏やかな水面に、ぽっかり浮かぶようにして建つ白い橋。
湖の水位により大きく見え方が変わることから、
幻の橋とも呼ばれる〈タウシュベツ川橋梁(きょうりょう)〉です。
その姿を撮り続ける写真家・岩崎量示さんが、
直近半年間の記録をおさめた
写真集『タウシュベツ日誌 第3号』の制作にあたり、
クラウドファンディングを開始。
近い将来、崩落すると言われる橋と、
北海道・十勝の雄大な自然が織りなす厳しくも美しい光景が一冊に。
〈タウシュベツ川橋梁〉が完成したのは、1937年のこと。
帯広から北へと延びる旧国鉄・士幌線(しほろせん)の開通に伴い、
数多く建設されたコンクリートアーチ橋のひとつで、
全長130メートル、11連のアーチで構成されています。
建築資材の輸送コスト削減などの関係から、
セメントに現地調達が可能な砂や砂利を混ぜることでつくれるコンクリート製が、
橋の強度を上げるため、
そして鉄道が通る大雪山(たいせつざん)国立公園の景観に馴染むよう
アーチ型が採用されたとか。
しかし1955年、〈タウシュベツ川橋梁〉は
鉄道橋としての役目を終えることになります。
増える電力需要に対応するためダムがつくられ、
その人造湖である糠平湖(ぬかびらこ)の底に沈むことになったのです。
士幌線は湖の対岸へと移設され、橋は湖底へ。
ただひとつ想定と違っていたのは、水位の変化に伴い、
アーチ橋がさまざまな姿を見せることでした。
寒さで電力消費量が上がり、
ダムの水が減る冬は凍結した湖面から姿を現し、
雪解け水が流れ込み、
来る冬に向けて雨水をため始める夏から秋にかけて完全に水没。
1年を通した水位の差は30メートル近いと言われています。
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湖底に沈んでから60年以上もの間、沈んでは現れてを繰り返す“幻の橋”。
2005年から、その姿を撮り続けているのが岩崎さんです。
「地元では、その頃から〈タウシュベツ川橋梁〉は
あと2〜3年で崩れるだろうと言われていました。
ものすごく魅力的なのに、訪れる人もほとんどいない。
当時、埼玉県から糠平に移り住んだばかりで、写真のプロでもない僕が
それでも撮影を始めたのは、崩れていくプロセスを
地元の誰かが記録すべきだと思ったから。
思いの外、橋は長持ちして、気づいたら16年が経っていました(笑)」
〈タウシュベツ川橋梁〉の劣化を加速する最大の理由は
その立地条件にあると岩崎さんは言います。
「夏から秋にかけて完全に水没した橋は、
例年1月には姿を現すのですが、その頃には湖面は完全に凍結。
発電のための放水で1日あたり20〜30センチ水位が下がる際、
氷がコンクリートの表面を削るんです。
また、糠平湖周辺は冷え込みが激しく、
朝夕には氷点下20度以下になることも少なくありません。
橋の内部に染みこんだ水が凍っては膨張し、溶けては流れ出るを繰り返すことで、
コンクリート自体がスポンジのようにスカスカになってしまうんです」
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そう語る岩崎さんが、2020年から取り組んでいるものに
『タウシュベツ日誌』シリーズがあります。
崩落の一途を辿る〈タウシュベツ川橋梁〉の近況を撮った写真集で、
直近半年間の記録がおさめられています。
最新刊となる『タウシュベツ日誌 第3号』では、
2021年3月〜8月の写真を収録予定。
「例年になく湖の水位上昇が早かった今年は、7月半ばの時点で完全に水没。
夏に水没した橋を収録するのは、シリーズ初めてのことです。
また、今回は水中ドローンでの撮影にも挑戦していて、
湖底に沈んだ橋の周囲を魚が泳ぐ珍しい光景も撮ることができました」
同シリーズの制作に関しては、
クラウドファンディングを利用して資金を調達しており、
第3号の募集期間は、8月31日まで。
発行予定は10月中旬頃を予定しており、
もちろん支援者全員に、限定制作の写真集が届けられます。
一度として同じ表情を見せることのない“幻の橋”。
その近況をあなたの目で確かめてみませんか?
information
『タウシュベツ日誌 第3号』制作プロジェクト
Web:クラウドファンディングページ
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