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posted:2021.5.20 from:福島県いわき市 genre:活性化と創生
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writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
福島県の東南端に位置するいわき市。
南端は茨城県、東は太平洋に接し、約60キロの海岸線を有しています。
その海岸部に、江戸時代商港として栄えた中之作港に面し、
当時の古き良きまち並みを残す「中之作・折戸地区」があります。
この地区で、古民家再生などを行う〈中之作プロジェクト〉が、
地域の魅力を伝えるガイドブック『港のある暮らし』を発行しました。
中之作プロジェクトが立ち上がったのは、2011年秋のこと。
目の前に海が広がるこの地区にも、東日本大震災で津波が押し寄せました。
被害を受けた多くの建物が、震災前より進んでいた過疎化の影響もあり、
修復されることなく解体されていったといいます。
いわき市内で設計事務所を営んでいた豊田善幸さんは、
震災前、中之作にある江戸時代の古民家の改修の依頼を受けていましたが、
その所有者の方もまた、津波の被害を受けたことで建物の解体を決めてしまいます。
「手をかければ、まだ生かすことができる。
解体をなんとかくい止めたい。貴重な建物やまち並みを後世に残したい」
と考えた豊田さんは、建物を買い取ることを決意。
ここから中之作プロジェクトはスタートしました。
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中之作港は、江戸時代、磐城平藩が年貢米を江戸へと運ぶ経由地として、
また阿波国(徳島県)より塩を移入し、
現在の福島県の中央部・中通りまで運ぶ「塩の道」の中継地点として栄えた土地。
豊田さんが修復を始めた古民家は、
塩の卸業を行っていた豪商の屋敷だったとされています。
「現存する古い建物は、建物を住み継ぐ意思が受け継がれたから
残されたと思うんです」と話す豊田さん。
修復作業自体を地域の復興のシンボルにして、
使い継ぐ意思を育てようとセミナーやワークショップを開催。
地域住民と一緒に土壁づくりや床の塗装、障子貼りなどを行い、
建物を直しながら、関わる人を育てていきました。
修復に参加したのは1000人以上。
たくさんの人の手が加わることによって、簡単には解体されない、
思いが細部に詰まった力強い建物として命が吹き込まれていった古民家。
約2年半の改修作業を経て〈清航館〉としての活動をスタートします。
清航館がオープンしてからも、地域の人と一緒につくっていく活動は継続。
〈作ってみんかプロジェクト〉と題し、
「大きな鍋が使えるカマドがあれば食のイベントに広がりができる」と、
住民参加でカマド小屋を建設しました。
カマドで蒸したもち米で餅つき大会をしようと、もち米の田植えから収穫、
脱穀まで自分たちで行うプロジェクトも実行します。
使ってみんかプロジェクトでは、旬の魚の料理教室や、
自慢の手料理やお酒を持ち寄り交流する「もちより酒場」など、
この土地の文化を楽しむさまざまなイベントを開催。
豊田さんが決断しなければ解体されていた清航館は、
中之作・折戸地区の交流拠点として浸透し、地域の人たちから愛される場所になっています。
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清船館の改修をきっかけに、中之作プロジェクトでは空き家問題に取り組み、
2019年には〈海が見えるカフェと農園 月見亭〉をオープン。
高台にある築50年の空き家を、約3年かけて改修しました。
空き家・空き地の提供者と移住希望者をマッチングする
〈空き家情報ステーション〉も運営し、
地域交流イベントやリノベーションのアドバイスも行うなど、
中之作・折戸での暮らしをサポートしています。
一軒の空き家をシェアハウス〈コウノヤ〉と名づけ、
住みながらアップデートするプロジェクトも進行中。住人を募集中です。
中之作・折戸地区は、冬は温暖で夏は冷涼と、
1年を通して過ごしやすい気候も魅力。快適で省エネな暮らしができるのだそう。
ガイドブック『港のある暮らし』は、希望者への郵送も行っています。
気になった方は中之作プロジェクト(nakanosakuproject@gmail.com)へ問い合わせを。
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中之作プロジェクト/清航館
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